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ユリアーネ・クロイツァーと珈琲。

40話

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「このテーブルウェアも入るんですか?」

 アニーが何枚か個性的なテーブルウェアを持つ。彼女がお店のお金で買い揃えた可愛い子供達。そんな酷い話が、とオリバーと顔を見合わせて苦笑する。

「当然です。お二人とも、このお店の現状をご存知ですか?」

「ドイツで一番?」

 イエーイ☆ と、アニーがタッチしようとしてくるが、無表情でユリアーネは拒否する。ダーシャから伝えられた、店に関する粗利益などの数字を思い返した。

「全然です。ギリッギリのギリッギリで黒字ですが、ちょっとしたことで赤字にいつ落ちてもおかしくない状態です」

 と、圧力をかけてアニーに迫る。というか、この子は店長でしょうが! と言ってやりたいところをグッとこらえた。まぁ、なんとなくこういう人だとは思っていた。

 それを聞き、目を丸くしてアニーは固まった。思っていたのと違う。

「え、結構お客さん入ってるイメージっスけど。店長もなにも言ってませんし」

「飲食業は文化事業と言われています。土地代と人件費を薄利で賄うには限界があります。雑誌で紹介されるような有名店ですら、かなりカツカツでやっているところがほとんどですから。当然のことなので言わなかった、とかじゃないでしょうか」

 それを聞き、感情のないままアニーは戸棚からマイカップとソーサーを取り出す。さらに持ち運びできる小型IHと、フィンランドのオーパ社製ステンレスケトルに軟水300ml。とりあえず落ち着こう。

「それは存じ上げていますが、この店のテーマは『北欧の心地よさ』ですから、使うところに使わねば、他と差別化できません」

 と、ここまで黙って聞いていたオリバーが反論する。この店の大前提が崩れてしまう。

「え、オリバーさん知ってたんスか?」

 なぜか店長よりアルバイト店員のほうが店の事情に詳しいらしい。ダーシャも人を選んで相談はする。

 しかし、ユリアーネも譲らないところは譲らない。経営者としては正しいが、本人も心苦しいところではある。それでも、潰してしまうよりは、嫌われてでも店を残したい。

「順風満帆に経営できているところなんて少数ですから。うちは大多数と思ってください。削らなければ、テーマもなにも閉店になりますからね」

 実際、テーブルウェアにかかっている費用は、他店より遥かに多い。そして、削っているものは他店に比べても遥かに少ない。やりたいことを好きなだけやっている状態。一度、洗い直して引き締める必要がある。

「難しいところっスねぇ」

 お湯が沸くのをひたすら待ちながら、茶葉を投入するタイミングをアニーは見計らっている。難しい話はダーシャに任せよう。店長権限で。

「人ごとみたいに……」

 少しは店のお金の部分もアニーには考えてもらいたいが、そもそもダーシャはそういった部分を見込んで店長にしたわけではないことは、ユリアーネもわかっている。後先考えず、アニーはやれるだけのことをやって、それを後ろからバックアップするのがダーシャ。きっとそういうことなのだろう。だとすると、彼女にはそのまま天真爛漫に振舞ってもらったほうがいいのか、とも悩む。
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