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スピリトーゾ
145話
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フランスにおいて、ほぼ全ての『道』には名前がある。それがどんな小さく、細く、短いものであろうと、名前があるのだ。大通りを意味するブルバール、街路のリュー、通り抜けのパサージュ、河岸のケ、袋小路のアンパスなど、それぞれにプラスして、人の名前などがついて区別する。
その『道』には、ここランジス市場の道も含まれる。ひっそりとしてはいるが、ずっとフランスの食や花などを支えてきた道だ。
「初めて来たけど、本当に広いのね」
その道を通りながら、レティシアは今更ながらに驚嘆した。絶対に一日では見終わらない。また何度でも、そうシャルルを見据える。
その視線に気づいたシャルルは、ここまでの経緯を整理。
「普通は許可証がないと入れませんからね。今回は父さんのアシスタントってことで無理矢理入りましたけど」
「観光ツアーくらいしかやってないもんなぁ」
やっていても早朝や午前中。学校があれば無理だし、なかなか卸市場に来ようという案も出ない。カフェや映画でまったり。それがパリ。
「それと、この時期はもう花の生産時期ではないので、オランダからの輸入が多いんです。三月くらいになると、もっとたくさん花で溢れかえりますよ」
シャルルの説明通り、オランダは世界最大の花の仲卸国である。生産された花は、一度オランダで値踏みされ、そして世界各地に送られる。フランスで生産した花が、オランダを経由しフランスに戻ってくる、という珍現象もごく自然なことだ。
それに対して、花での地産地消を唱える運動、通称『スロー・フラワー』がアメリカを中心に起こり出した。とはいえ、世界で生産される七割がオランダの会社を経て販売されている。効率の良い物流のシステムを持つオランダに対抗するのはもちろん、容易なことではないが、着実に進んでいるのだ。
見渡す限りの花の現状。シルヴィはキョロキョロと落ち着かない。
「ほぇー、充分すごいけどな」
花は食料。間違ってはいないが、一応シャルルは釘を刺しておく。
「朝食は敷地内のレストランやカフェがあるので、食べないでくださいね」
新鮮な食材。星を持ったフランス中のレストランやも、ここで仕入れることが大半。ちなみに、市場内のカフェのエスプレッソの売上は、フランス国内でトップに位置している。
改めて規模を考えて、先頭を歩くレティシアも提案する。
「さすがに食料品やらなにやら、全部まわるのは無理そうね。花と資材くらいに絞らないと」
「青果棟だけで一〇以上ありますからね。世界最大の市場も納得です」
自身もそんなに来ることはないのだが、来るたびになにか体の奥底から湧き上がるものを、シャルルは感じずにはいられない。いつか全てをまわってみたい。
その『道』には、ここランジス市場の道も含まれる。ひっそりとしてはいるが、ずっとフランスの食や花などを支えてきた道だ。
「初めて来たけど、本当に広いのね」
その道を通りながら、レティシアは今更ながらに驚嘆した。絶対に一日では見終わらない。また何度でも、そうシャルルを見据える。
その視線に気づいたシャルルは、ここまでの経緯を整理。
「普通は許可証がないと入れませんからね。今回は父さんのアシスタントってことで無理矢理入りましたけど」
「観光ツアーくらいしかやってないもんなぁ」
やっていても早朝や午前中。学校があれば無理だし、なかなか卸市場に来ようという案も出ない。カフェや映画でまったり。それがパリ。
「それと、この時期はもう花の生産時期ではないので、オランダからの輸入が多いんです。三月くらいになると、もっとたくさん花で溢れかえりますよ」
シャルルの説明通り、オランダは世界最大の花の仲卸国である。生産された花は、一度オランダで値踏みされ、そして世界各地に送られる。フランスで生産した花が、オランダを経由しフランスに戻ってくる、という珍現象もごく自然なことだ。
それに対して、花での地産地消を唱える運動、通称『スロー・フラワー』がアメリカを中心に起こり出した。とはいえ、世界で生産される七割がオランダの会社を経て販売されている。効率の良い物流のシステムを持つオランダに対抗するのはもちろん、容易なことではないが、着実に進んでいるのだ。
見渡す限りの花の現状。シルヴィはキョロキョロと落ち着かない。
「ほぇー、充分すごいけどな」
花は食料。間違ってはいないが、一応シャルルは釘を刺しておく。
「朝食は敷地内のレストランやカフェがあるので、食べないでくださいね」
新鮮な食材。星を持ったフランス中のレストランやも、ここで仕入れることが大半。ちなみに、市場内のカフェのエスプレッソの売上は、フランス国内でトップに位置している。
改めて規模を考えて、先頭を歩くレティシアも提案する。
「さすがに食料品やらなにやら、全部まわるのは無理そうね。花と資材くらいに絞らないと」
「青果棟だけで一〇以上ありますからね。世界最大の市場も納得です」
自身もそんなに来ることはないのだが、来るたびになにか体の奥底から湧き上がるものを、シャルルは感じずにはいられない。いつか全てをまわってみたい。
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