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第9章

エッチじゃないのに

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恵子と菜乃花は玄関を出ると、道路からすぐに脇の草原へと入っていきました。
菜乃花は最初はおっかなびっくりだったのですが、すぐに堂々と歩き始めました。
「あー、すっごく気分がいいよ、恵子。タイツに覆われた目で見る草原もまるで別世界ね」
菜乃花は歩きながら両手を広げて、日光や風を全身タイツで受け止めています。
「全身タイツで太陽の光や風を受け止めると、何か自然と一つになっているような気がして、すごく気持ちいいわ」
恵子もぐるぐる回りながら喜びを噛み締めています。
「全身タイツ散策、最高よ!恵子、連れ出してくれてありがとう。私一人だったら絶対外に出ようと思わないもん」
「私は全身タイツでもハイウエストタイツでも、その姿で自然の中を歩きたいって思うわ。それが私のありのままの姿だからね」
「恵子らしいわね。私は脚や体だけでなく、顔もタイツで覆われてる姿で歩くだけで幸せよ」
菜乃花は恵子の手をとり、ギュッと抱き寄せます。

恵子と菜乃花は草原から林の中へ入っていきます。
木漏れ日がタイツ越しに幻想的な景色を醸し出します。
二人とも立ち止まり、タイツ越しの景色を堪能しています。
「菜乃花、タイツを通して見る新しい素晴らしい景色だわ」
「本当にそうね。タイツで顔を覆うとこんな素敵な世界があったのね」
そう言うと、二人は激しく抱き合いました。
タイツ胸を重ね合わせて、タイツ手で激しくタイツ体を愛撫します。
そしてタイツ頬を擦り合わせます。

まるで時が止まったかのように二人は長い時間を全身タイツで抱き合っていました。
「恵子と全身タイツで抱き合って、すごく幸せよ。このままずっと全身タイツでいたいわ」
「菜乃花、私も全身タイツを脱ぎたくないのよ。でも暗くなってきたわ。そろそろ戻って夕食の準備ね」
「分かってるけど、本当に全身タイツを脱ぎたくないの‥」
菜乃花は本当に泣いています。
「菜乃花、私、セックスしたいの。全身タイツではできないわ。夜、また全身タイツを着ればいいから、とにかく戻りましょう」
「分かったわ」
二人は慎重に歩いて林の中から家へ戻りました。

恵子の部屋に戻ると、二人とも全身タイツから顔を見せました。
「うわっ、なんか眩しい。ああ、髪の毛がすごいことになってる‥」
「菜乃花、それは仕方ないわよ。頭をタイツで覆ってたんだからね。どうせ髪の毛ボサボサならこのままボディストッキングにしようか」
恵子は菜乃花に白いボディストッキングを渡します。
「うわあ、これも肌触りがいい!これ、かなり透けるよね。なんかエッチな気分が盛り上がる!」
「菜乃花、何言ってんのよ。いつも私にエッチな気分じゃない!」
「うわ、恵子、ひっど~い!私、そんなエッチじゃないのに。愛する恵子とセックスしたいだけだもん。恵子なんかみんなとセックスして、よっぽどエッチじゃない!」
「え‥」
瞬間的に気まずい沈黙が二人の間に流れます。
「あ、いや、あの‥」
「菜乃花、私のことをそんな風に見てたんだ‥」
恵子の目から涙が一筋流れ落ちます。
「いや、違う、恵子、違うのよ」
「そうよね。菜乃花から見れば、私なんかセックスしたがりの女よね」
「恵子、違うって、そんなこと言ってない」
恵子の耳に菜乃花の叫びは届きません。

恵子は無造作にボディストッキングをベッドに放り投げると、コットンハイウエストタイツを手に取って履きました。
「私、もう誰ともセックスしないわ」
「恵子、ひどい、ひどすぎる‥いい加減にしてよ」
「私、菜乃花にエッチな女って思われたくないのよ。エッチじゃない私を愛してほしいのよ」
「こんなことするような恵子を誰が愛するのよ。そもそも恵子が私にエッチって言ってきたんじゃないのよ。私は真剣に恵子を愛しているのに。愛しているからセックスしたかっただけなのに。それなのに、私を気持ちいいから恵子とセックスしたがりの女みたいに言って‥それで私が冗談で返したら何よ、この態度は。バカにするんじゃないわよ。恵子なんか大っ嫌いよ。私、帰る。二度と来ないし、二度と話をしないわ」
菜乃花はお金を投げつけて、私服に着替えようとしています。
菜乃花は本気で怒っていました。

菜乃花の物凄い剣幕に恵子はかなり慌てています。
「菜乃花、ちょっと待って」
「うるさい」
菜乃花は恵子を勢いよくベッドへ突き倒します。
「いや、菜乃花‥」
菜乃花は急いで着替えると、荷物をまとめて部屋から出ていきました。
「待って、菜乃花、待ってよ」
恵子も急いで1Fに下ります。
玄関で菜乃花を捕まえると、菜乃花はバランスを崩して床に倒れこみ、つられて恵子も菜乃花に覆い被さるように倒れこみました。
「恵子、やったわね」
菜乃花は怒りにまかせて、恵子を突き飛ばしました。

(バン‥)
鈍い音が玄関に響きます。
恵子が玄関横の壁に体をぶつけて床に倒れた音です。
「痛っ‥」
呻くような声の後、少し苦しそうな表情で、かなり咳き込んでいます。
背中を打って、一時的に呼吸困難を起こしたようです。
「け、恵子、大丈夫?」
菜乃花が覗き込みますが、見るからに苦しそうで反応がありません。
「恵子、ごめんなさい、しっかりして、恵子」
菜乃花は顔色を失いながらも背中をさすりますが、それでもまだ苦しそうです。
菜乃花は急いでキッチンへいき、コップに水を入れて戻ってきました。
恵子を少しだけ起こして、水を飲ませます。
少し落ち着いてきたところで、恵子を起こして寄り添いながらリビングへ移動して、ソファに横にならせました。

菜乃花は恵子の手をとって握ります。
「恵子、ごめんね。あなたを苦しませるつもりはなかったのよ。本当にごめんなさい」
「だ、大丈夫よ、菜乃花」
菜乃花はもう一度水を用意して、恵子に飲ませます。
恵子は息は落ち着いてきましたが、まだ痛みを感じているようです。
「恵子、まだ痛い?」
「菜乃花、気にしなくていいよ、大丈夫だから」
「恵子、ごめんなさい。つい、カッとなってしまって‥本当にごめんなさい」
恵子を優しく撫でながら、菜乃花は涙が溢れます。
「私こそ菜乃花の気持ちを踏み躙るようなこと言ってしまってごめんね」
恵子の目からも涙がこぼれます。
「菜乃花、怒っていなかったらキスして」
「恵子‥」
目を閉じた恵子の唇に菜乃花も唇を重ねます。
同時に二人の涙も重なり合いました。
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