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必要と不要。
87話
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アニーのシフトも終わり、二人は店の前に駐車しておいた自転車の元へ一緒に向かう。いつも一緒に帰る時のルーティン。たった数日していなかっただけなのに、長いことしていなかったような気がしてくる。それほど色々あった。
「でも、私も謝らなければいけませんね」
自転車の鍵を外そうとしているアニーに対し、街灯と店の灯りに目を向けながら、ユリアーネは小さく溢す。
「? なにをっスか?」
カチャン、という鍵の外れた音を確認し、アニーは振り向いて問いかける。ボクが謝るならわかりますけど、ユリアーネさんも?
その理由をユリアーネは、白い息を吐きながら述べる。
「いつもアニーさんの家に泊まってはいましたが、私の家には呼んでいませんでしたから」
いつもアニーと一緒の時は彼女の家。なんとなく、その流れが決まっていた。自分の家を紹介するのは少し恥ずかしいし、掃除も何日もしていない。そんな都合から、遠ざけていた自分にも、今回の原因がある。平等ではなかったかもしれない。
ユリアーネが戒める姿を見つつ、アニーは自転車に跨った。
「そんなことっスか。気にしないでください。ミステリアスなところもポイントです」
そして、笑う。
一瞬、大きく目を見開いたが、つられてユリアーネも笑う。アニーさんの笑顔を見ると、鏡のように自分も。やっとここに戻ってこれた。
「……今日は私の家に行きましょうか。紅茶はあまりありませんが——」
「いいんですか!? ぜひ!」
間髪入れず、血相を変えたアニーが反射で答える。もう脳内では、家の中で仲良く会話をする姿が思いついてしょうがない。気合いをさらに入れる。自転車があれば、電車に乗らなくてもいける。このまま直接向かう。
「ふふ」
そのやる気に満ち溢れたアニーの動きに、ユリアーネはこっそりと笑う。
ゆっくりと漕ぎ出したアニーだが、この数日のことを思い返し、率直な想いを吐露する。
「でもなんか妙なんですよね、なんでそんなに突っ走っちゃったのか。ユリアーネさんのこととなると、途端に視野が狭くなってるのかも。今思えば、たしかにやりすぎだったかもです……」
反省っス! と、途端に大きな声で宣言。もっと自分ではなく、ユリアーネ中心に考えなければ。全てはこの背中の温もりを、いつまでも感じるために。
その言葉を聞き、ユリアーネはポテっ、とアニーの背中に寄り添う。
「いいんです。私も大切にされてるな、って感じましたから。ありがとうございます」
目を瞑る。より近く感じる気がする。心臓の音、はわからないけど、たしかにここにいる。
「……飛ばしますよ」
意を決したアニーが、大きく呼吸を変える。
そして、ユリアーネも応える。
「はい、お願いします」
自転車の二人乗りは、ベルリンでも違法。バレたら罰金だ。それでも、お互いに通じ合った心を確かめながら、二人は家路を駆け抜けた。
「でも、私も謝らなければいけませんね」
自転車の鍵を外そうとしているアニーに対し、街灯と店の灯りに目を向けながら、ユリアーネは小さく溢す。
「? なにをっスか?」
カチャン、という鍵の外れた音を確認し、アニーは振り向いて問いかける。ボクが謝るならわかりますけど、ユリアーネさんも?
その理由をユリアーネは、白い息を吐きながら述べる。
「いつもアニーさんの家に泊まってはいましたが、私の家には呼んでいませんでしたから」
いつもアニーと一緒の時は彼女の家。なんとなく、その流れが決まっていた。自分の家を紹介するのは少し恥ずかしいし、掃除も何日もしていない。そんな都合から、遠ざけていた自分にも、今回の原因がある。平等ではなかったかもしれない。
ユリアーネが戒める姿を見つつ、アニーは自転車に跨った。
「そんなことっスか。気にしないでください。ミステリアスなところもポイントです」
そして、笑う。
一瞬、大きく目を見開いたが、つられてユリアーネも笑う。アニーさんの笑顔を見ると、鏡のように自分も。やっとここに戻ってこれた。
「……今日は私の家に行きましょうか。紅茶はあまりありませんが——」
「いいんですか!? ぜひ!」
間髪入れず、血相を変えたアニーが反射で答える。もう脳内では、家の中で仲良く会話をする姿が思いついてしょうがない。気合いをさらに入れる。自転車があれば、電車に乗らなくてもいける。このまま直接向かう。
「ふふ」
そのやる気に満ち溢れたアニーの動きに、ユリアーネはこっそりと笑う。
ゆっくりと漕ぎ出したアニーだが、この数日のことを思い返し、率直な想いを吐露する。
「でもなんか妙なんですよね、なんでそんなに突っ走っちゃったのか。ユリアーネさんのこととなると、途端に視野が狭くなってるのかも。今思えば、たしかにやりすぎだったかもです……」
反省っス! と、途端に大きな声で宣言。もっと自分ではなく、ユリアーネ中心に考えなければ。全てはこの背中の温もりを、いつまでも感じるために。
その言葉を聞き、ユリアーネはポテっ、とアニーの背中に寄り添う。
「いいんです。私も大切にされてるな、って感じましたから。ありがとうございます」
目を瞑る。より近く感じる気がする。心臓の音、はわからないけど、たしかにここにいる。
「……飛ばしますよ」
意を決したアニーが、大きく呼吸を変える。
そして、ユリアーネも応える。
「はい、お願いします」
自転車の二人乗りは、ベルリンでも違法。バレたら罰金だ。それでも、お互いに通じ合った心を確かめながら、二人は家路を駆け抜けた。
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