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第7章

真由を招待へ

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暫しの音楽談議の後、恵子が帰る予定の時刻が近づいてきました。
「真由、そろそろ時間だから」
「あ、もうそんな時間なんだ。残念だな~」
恵子は真由の両親に向き合いました。
「今日はお邪魔させていただきありがとうございました。本当に楽しいひと時を過ごすことができました」
「あら、恵子さん、この後は何か予定があるの?」
真由の母が尋ねました。
「いえ、特に何もないです。帰って夕食の用意をするだけですが」
「恵子さん、それだったら夕食を一緒にいかがかしら?あなた、別に構わないわよね?」
「もちろんOKだよ」
恵子は真由の両親の言葉に少し慌てています。
「いえ、あの、それはご迷惑になりますから‥」
「恵子さん、予定がないなら遠慮はいらないよ。真由も喜ぶだろうし」
「パパ、ありがとう。恵子、せっかくだから晩御飯食べてってよ」
「帰りが心配なら、僕が送るよ」
「あなた、大切なお嬢様だからお願いね。恵子さん、それじゃあ夕食いいかしら?」
真由の母の言葉に恵子は恐縮しきりです。
「あ、はい、それではよろしくお願いします」
「やったあ、恵子と一緒に晩御飯だ!」
真由はとても喜んでいます。

「恵子さん、何か好きな料理はある?」
「あ、いえ、特にないんです」
「ママ、恵子はカレーライスが大好物よ」
「あっ、真由、もう」
恵子は思わず真由のお尻をはじきます。
真由の母は思わず笑ってしまいました。
「いいのよ、恵子さん。じゃあ、恵子さんに気に入ってもらえるように頑張ってカレーライス作るわね。ビーフカレーでいいかしら?」
「やったあ、ママの十八番おはこのビーフカレーだ!」
「真由に聞いてませんよ。恵子さんに聞いているんです」
「はぁい‥」
真由の凹み方が面白くて、恵子は思わず吹き出してしまいました。
「真由がよろこんでくれると私も嬉しいわ。私、本当に何でも大丈夫ですので、ビーフカレーをお願いします」
恵子は真由の母に頭を下げると、真由に連れられて真由の部屋に戻りました。

「あなた、恵子さん、本当に素敵な女の子と思わない?」
「ママもそう思うかい?育ちの良さだろうね。でも母子家庭でいろいろ苦労されてるんだろう」
「そういう経験が人柄の良さにも出るんでしょうね」
「そうだろうね。真由の友達になってくれて、本当に良かったんじゃないかな?真由にもいい刺激になるだろうし」
恵子は真由の両親にかなり受け入れてもらえたようです。

「恵子、本当にありがとう!」
「え?真由、私、何もしてないよ」
恵子はキョトンとしています。
「今、トイレ行ったときに聞こえてきたんだけど、パパとママ、恵子のことをとても気に入ったみたいよ。これで多分、恵子の家でのお泊まり会ができそうだわ。だから、恵子に感謝なのよ」
「真由、やめてよ。私、本当に何にもしてないんだから」
それでも恵子はとりあえず責任を果たせたようでホッとしました。

真由と恵子がビートルズや他の音楽の話で盛り上がっていると、真由の母がドアをノックしました。
「お待たせ、夕食できたわよ」
「はぁい、すぐにいくわ」
真由が待ってましたとばかりに恵子を手招きして、部屋を出ました。
恵子が手を洗ってダイニングに入ると、真由がまたお小言頂戴状態です。
どうやら、恵子は手を洗っているのに、真由がダイニングにすっ飛んできたことで言われているようでした。
(うわっ、真由、ごめんね)

真由の父に促されて席に着くと、真由の母がすぐにビーフカレーとポテトサラダを運んできました。
スパイシーな香りが漂う欧風ビーフカレーです。
「うわあ、すごく美味しそう。ありがとうございます!」
「恵子さんのお口に合うかどうか。合わなかったらごめんなさいね」
「私、家で作るのはどちらかというと日本や東南アジアスタイルのカレーライスが多いので、こういう欧風カレーはすごく嬉しいです」
「さあさあ、早く食べようよ。お腹ペコペコだよ」
真由の言葉に真由の母が何か言いかけましたが、真由の父が真由をフォローしました。
「僕もはらぺこだな、さあ、いただこう」
「それではいただきます!あっ、うわっ、すごく美味しいです。ピリッとした辛さの後にビーフの旨みが口の中に広がって‥本当に美味しいです!」
「恵子さんにそう言ってもらえると作った甲斐があったわ。恵子さん、ありがとうね」
「恵子、このカレー、ママご自慢の手作りカレーだから美味しいのよ」
「真由、ご自慢は余分です」
「はぁい、また言っちゃった‥」
恵子は思わず笑ってしまいました。

食事中は、恵子のフランス時代の話や共通の趣味のビートルズや西洋絵画の話で盛り上がり、楽しいひと時を過ごしました。
「恵子さん、おかわりはいかが?」
真由の母の言葉に、さすがの恵子も食欲を抑えることはできません。
「それじゃあせっかくなので、少し頂きます」
恵子がビーフカレーを美味しそうに食べる姿に、真由の母もとても嬉しそうでした。
「あの、お願いがあるんですが」
「なあに、恵子さん」
「もしよろしければ、このカレーライスの作り方を教えていただきたいのですが」
「ええ、いいわよ。レシピを用意して真由に渡すわね。それじゃあ、プリンのレシピと交換ね」
「はい、ありがとうございます」

食後に雑談しながら紅茶を飲み終えると、ちょうどいい時間になってきました。
「私、そろそろお暇しようと思います。今日はいろいろありがとうございました」
「こちらこそ大したおもてなしもできなくて‥あなた、恵子さんを送ってあげてね」
「ああ、もちろん送っていくよ」
「お手数をおかけしてすみません。最後に一つお願いがあるのですが」
「なんだい、恵子さん」
恵子の父の問いかけに恵子は一呼吸おいて答えました。
「今日、いろいろご馳走になったりしたので、今度は私が真由を招待したいんです。真由のこと、もっともっと知りたいし、もっと親しくなりたいので、私の家で真由とお泊まり会をしたいと思っているんです。だから真由を招待してもいいでしょうか?」
「そうだね。ママ、どうだろう?恵子さんなら間違いはないだろう。いいんじゃないか?」
「そうね。真由、恵子さんの迷惑にならないようにね。恵子さん、これからも真由をよろしくね」
「はい、ありがとうございます」
隣で真由もこっそりガッツポーズです。

「さあ、恵子さん、送っていくよ」
「私もついて行くわ」
恵子は帰り支度を整えて、真由も素早く用意して、真由の父の車に乗り込みました。
真由の家から恵子の家まで車で30分ほどです。
「夜だから少し分かりにくいけど、なかなか自然豊かなところだね。景色がすごく良さそうだね」
「毎日歩きながら癒されてます」
「すごくいい環境のようだね」
真由の父はこのエリアを気に入ったようです。

「あ、ここです」
「へえ、ここに恵子1人で住んでるのね」
真由が興味津々で見ています。
「ありがとうございました。それではおやすみなさい」
「恵子さん、おやすみ」
「真由、また明日ね、おやすみ」
「恵子、今日はありがとうね、おやすみ」

恵子は車を見送り、家に入ると服を脱ぎ、サイハイソックスだけ履いた姿でシャワーを浴びました。
真由の家で楽しく過ごせたものの、かなり緊張していたため、疲れがドッと出てきました。
「ふう~、疲れた~。でも真由のご両親に気に入ってもらえてよかったわ。真由とのお泊まり会、楽しみだわ」
シャワー上がりに安堵の表情でいつもの白いシームレスハイウエストタイツだけ履くと、そのまますぐにベッドに入り、深い眠りに落ちていきました。







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