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パリとベトナム。

216話

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「ということがありまして。結局なにが正しかったのか」

 今日一日の労働を振り返りながら、疑問に思ったことを明らかにしたユリアーネ。下のベッド。案外ここに座るのが落ち着く模様。

 対面の壁に寄りかかりながら、まるで自室かのように自然に振る舞うリディア。勝手に入ってくるのはご愛嬌。

「なるほど。それでユリアーネはなにを提供したの?」

 お互いにゆったりとした寝巻き同士。パジャマパーティーのような感覚。

 別にそこまで悩んでいたわけでもないのだが。ふと、会話のネタとしてユリアーネは選んだこの話題。心の壁はない。

「無難にレーリュッケンを。お店でも人気でしたし」

 おかげで休憩中にいただいた。お土産までくれた。あとでシシーさんに持って行ってもらおう。

 ちなみにレーリュッケンは『鹿の背中』を意味するドイツのショコラーデを使った、パウンドケーキのような形をしたもの。中にはアーモンドの生地が使われており、二層になっている。フランスで一般的かは知らない。

「まぁ。そうなんだろうけどねぇ」

 名前を出されたらリディアも食べたくなってきた。背中に乗るアーモンドスライス。非常に好き。たぶんこの部屋のどこかにあるのだろう。シシーのぶんも含めて。先に食べてしまおうか。

 なにかその言い方に不満を覚えたユリアーネ。また見透かされている気が。

「……なにか?」

「いや、アニエルカならどう考えるかってさ。流石にそこまでは私もわからない」

 他人に無意識に寄り添うことができる彼女なら。どんなスイーツを選んで、どんな紅茶を淹れてくれたのだろうか、ということにリディアも興味はある。きっとギャンブルに強いんだろうな、というその力。やらなそうだけど。

 アニー。その名前が出た瞬間、彼女の笑顔が脳内に浮かび上がる。少し。今のユリアーネには。

「それは……一瞬考えましたが、やめておきました。それよりかは店長さんに聞いたほうがいいかと思って」

 苦しい時もある。なんだか、夜になると。一日の終わりが近づくと。働いている時など、一緒にいるならば問題ないのに。

 うん? とリディアは身を乗り出す。

「どうして? アニエルカに手伝ってもらったほうが早かったんじゃない? 

 こういう時こそ発動する能力。パリに来て初。〈ヴァルト〉とは違ってメニューにないからラッキーなことだろう。

 答えるユリアーネの歯切れは悪い。本心以外にも色々と余計なものが混じっているから。

「……休憩中でしたし、なんとなく、ものすごく真面目な感じな方だったというか、すぐに答えを出してしまってはいけないような……」

 自分にできることはなんだろう。そう考えた時にできることは『悩んでもらうこと』だった。いや、ケーキも間違いではないんだけれども。美味しかったと言ってくれたし。
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