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エスプレッソとコーラ。

54話

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 そんな視線の意味を悟ったユリアーネは、カップを置くと、静かに立ち上がった。

「……アニーさんはまだ、私が淹れたコーヒーを飲んだことありませんでしたね」

 いつもアニーが『今のユリアーネに合った』紅茶を選び、淹れる。そのため、アニーが飲む側になったことは一度もない。ユリアーネは『ここだ』と、肝が据わった。

 アニーもつられて思い返すが、たしかにない。自分のぶんは自分で勝手に淹れて飲んでいたため、誰かに淹れてもらうということはなかった。

「……そういえばそうですね。ボクはあまりコーヒーは飲まないですから。紅茶ラブです」

 ふにゃふにゃ、とユリアーネの飲みかけのコップに頬ずりする。ウバのほのかなバラの香り。強めの渋みの中のメントール。どれもが完璧だ。

 予想通りだが、ユリアーネは今日は引き下がらない。コーヒーの良さも知ってもらおう。

「では、こういうのもある、というのをお伝えします。今日は、私が淹れてみせます。美味しいと言わせますよ」

「ユリアーネさんが……ですか?」

 何事か、と驚きの表情をアニーは見せる。自慢ではないが、コーヒーはほぼ飲まない。そんな自分が美味しいって言ったら、たいしたものですよ。

 自信満々にユリアーネが微笑を浮かべる。

「これでも、一応コーヒーについては、それなりに知識があるつもりです。苦い、だけじゃないということがわかるかと」

「はぁ……」

 なんとなく、嫌な予感がアニーはする。これで案外、ユリアーネはドジなところが多い。寝相も悪い。言えないが、あまり期待はしていない。

 そんな全くされていない期待とは裏腹に、当のユリアーネは楽しげに調理を開始する。アニーにいいところを見せたい。

「まずはコーヒーを普通に。エスプレッソがいいですね、豆はバニラマカダミアナッツのフレーバーのものを」

 グラインダーを使い、豆を挽いていく。それなりの音が鳴るので、隣から苦情がこないか心配するが、そもそも隣も同じ学校の生徒。そろそろ起きなければまずいため、そのあたりは無視する。

 アニーがコーヒーをあまり飲まないということで、浅く。基本的に浅く煎れば酸味が強く、深く煎れば苦味が強くなる。そして、エスプレッソには抽出方法が大きく分けて二種類ある。それは『豆の違い』。

「イタリア発祥のイタリアーノ、そしてミルクや砂糖を入れた後でも、風味が落ちないスペシャルティ。この違いで、抽出するグラム量が変わります。ここを間違えると、味が落ちるのでしっかりと合わせます。今回は一六グラム。スペシャルティの場合は二〇ほどでしょうか」

 挽いた豆をポルタフィルターと呼ばれる、ハンドル付きのフィルターで受け止める。ひとつの穴からエスプレッソが落ちるシングルのフィルターと、二つの穴から落ちるダブルがあるが、基本はダブル。豆の量も抽出も変わるので、どちらかに統一するのが普通だ。
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