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番外・後日談
37. 前倒し祝い
しおりを挟むどこの家も冬の準備をほぼ終えているであろう十一月半ば、ロッソ領本邸には大勢の客人が招かれていた。
当主オルフェオの十二月の誕生日を、前もって祝うためのパーティーである。
オルフェオの生まれた日は毎年、積雪のため遠方から人を招けないという理由で、これまでは正式なパーティーを開いていなかった。
しかしロッソの親族の中には、彼がほんの幼い頃、日付を前倒しにしたパーティーが何度かあったことを憶えている者もいた。
主役がほんのわずか顔を見せただけで、すぐにいなくなってしまうようなものだったが……。
アルティスタ貴族のルールでは、両親または祖父母と比較的近しい血族のいる分家は親族に含まれ、臣下の中では大きな力を持ちやすい。
イレーネの人徳と、さりげなく遠ざけられていた旧々勢力―――オルフェオの祖父を慕う者達が発言力を取り戻し、新当主への忠誠を明らかにしてもう何年も経つ。
オルフェオが祖父を彷彿とさせる社交嫌いであり、だからといって自分達を蔑ろにしているわけではないと多くの親族が理解しており、これまでは無理にそれを押し付けようとはしてこなかったが、今年だけは譲れない理由ができてしまった。
「いくら閣下が不要と仰せになっても、これだけは祝わねばならん」
「さよう。わしらが祝いたいのももちろんだが、対外的にも祝ったほうが良かろう。主君は渋っていたが臣下の強い希望でパーティーが開かれることになった、という事実は閣下の名声への後押しになるであろうな」
オルフェオの陞爵である。
いまだ陞爵の儀がどのような形で行われるのか、王宮側の意見はまとまっていない。というのも、何らかの功績を立てた者に勲章を授与する表彰式が春に行われるのだが、それと合わせてするか、別に分けて執り行うかでもめているのだ。
他国では表彰式をしてから、後日改めて陞爵あるいは叙爵式を行う国もある。しかしアルティスタでは、バラバラに行うのは非効率であり、参加者のスケジュールの調整が困難になるという理由で、まとめて行われるのが一般的だった。
オルフェオに関して例外を求める意見が出た理由はさまざまだ。
ロッソ家の繁栄に寄生したい者が彼に殺到する可能性。
逆にそれをよく思わない者が逆恨みで小細工をする可能性。
それから、オルフェオがどこか一ヶ所に肩入れをして、パワーバランスが崩れる可能性。これに関しては派閥に関わりのない中立派からも同様の懸念が出た。
現在のアルティスタ上流社会は、以前よりかなり風通しが良くなっている。しかし人が集まればどうしても派閥が形成され、力関係に気を遣う必要が出てくるものだ。
三つ目の懸念に関しては完全に杞憂である。ただあいにく、杞憂と断言できるほどオルフェオ本人を知る者が少なかった。
なので国王側としては、この機会に実物の彼を知らしめてやったほうがいいのでは……と(本人に無断で)目論……検討していたが、それを反対する者がそこそこの数にのぼり、まとまるものもまとまらないという状況に陥っていた。
だが、彼が侯爵になるのはもう確定だ。なので先にその事実だけを公表し、教科書に関しては新爵位で記載させ、爵位の上がる理由とおおよその時期を添えさせることになった。
領地の再編については公表していない。しかし勘のいい者は、ロッソ領の線が拡大するであろうと見ている。
「普段はどなたも閣下に無茶なことを言ってこられませんし、こればかりは呑んであげたほうがいいのではないですか?」
「そうですね。たまの要望ぐらい耳を傾けてあげたほうがいいと思います」
「ぬ……そうだな」
ニコラとラウルまでもが揃って言うので、オルフェオも「そうかも」と考え直した。
当主でありながらアレッシオを伴侶としていることにも、何かを言われたことがない。結婚を強要されたこともなかった。
日頃から自由にさせてくれているのだから、そのぐらいは聞いてやってもいいだろう。
実際のところ、側近達も祝いたいのである。使用人達もだ。
しかしオルフェオの社交アレルギーが出て「もう二度とやらない」などと言い出すような代物にしてはいけない。
―――「こういうのなら次もやっていいか」と思わせるものでなければ。
そして厳選した分家の人間達と、当主オルフェオの学生時代の友人達が招かれることになった。当主の好むアットホームな祝いの場にすると通達され、招待客にも都合がつくようであれば気軽に参加して欲しい、と書かれた招待状が出された。
急に決まった前倒しの誕生祝い+陞爵祝いのパーティーなので、半数集まれば御の字だろうと思っていたオルフェオの予想に反し、招待した家は全員参加となった。
もともとこの時期は用事の少ない者が多く、パーティーがあると見越して時間を空けていた者も多かったのだ。
日帰りできない客の一部はロッソ邸に泊め、それ以外は町の宿を押さえておく。冬の手前から客足が激減するため、今年最後の思わぬ稼ぎに町の人々はホクホクだった。
「兄様、おめでとうございます! ただ今戻りました!」
主な単位をあらかた取り終え、授業がほとんどなくなったジルベルトも一時帰省した。人前だろうがどーんと抱き付く義弟の懐きっぷりは相変わらずである。
この光景が毎度のことなので、義弟の危険性をそそのかす自称忠実な臣下がロッソ家に出没する隙はない。
堅苦しさをなるべく排除した、当主の望みにできるだけ近付けた『アットホーム』なパーティーは、和やかでいてとても盛大なものになった。
料理が充実しているのは言わずもがなである。
『誕生日プレゼントの目録』に、当主が遠い目になるのはいつものこと。
そして忠実な臣下のご老体をいたわりながら、長話に付き合ってやっているオルフェオの姿に、そこかしこで微笑ましく見守るご婦人方のまなざし……。
さらに、オルフェオの友人達からの援護射撃が。
「ロッソの方々は素敵な方ばかりですのね」
「そうだね。当主と臣下の心の結びつきが強いのだなとわかるよ」
格式の高い宴席であれば格が上がるとは限らない。ものは考えようだ。
こういった気楽な宴のほうが、当主と臣下の結束の強さを示せる―――友人達は暗にほのめかし、ロッソの臣下を褒めちぎった。
臣下達は素直に喜びつつ、舌を巻いた。
(さすがは閣下のご友人であるな……)
(まこと、尋常でない方々が揃っておる)
前当主の件があり、オルフェオの『友人』達がどのような人間なのかと、若干の危惧を抱いていた者も少なくはない。彼らの人となりを知るためにも、これは良い機会だった。
そして大広間でのパーティーがおひらきになった後、なんとなく男性陣と女性陣に分かれてしばらくお喋りを楽しむことになった。
いつかのヴィオレット邸での再現である。
かなり広めの応接間で、何故か男達の背比べ大会が始まり、臣下達は「あ、これ本当に友達だ」と完全に理解した。
ニコラがチャンピオンかと思いきや、大番狂わせが起こった。なんと、飛び入り参加の選手が百九十四センチという記録を叩き出したのだ。
「ええぇ~っ!?」
「うわぁ~っ!?」
「ふっふっふ。若者にはまだまだ負けませぬぞ~っ」
武を専門とする分家の当主、七十歳。新チャンピオンの誕生である。
前々から筋骨隆々のでかいおっさんだな~、と思っていたオルフェオだったが、これにはビックリであった。
そして向こうでは女性陣が島を作り、ほっそり小柄な奥方が「あらまあ、旦那様ったら」とホワホワ微笑んでいる。
なんとも和やかな誕生祝いの日だった。
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読んでいただいてありがとうございます!
予定していた新連載を今月から開始するため、巻き戻り令息の番外・後日談の更新は2日~3日置きぐらいになると思います。
本日中に近況ボードでもお知らせを上げますので、よろしくお願いいたしますm(_ _m)
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