上 下
42 / 48

四十二話

しおりを挟む
 もし、そんな未来があるのなら……。
 紗英は束の間、悠司と結婚して、彼の子を産み育てて……という未来を思い描いた。
 それは紗英にとって、希望に満ち溢れた幸せな未来だった。
 悠司さんが目の前にいる今だけは、幸せな気持ちでいたい……。
 誰かといて、こんなに幸せを感じることができたのは初めてだった。
 ふたりの時間を大切にしたいと思えるのも初めて。
 悠司といると、初めてという新鮮な喜びでいっぱいになれた。
 やがて食事を終えたふたりは、ともに後片付けをした。
 そして紗英はシャワーを浴び、悠司に借りた新品のバスローブを身につける。先ほど購入した化粧水は洗面台で使用した。
 リビングのソファでどきどきして、入れ替わりにシャワーを浴びている悠司を待つ。
 はっとした紗英は、エコバッグに残っていたコンドームの存在を思い出す。
「あ……そうだ。これが必要だよね」
 立ち上がった紗英はエコバッグから、長方形のシンプルな箱を取り出した。パッケージを解いて、蓋を開けてみる。
 すると、ずらりと連なったコンドームの袋が並んでいた。
 これが……悠司さんの中心に……。
 想像すると、かぁっと頬が熱くなる。
 そのとき、バスルームから出てくる足音がした。
 はっとした紗英は箱に蓋をして、ソファに腰を下ろす。
 リビングにやってきた悠司は、バスローブをまとい、濡れた髪にタオルをかけていた。
 そんな格好をすると、普段は隠れている彼の色気が匂い立つようだ。
 彼はコンドームの箱を大事に両手で持っている紗英を目にし、苦笑を浮かべる。
「準備万端だね」
「あっ、これは、その……」
 ソファに座った悠司は、長い腕で紗英の体を引き寄せる。
 ちゅ、と頬にキスが降ってきた。
「悠司さんの唇、熱いですね……」
「風呂上がりだからね。紗英の頬も、温かいよ」
 ぎゅっと紗英の体ごと抱きしめた悠司は、膝裏を掬い上げると、横抱きにする。
 紗英は両手で箱を握りしめているので、彼の腕の中におとなしく収まるしかない。
「ベッドに連れていくよ。今夜はその箱の中身がなくなるまで、きみを抱きたい」
「悠司さんったら……」
 頬を朱に染めた紗英を、悠司は寝室に連れ去った。
 ベッドにそっと下ろされると、情熱的なキスが降ってくる。
 ふたりは何度も体をつなげて快楽に溺れた。キスを交わして、きつく抱き合い、夜が白むまで睦み合った。
 明けて日曜日の昼になっても、悠司は紗英を離そうとしない。
 キスをして愛撫され、紗英は甘く掠れた声を零した。
「あん。悠司さん……お腹が空きません?」
「そうだな。なにか食べたら、またセックスしよう」
「ふふ。絶倫ですね」
「きみが可愛すぎるからだよ」
 睦言を交わしながら、いちゃいちゃしていると、時間が経つのを忘れた。
 そうしてふたりは愛欲の虜になった。

六、予期せぬ混迷

 明けて月曜日――。
 悠司のマンションに連泊した紗英は、早朝に自分の部屋に戻ってスーツへの着替えを済ませて出社した。
 首回りには紺のスカーフを巻いている。
 それも悠司が、首筋にキスマークをつけたからだ。
 困るけれど、「紗英は俺のものだから」などと独占欲を滲ませられて、喜んでしまうのはどうしてだろう。
 口元を緩ませた紗英はスカーフをいじりながらも、早足でフロアへ赴く。
 車で一緒に行こうと悠司からは提案されたけれど、それではお泊まりが露見しかねないので断った。悠司はすでに出社しているだろう。
 ところが、営業部のフロアに入ると、異変に気がつく。
 電話のコール音が異常に鳴っているのだ。
「おはようございます……」
 紗英の挨拶は鳴り響く電話の音でかき消された。
 すでに出社している複数の社員が対応にあたっているが、とても手が回りきらない。
 すべてのデスクの電話という電話がコール音を鳴らしている。こんなことは初めてだった。いったいなにが起こっているのだろう。
 呆然としていた紗英に、木村が怒鳴り込んできた。
「どうするんですか⁉ 海東さんのせいですよ!」
「えっ、なに? なにが起こってるんですか?」
 木村は責めるだけで、事情を説明することなく踵を返した。
 課長のデスクに目を向けると、悠司も電話で話していた。
 紗英は慌てて自分のデスクへ行き、鳴りっぱなしの電話を取る。
「お電話ありがとうございます。ベストシニアライフでございます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...