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蜂蜜と毒。

183話

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「……あの」

 なにか大事なものを失った気がするユリアーネ。ぐったりとしつつも、そもそもの主役のコーヒーを思い出す。

「……なんか他の人に教えるのが嫌になってきた。私だけ保管していたい」

 ひと段落し、撮影した写真を確認しつつ、素材の良さにララは目を細めた。お店のためになるなら喜んでSNSに投稿するが、彼女目当てで男達が押し寄せてもダメだ。いっそ、自分だけのものにしよう。

「それは……いや、それでも、まぁ……」

 やはり恥ずかしさが、時間が経つにつれ昇ってきたユリアーネは、曖昧に承諾する。着たことは損になるが、目の前のお客様に喜んでいただけたなら。胸を撫で下ろす。

「ラスト一枚」

「あっ」

 完全に不意を突かれて、ユリアーネはララに撮影を許す。全世界に公開されないことを安堵し、目を瞑って微笑んだ瞬間。

 撮られる、と緊張していた先ほどまでと違い、普段の表情を捉えた写真。ララは満足のいく結果を手にした。

「こうやって、気を抜いたところが何気に一番よかったりするのよね」

 モデルを務めてきた経験からの技術。自分も過去にやられたことがあった。それがたしかに自分から見ても良かったりする。

 少し、アニーに似ているかもしれない。そんな親近感をユリアーネはララにも感じ取る。畏れ多いが、と前置きしつつ。

「……それでこちらのコーヒーなのですが——」

 やっと数分前の続きに戻ってきた。本番はここから。ディアンドルは店のため。ディアンドルは店のため。少しずつ、馴染んではきた。

「あ、そうだった。ごめんごめん。うん、ミルクティーみたいだけど」

 だいぶぬるまったであろうコーヒー? 紅茶? を、ララは覗き込む。色合いからしてコーヒーではなさそう?

 そしてやっと解説ができる喜びを噛み締めるユリアーネ。なんか色々あった気がする。

「いえ、こちらはコーヒーと紅茶を混ぜ合わせたものになります。最初は驚かれる方も多いですが、美味しいんですよ」

 かつての自分のように。コーヒーばかりであったが、他の見聞が広がると、よりコーヒーの深さを思い知る。

「聞いたことあるかも。たしかユンヨンチャーってやつよね? 台湾かどこかの」

 聞き齧った知識を披露するララ。韓国メイクなんかも勉強しているし、アジアは好きだ。

 小さく手を叩き、肯定するユリアーネ。自分も前まで知らなかったのに。

「お詳しいんですね。そうですね、台湾ではそのように呼ばれています」

「結構、アジアのこととか調べているの。初めて飲むけど、これが」

 カップを手にしようとするララ。どんな味なのか、脳内で紅茶とコーヒーを混ぜ合わせたものを予想する。うん、たぶん美味しい。
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