上 下
212 / 220
パリとベトナム。

212話

しおりを挟む
 練乳を入れたとはいえ、元は苦味の強いコーヒー。おそるおそるアニーは口をつける。そして。

「……これ、美味しいっスね! ベトナムを感じます」

 苦味だけではなく、スイーツのような甘さも。砂糖とはまた違う、ガツンとくる甘さだが、不思議とそれが合う。東南アジアの風を感じた気がする。が。

「……ブラジル産の豆なんですけど……」

 今回はベトナムコーヒーではあるが、形式だけで使っているのはユリアーネが一番合うと思ったブラジル産のもの。もちろんベトナムのロブスタもそれはそれで美味しいが、個人的にはこちらに軍配が上がっている。なので使用した。

 その衝撃の答え合わせにアニーは一歩後退する。

「! マジっスか! 農場の主、グエンさんの顔が思い浮かんだんですけど!」

「誰ですかそれは。たぶん主はガブリエルさんとかエジソンさんとか、そんな感じの人だと思います」

 知らないけど。つられてユリアーネも適当な名前を言ってしまう。ブラジルに多そうな。

 ゴクゴクとアニーの喉を通り抜けるコーヒー。半分飲んだところで残りを手渡す。

「それにしても、ベトナムコーヒーって甘いんスねー、コーヒーが苦手な人でもこれならいくらでもいけそうっス」

 そういう飲むスイーツのような。まだ舌の上に感触が残る。経験したコーヒーの中でも最も甘い。が、どこか癖になる。

「本場の味はもっと甘いみたいですよ。エスプレッソにも練乳が付いてきますし、ラテアートで使うミルクも少し違うとか」

 いつか行ってみたいとユリアーネは考えている。ついでにバインミーもセットで。できるだけ現地の食べ方も研究してみたい。

 そうなるとアニーも触発され、世界的な産地を訪れたくなってしまう。

「文化の違いみたいなのも面白いっスねぇ。そっちに姉妹校があればいいのに」

 そして今回の留学のように、できれば自分の懐からの出費でないとなお良し。

 しかしユリアーネはしっかりとそのあたりも注意喚起しておく。きっと知らないだろうから。

「向こうは毎日気温三〇度を超える地域もありますよ。雨季の直前は四〇度とか。湿度も七〇パーセントを超えていて、こちらのような暑さよりも厳しい環境です」

 少なくとも、気温が氷点下になることはないらしい。冬はとにかく寒いドイツ。果たしてどちらが過ごしやすいのか。

 想像して、言葉を失うアニー。暑いよりかは寒いほうが好き。むしろ、寒いと連呼しながら熱い紅茶を飲みたい。

「……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:16,139pt お気に入り:2,119

結婚に失敗しました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:233

受胎告知・第二のマリア

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

バッドエンドから逃げられない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:171

秘密の関係

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:488

【完結】EACH-優しさの理由-

SF / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:2

焔躯迷図

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:0

3度目のチャペルにて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,519pt お気に入り:3

処理中です...