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蜂蜜と毒。

185話

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 そして、ユンヨンチャーではなくチャムを提供した経緯を、ユリアーネは語り始める。

「……呼び方が変わっても、元気づけてくれるのは変わりませんから。甘いものを飲んで、苦しさや辛さを中和していただけたら」

 それだけの力がコーヒーや紅茶にはある、と信じている。カフェ文化が根付くドイツ。この時間は、ぜひとも大切なものとして続けていきたい。

 コルタード、そしてチャム。甘く、苦く、そして甘い。ララは心に刻んだ言葉を思い出す。

「『自ら苦しむか、もしくは他人を苦しませるか。そうでなければ、恋愛というものは存在しえない』。フランスの作家、アンリ・ド・レニエの言葉よ。もし苦しんでいるのなら、それは恋をしているということ。苦しさだけが、恋を教えてくれるの」

 目の前の可愛い少女にアドバイスを送る。苦しさは必要なもの。そして自分も奮い立たせる。強くなる必要はないのかもしれない。弱いまま、辛くなったらここに逃げるだけ。

 たぶん、自分の力などなくても、この方は進むことはできたんじゃないか、とユリアーネの心は曇る。むしろ、変なアイディアを付け足してしまったような。苛まれる。

「……申し訳ありません、もしかしたら出過ぎた真似をしてしまったかもしれません……」

 だが、ララは心から感謝している。初めて飲んだコーヒーと紅茶。それに勇気付けられたこと。

「逆よ、逆。ずっと辛いなんて私、耐えられないから。だから時々、ここに来て甘さを持って帰るわ。次は練乳入りで。まだしばらく振り向いてくれなさそうだから、ヤケ飲みよ」

 そう、あの子をきっと。私なしでは生きられないくらい依存させてみせる。少し邪気も纏う。

 その背後に黒いオーラのようなものが見えた気がして、ユリアーネは一歩後ろへ。

「お、お待ちしております……」

 そして目を光らせ、ララは立ち上がってユリアーネとの距離を縮める。

「あ、そうだ。一緒に撮るの忘れてたわね」

 まだ撮るのか……と、生気のない顔つきでユリアーネが、ララと並ぶ。と、瞼に温かい感触。そこにパシャリ。

「……ヒッ!」

 突然の口づけに硬直する。背筋がゾクっとした。が、嬉しさもなぜかある。なんで?

 額が触れ合いそうな距離で、妖艶な笑みを浮かべるララ。そのリアクションも心にしまう。

「瞼はかなり人によって感じやすいのよ。ユリアーネさんはそうみたいね」

「……普通こうなりますよ……!」

 まだ心臓がドキドキする。綺麗だ。ただただユリアーネはそんな感想しかでてこない。でも瞼か、もしアニーさんにするとしたら、まずここから……? と、正常ではない脳でシミュレーションした。
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