見てはいけないものが見えてしまう

原口源太郎

文字の大きさ
4 / 8

しおりを挟む
「今すぐに出てって下さい」
 私はきっぱりと言った。やっとわかった。貧乏くさい顔付きも、貧乏くさい服装も、確かに言われてみればその通りだ。
「わしはここが気に入っておるから、出ていきたくない」
「この家を借りたのは私です。あなたは誰と賃貸契約を結んでこの家に住んでいるのですか?」
「神がそんな賃貸なんたらなどということは」
 そこで私はハッとした。神様を追い出そうとしている私は、とんでもない罰当たりな事をしているのではないだろうか。
「ごめんなさい。言い過ぎました。神様に対して失礼しました。一緒にいて下さって結構です。ただ、夜はあまり動きまわらずに静かにしていて下さると助かります」
「言う通りにするよ」
 貧乏神様はしおらしく言った。

 翌日、私はスーパーへ買い物に出かけた。家は住宅街にあるので、近くにはコンビニさえもない。買い物に行くたびに歩かなければならないが、それほど苦痛でもない。
 レジでの支払いをスマホで行おうとして床に落とした。幸い中は壊れなかったが、表面のガラスにひびが入ってしまったので私は現金で支払いを済ませた。
 家に帰ってきて、久しぶりに手にした小銭を数えてみると十円足りなかった。お釣りを間違えたらしい。スマホで支払いを済ませていれば金額の間違いなどなかっただろうし、逆にポイントも付いた。
 そんなことを考えていて、ふと頭にあることが浮かんだ。些細な偶然かもしれないが、そうではない気がする。同居することになった例の神様のせいではないだろうか。
 そういえば、私が入る前にこの家にいた人は勤めていた会社の経営が思わしくなくなり、家賃を払えなくなってここを出ていったと不動産屋が言っていた。貧乏神様が二年前からこの家にいたのなら、同居していたのだろう。
 私もきっと貧乏になる。今でさえ裕福とは言えない身なのだから、これ以上貧乏になってはたまらない。この家からも出ていかざるを得なくなるかもしれない。
「神様、神様!」
 私は貧乏神様を捜して家の中を右往左往したが、コンタクトを取る事はできなかった。夜まで待つしかないのだろう。

 その夜、私は貧乏神様に会い、この家から出ていってもらえないか話をしてみたが、もちろん素直に出ていくとは言ってくれなかった。
 仕方なく、それからの私は仕事を一生懸命真面目にやり、財布その他貴重品の管理を徹底し、スマホやカードも大事に扱った。
 私が細心の注意を払うようにしたおかげで毎日は普通に過ぎていったが、時々何かちょっとしたものをなくしたり、ぶつけて傷付けたり、あと一歩で特売品を買い損ねたりといった小さな損をすることが増えていった。
 やがてその頻度が増えていき、被害額も大きくなっていくのに気が付き、遂に私は決断を迫られることになった。神様に出ていってもらうか、私が出ていくか、どちらかだ。早いところ決着を付けないとやがて私も金銭的に窮して、強制退去させられることになるだろう。
 その夜、私は貧乏神様と交渉の場を持った。
 徹底抗戦のつもりで私は押入れの扉を開けたのだが、神様は意外とあっさり他へ行くと言って重い腰を上げた。
「人間とこうして腹を割って話をするのも百何十年ぶりじゃし、私のことが見える者にあまり迷惑をかけてもいかんからの」
 そう言って貧乏神様は押入れから出てきた。
「今度、福の神に会ったら、ぜひこの家に来るように言っておくよ」
 そう言って貧乏神様は家からも出ていった。
 それから私は安らかな眠りの日々を手に入れ、ちょっとばかり損をするといったこともなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...