一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

文字の大きさ
41 / 56

四十一話

しおりを挟む
「おかずはなににしようか? 紗英はサラダとか食べたい?」
「そうですね……。ごはんと、さっきの肉じゃががあるから、私は軽いものでいいです」
 ふたりで食料品のコーナーへ行き、紗英はポテトサラダを手にしてカゴに入れる。悠司は鶏の唐揚げを選んだ。
「鶏の唐揚げ、好き?」
「好きです。むしろ、鶏の唐揚げが嫌いな人はいるのかなってくらいですよね」
「よかった。一緒に食べよう」
「はい!」
 会計を済ませて、エコバッグに購入したものを詰める。
 荷物は悠司が持ってくれた。
 コンビニを出ると、さらに空は藍の帳が広がっている。
 ふたりはまた手をつないで、ぶらりと家路へ向かって歩いた。
 悠司の温かな体温を感じながら、ぽつりと紗英は呟く。
「……悠司さんが、『一緒に』って言ってくれるの、すごく好きです」
「ん? そうか?」
 悠司はそれが特別な言葉なのだとは思っていないらしい。彼としては何気なく使った言葉なのだろう。
 けれど、『なんでも自分でやること』と幼い頃から躾けられ、誰かに甘えることも頼ることも許されなかった紗英としては、『一緒にやろう』と声をかけてもらえるのは、まるで砂地獄から引き上げてくれた救世主のごとく、感謝にたえない輝かしいことだったのだ。
「でも、誰から言われても嬉しいわけじゃないですよ」
 きっと、悠司から言われたからこそ嬉しいのだ。
 ほかの人からでは、心に響かないかもしれない。
「そうか。紗英が俺の言ったことを『好き』って言ってくれるのが、俺はすごく嬉しいよ」
 甘い声で悠司は、そんなふうに返す。
 私、悠司さんのことが、好き――。
 紗英の胸の奥に淡い芽が育っていく。
 その想いはもう抑えることができないほど、成長していた。
 でも私たちは、本当の恋人じゃない……。
 いつまで、この幸せを続けられるのだろうか。そしていつまで、紗英の想いを押し殺しておけるのか。
 切ない想いと、彼といられる幸せの双方を抱えながら、紗英はそっと悠司の傍に寄り添った。

 マンションに帰宅すると、ふたりは購入したポテトサラダと鶏の唐揚げを取り出した。それから鍋に残った肉じゃがを温め直す。
「インスタントの味噌汁ばかりなのもどうかと思うから、ちょっと作るよ」
「えっ。悠司さん、お味噌汁を作れるんですか?」
「俺の料理の腕を侮ってるだろ。美味しい!って言わせてやるからな」
 朗らかに笑った悠司は、片手鍋に水を入れると、火にかけた。
 彼は冷蔵庫を開けて、冷凍のほうれん草と卵を手に取る。
「すぐできるから、盛りつけしておいていいよ」
「わかりました。お米もたくさんありますしね」
 紗英は肉じゃがと米をそれぞれ器に盛り、ダイニングテーブルにセットする。もちろん箸もふたり分だ。こうして昼も夜も一緒に食事ができるなんて、なんだか同棲しているような気分になった。
 ややあって、悠司は小ぶりの器をふたつ持ってダイニングにやってくる。器からは、ほかほかと湯気が立ち上っていた。コンソメの香りが辺りに満ちて、紗英の食欲が刺激される。
「美味しそうですね」
「ちょっとは料理できるってところを紗英に見せたいからね。味も美味しいと思うよ」
 夕食の準備が整い、席に着く。ふたりは手を合わせて「いただきます」と同時に言った。
 紗英はさっそく悠司が作ってくれたスープに箸をつけた。
 ほうれん草と、ふんわりした卵が優しく舌の上でほぐれる。コンソメのだしが効いていて、具材と絶妙に合っていた。
「すごい! 美味しいです」
「よかった。紗英がいたら、毎日でも作るよ」
 まるで同棲や結婚を示唆するような悠司の台詞に、紗英の頬が朱に染まる。
 旦那様が毎日スープを作ってくれるなんて、夢みたいな生活だ。
「毎日は……飽きると思います」
「あはは、そうだね。レパートリーを増やしておくよ」
 悠司の胸のうちで、紗英と同棲や結婚をしてもよいという気持ちがあるのだろうか。それとも、話の流れでの、リップサービスのようなものなのか。
 追及できないけれど、もし悠司がほかの誰でもなく、紗英とならいいと思っていてくれるなら、嬉しかった。
「ポテトサラダも食べてくださいね」
「うん。紗英も鶏の唐揚げ、食べなよ」
 お互いが選んだおかずも摘みつつ、残った肉じゃがも食べた。
 肉じゃがをすっかり綺麗に平らげた悠司は、満足げな息をつく。
「ああ、やっぱり紗英が作ってくれた肉じゃがが一番美味しいよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
 あなたのためなら毎日でも……という言葉が出かけて、喉元で抑えた。
 こうして毎日、悠司と食卓をともにできたらどんなに幸せだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...