転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~

普門院 ひかる

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第5章 皇帝編

第180話 混迷する中東(4) ~反対勢力の鎮圧~

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 いささか強引ではあったが、フリードリヒの神聖ローマ帝国の武力を後ろ盾として、カイロのバフリー・マムルークたちの信任を固めたシャジャル・アッ=ドゥッルであった。

 だが、ダマスカスのトゥーラーン・シャーの任命したクルド人の太守アミールやアレッポのアイユーブ朝の地方君主たちの同意はまだ得られていない。
 また、アッバース朝カリフのムスタアスィムも、引き続き圧力をかけてきていた。

 やはり、イスラム教の女性蔑視べっしの考え方をくつがえすのは容易ではないのだろう。

 カイロでの軍威行動は、ダマスカスやアレッポの間諜かんちょうも見ていたと思うのだが、数が少ないと見て軽視されたのかもしれない。

 ──それならば、過小評価して油断している今がチャンスだ…

 フリードリヒはシャジャルに言った。
「どうやら反対勢力の奴らは我らの軍事力を軽く見ているようだ。だからこそチャンスとも言える。この際一気にけりをつけることにしよう」

「しかし、いくら強いとは言ってもあなた方の騎士団の数でなんとかなるものなのか?」
「今は言えないが、タネがあるのだ。そこはちんを信じてくれ」

 最初はハンサムなだけの頼りなさそうな印象をフリードリヒに対して持っていたシャジャルであったが、次第に評価は変わりつつあった。

「わかった。あなたを信じよう」

 早速、バフリー・マムルークと軍事行動について協議をする。
 フリードリヒが切り出す。

「まず、ダマスカスだが、アイバク殿を司令官としてバフリー・マムルークから軍を派遣して欲しい。暗黒騎士団ドンクレリッターからはグレゴールの第4中隊を出す」

 アイバクが反論した。
「それしきの戦力でダマスカスが落ちるとでも?」
「そこはちんを信じてくれ。今は明かせないが隠し球があるのだ」

 ──この人は何の目算もなしに戦いを挑むような御仁ではない…

 フリードリヒに心酔しているアイバクは不本意ながらも了承した。

「アレッポはアクターイ殿にお願いする。暗黒騎士団ドンクレリッターからはアルフレートの第5中隊を出す」
「承知した」

 アクターイは先ほどのやり取りを見ていたせいか、素直に承諾した。

「時を同じくして、それ以外の主要都市も制圧する。これは我らに任せて欲しい」

 再びアイバクが反論する。
「そのようなことが可能なのか?」
ちんに同じことを2度言わせるつもりか?」

 フリードリヒの静かな物言いは逆に威圧感があった。

「いや。失礼した…」

「残りのバフリー・マムルークと暗黒騎士団ドンクレリッターはカイロの守りを固める」

 こうして軍議は終わったのだが、バフリー・マムルークたちは半信半疑の様子だ。

 ──悪いな『敵をあざむくにはまず味方から』とも言うしな…

 その後、フリードリヒはグレゴールことルシファー、アルフレートことベルゼブブ、フェルディナントことベリアル、オトマールことアスモデウスの悪魔4中隊長を呼ぶと指示を出した。

「敵はこちらの数が少ないとあなどっている。そういうやからには逆に圧倒的な数的優位を見せつけてやれ。今回は遠慮なしだ。だが、いつもどおり抵抗する奴以外は殺すなよ」
「「「「御意ぎょい」」」」

 4人とも今回は配下を思いきり動員できるとあって、晴れやかな顔をしている。

 ──頼むから、やりすぎるなよ…

    ◆

 今回は敵同士を連携させないように、各都市を同時に攻める。
 このため一番遠いアレッポに向けてアクターイ率いる部隊がまず先発し、続いてアイバク率いる部隊が続いた。
 ベリアルとアスモデウスの部隊も合わせて出発した。

 それを見届けたフリードリヒは、おもむろに言った。
「さて、こちらも始めるか…」

 フリードリヒが念じるとカイロの町の郊外に無数の魔法陣が生じ、黒い霧の中からダークナイトが姿を現した。その数、5万体である。

 カイロの町の人々はこれを見て恐怖した。この間の軍事行軍でダークナイトは見かけていたから、おそらく味方だとは思うのだが、この数は尋常ではない。
 恐慌きょうこう状態にはおちいらなかったものの、人々は家にこもり、扉を固く閉ざした。

 これを見たシャジャルは茫然ぼうぜんとして言った。
「これはいったい…あなたが召喚したのか?」
「そうだが…それが何か?」

「これはもはや人間わざとは思えない…そうするとダマスカスやアレッポに向かった連中も?」
「あちらは悪魔だな。数はこれよりずっと多いぞ」

「悪魔…だと…悪魔を使役できるというのか?」
「そうだが…」
 何の気負いもなく答えるフリードリヒに、シャジャルは絶句した。

 だが、これをみてカイロの町を攻めようなどと思う者はいないだろう。
 その点は安心だな…

 そう思ったシャジャルは、思わずフリードリヒの顔を見入ってしまった。

 ──なんという男だ…確かに世界で一番強い男なのかも…

 ふとフリードリヒと視線が合い、恥ずかしくなって思わずらしてしまう。

 ──何を今更…うぶな生娘きむすめでもあるまいし…

 だが、シャジャルの心臓は確実に鼓動を早めていた。

    ◆

 ダマスカスの太守アミールいぶかっていた。
 バフリー・マムルークの軍勢が迫っているという知らせを聞き、町の門を閉ざして警戒していたのだが、実際に目視できる軍勢は千に満たない数だった。

「奴らは何だ。あの数でダマスカスが落とせるとでも思っているのか? どこかに伏兵がいるのではないか?」
「いえ。各方面に斥候を出しているのですが、今のところ影も形も見当たりません」

「では、どういうことなのだ。奴らはだだのバカ者なのか?」
「さあ。わかりません…」

    ◆

 ダマスカスの町が見えてくるとルシファーはアイバクに言った。
「敵の弓の射程圏外ギリギリのところで行軍を止めてください」

「わかった。その後はどうする?」
「後は私にお任せください」

 アイバクは、ルシファーが言ったとおり、行軍を止め陣形を整えた。

 ダマスカスの町の壁の上からは弓兵が狙いをつけて威嚇している。

 アイバクは言った。
「さあ。準備は整ったぞ」
「後は私が引き受けます。
では…出でよ。我が配下たち!」

 ルシファーが命じるとあちこちに無数の魔法陣が生じ、黒い霧の中から悪魔たちが現れた。
 その数10万…いや20万…もはや数えきれない。

 様々な異形いぎょうの悪魔たちが空を飛び、地を這い集団となっている。

 バフリー・マムルークたちは警戒して武器を構えた。

 ルシファーが言う。
「お待ちください。あれらは我が配下です。敵ではありません」

 驚きに満たされていたアイバクは、その言葉で我に返ると部隊に命じた。
「あの悪魔たちは味方だ。部隊内に徹底せよ!」

 一方、ダマスカスの太守は突然の出来事に茫然自失ぼうぜんじしつしていた。
 ダマスカス軍の司令官たちも似たような状況だった。

 数的優位を確信していたところが、突然に天地をひっくり返され、逆に圧倒的な数的不利に陥ってしまったのだ。
 どの指揮官も判断がつきかねていた。

 だが、ある弓兵が恐怖に耐えきれずに弓を放ってしまった。
 射程圏外なので矢は届かなかったが、目標とされた悪魔は自分が攻撃されたものと認識した。

 悪魔たちは「抵抗しない者は殺すな」と厳命されているが、逆に攻撃されたら殺して良いということだ。
 攻撃された悪魔は弓を放った兵士に瞬時に迫ると、その鋭く長い爪で喉笛を引き裂いた。

 これがきっかけとなり、ダマスカスの兵たちは恐慌状態に陥り、次々と矢を放っていく。これを悪魔が蹂躙じゅうりんする。
 その連鎖が次々と無秩序に広がっていく…

 陣形もなにもあったものではない。

「何ということだ…」
 ダマスカスの太守アミールは、この状況を茫然と眺めていた。

 我に返った指揮官が太守に進言する。
太守アミール。このままでは我らが全滅します。直ちに降伏を!」
「わ、わかった。直ちに攻撃を停止せよ! 降伏だ!」
「了解しました」

 しかし、恐怖のため秩序を失っているダマスカス軍には軍令が行き届かない。

 ──いったいどうすれば良いというのだ!

 ダマスカスの太守アミールあせった。

 その時、太守アミールの前に、12枚の羽を持った見目麗しい悪魔が空から降り立った。ルシファーである。

「おまえがダマスカスの太守アミールか?」
「そうだ。殺す気か?」

「そうではない。いつまで戦いを続けるつもりだ。全滅するぞ」
「おまえが悪魔の指揮官か? 頼む。降伏するから攻撃をやめてくれ…頼むから…」

「それは無条件降伏ということだな」
「ああ。そうだ」

「よかろう。
 皆の者。攻撃を止めよ!」

 ルシファーの一言で悪魔たちの攻撃はピタリと止んだ。
 そして再び弓の射程圏外へと後退して行く。

 既にダマスカスの兵の2割近くが悪魔たちに蹂躙され無惨な姿をさらしていた。
 ある者は腹を切り裂かれ、ある者は火に焼かれ、ある者は毒でからだが腫れあがっている。

 ダマスカスの太守アミールは、ようやく戦闘が停止したことに安堵し、その場にへたり込んでしまった。

 ルシファーは冷たく言い放った。
「おまえにはカイロまで来てもらう」

 アレッポでも同様にベルゼブブの軍団にアレッポ軍は蹂躙され、太守アミールは拉致同然にカイロへ連れてこられた。

 その他の主要な町もベリアルとアスモデウスの軍団が制圧し、太守アミールたちがカイロへ集められた。

    ◆

 カイロへ連れてこられた反抗勢力の太守アミールたちを前にフリードリヒは言った。

「これからおまえたちにはスルターナに臣従することをアラーの神に誓ってもらう。異存のある者は進み出よ」
「…………」

 結局、集められた太守アミールたちの全てがシャジャルへの臣従を誓うこととなった。

 その後、太守アミールたちはそれぞれの町にもどされたが、情勢が落ち着くまでは悪魔たちを駐留させることになる。

 一連の戦後処理を終わり、シャジャルはフリードリヒに言った。
「ありがとう。心から感謝するわ。あなたと同盟して本当に良かった」
「いや。これからが本番だ。貴国にはモンゴル帝国の防壁になってもらわねばならない」

「確かに、そのとおりね…」

    ◆

 その夜。
 フリードリヒの寝室を訪ねる者があった。

「シャジャルか。こんな時間にどうした?」
「私、あなたに本当に感謝しているの…でも私にできることと言ったら…」

 シャジャルはフリードリヒに抱きつくと、その胸に顔を埋めた。

「これはズルい言い方だったわね…私、あなたを愛してしまったみたいなの…」
「そうか…」

「あなたはどうなの?」
「ああ…一目見た時から気に入っていた…」

 そして…

    ◆

 しばらくして、カイロの町ではフリードリヒとシャジャルが愛人関係にあるとうわさされた。
 どこかから情報が洩れたのか、人々の単なる想像の産物なのかはわからない。

 中には異教徒と愛人関係なんて…と眉をしかめる者もいた。

 しかし、人々は本能的に理解していた。
 シャジャルが神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒを繋ぎ止めている間は、この国はどんな外圧があっても安泰なのだと…

「女のスルターナも悪くないんじゃないか」

 そんな声とともに、次第に人々のシャジャル支持の声は大きくなっていった。

    ◆

 一段落して、フリードリヒはナンツィヒに戻った。

 が、待っていたのは妻・愛妾あいしょうたちの吊し上げだった。

 筆頭格のヘルミーネが言う。
「あなた。中東くんだりまで行って、また女あさりですか!」
「いや。あれは軍事同盟の締結先がたまたまスルターナなだけであって…」

「愛人関係だってちゃんとこちらまで聞こえているんですからね。しかも、女一人のために国を征服してしまうなんて…」
「あれは反抗勢力を制圧しただけで、征服などでは…ヘルミーネのときだって、ちゃんとモゼル公国を救援に行ったじゃないか」

「それは…そうだけれど…本当に私のためなの?陛下の命令だったからじゃなくて?」
「あれは私の方から陛下にどうしても行かせてくれとお願いしたのだ」

「本当に?」
「もちろんだ」

「あ~ん。あなた~」というとヘルミーネはフリードリヒに抱きついてきた。うっすら涙ぐんでいる。

 それを見ていた妻・愛妾あいしょうは「あっ!ズルい」と言うと次々と抱きついてきて、おしくらまんじゅうのようになってしまった。

 ──う~ん。ちゃんとアバターは飛ばしてローテーションは守っていたのだが…

 どうしてこうなった?
 と不思議に思うフリードリヒであった。
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