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パリとベトナム。

210話

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 コーヒー豆はアラビカとロブスタの二種が大半であるが、前者は酸味や甘み、香りを楽しむためブラックで飲むことでも多い品種。

 後者のロブスタは香ばしさや苦味、口当たりの良さに秀でている、というのが一般的に知られるところ。ベトナムコーヒーはこちらに練乳を入れる。

「しかし、なんでそんな大冒険したんスかね。ボクとしては楽しみっスけど、最初はなぜ……」

 世界はよくわからないことだらけ。そこが面白いところではあるのだが、とアニーも理解はしている。

 コーヒーに関しては、味はもちろんのことその起こりを調べるのもユリアーネは好む。そこには今回の留学先である、この国も関わってくる。

「フランスの領土であった一九世紀に、ベトナムにやってきたフランス人が、現地のコーヒーの苦さをなんとかしようとした、というのが始まりと言われています。ロブスタ種しかなかったのではないでしょうか」

 当時、冷蔵庫が普及しておらず新鮮なミルクを入手することが難しかった背景もあり、濃縮して日持ちのする練乳であればカフェオレが飲めると考えた、言い伝えられている。なのである意味でフランスが誕生に関わってくる。

 とはいえ、時代も変われば生産するコーヒーも変わってきて、ベトナムはアラビカ種の生産も増え、さらにロブスタの中でも上位のファインロブスタというものも生まれてきている。

 ここからは隣のキッチンに移動。コの字型で収納の多いキッチン。道具を全てワークトップに。

 カフェフィンというドリッパー。アジア系の雑貨店に多く置かれている、多くはアルミ製の『蓋』『内蓋』『カップ』『ソーサー』。フィルターとソーサーには小さな穴がいくつも空いているが、安いものだとこの穴の大きさにバラつきがあるので注意が必要。

 一度、カップとソーサーを温めるためにお湯を注ぎ、捨てる。そして挽いて粉になった豆をカップに入れ、スクリュー式の内蓋で回しながら抑えていく。

「強く抑えてしまうと抽出に時間がかかり過ぎてしまうので、ある程度余裕を持って。そしてここでワンポイントです」

 基本的な淹れ方は同じだが、少し好みによって変化が生じる。こだわりのあるユリアーネは、蓋にお湯をかけ、その上にソーサーと粉の入ったカップを置く。

 なにやら不思議な工程をかませている。興味津々にアニーは真上から確認する。

「蓋に……お湯っスか?」

 小さく頷いたユリアーネ。言いたいことは承知。

「はい。この上にカップを置いて少し待ちます。こうすることで蒸らしの効果を得られるんです」

 粉から炭酸ガスを抜くことで、お湯とコーヒーがしっかりと馴染んで抽出できるようにする『蒸らし』。本来、ドリップコーヒーなどでは上から注ぐのだが、カフェフィンの場合はこういうやり方もある。一分ほど経つと、お湯は全て消えており、準備完了。
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