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必要と不要。

79話

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 その内なる葛藤を抱えるアニーのことなど知る由もなく、魂の抜けたカッチャは適当に「あっそ」相槌を打つ。

 ところで、というアニーの疑問。

「カッチャさんが作ったんですか?」

 非常に丁寧に抽出されており、ガサツを極めたようなカッチャにできるのだろうか。当然、心の中だけで言葉にする。

 しかしあっさりとカッチャは否定。

「まさか。あのヒゲ」

「……やっぱいらないっス」

 事実を知り、アニーはグラスを突っ返す。

「あ、作ったのオリバーくんだった」

 間違えた、とわざとらしくカッチャはおどける。

「いただきます」

 コロコロと変わる真実に翻弄されながらも、再度アニーはグラスを引き寄せる。ウルティマツーレ。その名の通り、表面は氷のように。暑い夏に涼を、寒い冬には季節感を運ぶ。珠玉の一品だと言える。両手に持って、その感触を楽しむ。

 そして、今回の騒動の一端をカッチャは突き止める。

「……なんであのおっさんに反発してんの」

 わかりやすく、ダーシャに拒否反応をアニーは見せた。これが原因か? だが。

「してないっス。気のせいです」

 なんのことか、とアニーはしらばっくれる。

「してんじゃん。いいから話してみなって」

 カッチャは食い下がり、そこをどんどんと突いていく。突きながらも、なんで自分はこんなことをやっている? と、一瞬我に帰る。が、ここまできたら、やるしかない。

 このまま続けば、自分にボロが出るかもしれない。早めにアニーは話をすり替える。

「してないっス。それよりもユリアーネさんはどこっスか? いるのはわかってるんです」

 これ以上は、カッチャの問いに答えるつもりはない。心に鍵をかけ、無になる。

 そろそろ限界。カッチャは頭を抱えて、次のフェーズに移ることにした。

「はー……めんどい。オリバーくん、例のものを」

「はい、かしこまりました」

 再度、カッチャはオリバーに指示を送る。予定調和。

「……いつからオリバーさんは従者になったんスか?」

 その息の合ったコンビに、アニーは驚嘆する。どこまで仕込んであるのだろうか。

 その経緯を軽くカッチャは紹介する。

「北欧のテーブルウェアを使いたいって言ったら、喜んで引き受けてくれてね。頼んでないのに淹れてくれたりもして」

 上手く乗せることに成功し、自らの手は汚さずに任務を完遂する。こういう仕事が向いているのかもしれない。
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