17 / 56
十七話
しおりを挟む
すると悠司は、チュッと紗英の唇にキスを落としたのだった。
彼のキスは、どこまでも甘い。
戸惑う紗英は愚問を口にする。
「あの……どうしてキスするんですか? しかも唇に……」
「きみが可愛いからだよ。なにか困ることがある?」
「……その、悠司さんが困るのではないかと。誰かに見られたら、私たちの仲を誤解されてしまいますよね」
あくまでも、勝負がつくまでの仮の恋人である。
本当に付き合っているわけではない。
すると、悠司は小首を傾げた。
「俺は誰に見られてもまったくかまわない。自分の行動に後ろめたいことはない」
「……社内では秘密にしてくださいね。あくまでも仮の恋人なんですから」
「わかってるよ。でも、今はいいだろう?」
とろりとした笑みを見せた悠司は、また唇にキスをした。
ああ、どうしよう……。
またクズ男を作り上げてしまいそうな気がする。
悠司の甘いキスを受けながら、紗英は困惑していた。
次の休日――。
ついにデートの日がやってきた。
悠司は約束通り、様々なデートコースの提案を、メッセージで送ってきた。
遊園地なら、ここがおすすめ、水族館はここ。さらに現在上映されている映画の一覧、近隣のカフェのメニューに至るまで、綺麗にまとめられていた。
しかも見やすく、かつ押しつけがましくない。
なんて理想の彼氏なの……と思いかけて、自らの心を抑える。
ときめいては、いけない。
自分はクズ男を製造する女なのだ。悠司をクズ男にしないためにも、彼を好きになってはならない。
スマホを握りしめた紗英は、ひとまず三つ提示されたデートコースのうちのどれかを選択することにした。
一番のデートコースは、遊園地がメイン。二番は水族館。三番は映画、もしくはプラネタリウム。それらにもれなく食事とカフェがつく。
考えた結果、三番と答える。
遊園地と水族館は滞在時間が長くなるわけなので、敷居が高いと思ったのだ。
デートするのは初めてなので、まずは映画などアクティビティの低いものにしたい。
それに、プラネタリウムに興味があった。一度も見たことがないし、クズ男のおかげですっかり心が荒んでいるので、星空でも見て癒やされたい。
返信すると、悠司から『オーケー。デート、楽しみだね』というメッセージが返ってきた。それから、『おはよう』『おやすみ』など、しつこくなく、かといって放っておくでもないメッセージをくれる。
もちろん会社では私的な会話をしないけれど、その分、メッセージでやり取りできるので、安心感が生まれた。
なんだか本物の恋人同士のようで心が浮き立つ。
だから今日のデートは楽しみだった。
自室の鏡の前で、紗英はデート用に購入した服を着てチェックした。
さすがにジャージで行くほど女子力は失っていない。だけどデートに着ていけるような服を持っていなかったので、新しく購入した。
ピンクのロングスカートは裾がふわりと広がったマーメイドスタイルで、白のトップスはクシュクシュの袖口がアクセントになっている。春らしい、おしゃれな格好ではないだろうか。
今のトレンドがよくわからなかったので、マネキンが着ている服一式をそのまま購入しただけなのだが……。
どこにも糸くずや髪の毛が服についていないことを確認すると、紗英は斜めがけの小ぶりのバッグを手にした。アパートの戸締まりをし、ヒールで慎重に階段を下りる。
少し不安な気持ちもないわけではないが、悠司とのデートは楽しみだ。
うきうきして、心がふわふわする。
紗英は待ち合わせの駅前まで早足で向かった。
時計を確認しつつ、所定の場所まで辿り着く。
さりげなく辺りを見回したが、悠司はまだ来ていないようだ。
そのとき、プッと軽いクラクションの音が鳴ったのを耳にして、ふとそちらを向く。
駅のロータリーに、純白の高級車が停車していた。
ウインドウが下がり、悠司が顔を出して手を振る。
「紗英、こっち」
「悠司さん!」
紗英が駆け寄ると、悠司はわざわざ運転席を降りて回り込み、助手席側のドアを開けた。
「さあ、どうぞ」
「車なんですね……。お邪魔します」
てっきり電車で移動すると思っていたので、彼が高級車に乗って現れたから驚いた。
助手席に座ると、革張りのシートがふわりと心地よく体を包み込む。特別仕様の車らしく、シートも純白だった。
運転席に乗った悠司は、シートベルトを締めながら、隣の紗英に微笑みかける。
「俺の車を見せたくてね。助手席に乗せたのは紗英が初めてだから、安心してくれ」
彼のキスは、どこまでも甘い。
戸惑う紗英は愚問を口にする。
「あの……どうしてキスするんですか? しかも唇に……」
「きみが可愛いからだよ。なにか困ることがある?」
「……その、悠司さんが困るのではないかと。誰かに見られたら、私たちの仲を誤解されてしまいますよね」
あくまでも、勝負がつくまでの仮の恋人である。
本当に付き合っているわけではない。
すると、悠司は小首を傾げた。
「俺は誰に見られてもまったくかまわない。自分の行動に後ろめたいことはない」
「……社内では秘密にしてくださいね。あくまでも仮の恋人なんですから」
「わかってるよ。でも、今はいいだろう?」
とろりとした笑みを見せた悠司は、また唇にキスをした。
ああ、どうしよう……。
またクズ男を作り上げてしまいそうな気がする。
悠司の甘いキスを受けながら、紗英は困惑していた。
次の休日――。
ついにデートの日がやってきた。
悠司は約束通り、様々なデートコースの提案を、メッセージで送ってきた。
遊園地なら、ここがおすすめ、水族館はここ。さらに現在上映されている映画の一覧、近隣のカフェのメニューに至るまで、綺麗にまとめられていた。
しかも見やすく、かつ押しつけがましくない。
なんて理想の彼氏なの……と思いかけて、自らの心を抑える。
ときめいては、いけない。
自分はクズ男を製造する女なのだ。悠司をクズ男にしないためにも、彼を好きになってはならない。
スマホを握りしめた紗英は、ひとまず三つ提示されたデートコースのうちのどれかを選択することにした。
一番のデートコースは、遊園地がメイン。二番は水族館。三番は映画、もしくはプラネタリウム。それらにもれなく食事とカフェがつく。
考えた結果、三番と答える。
遊園地と水族館は滞在時間が長くなるわけなので、敷居が高いと思ったのだ。
デートするのは初めてなので、まずは映画などアクティビティの低いものにしたい。
それに、プラネタリウムに興味があった。一度も見たことがないし、クズ男のおかげですっかり心が荒んでいるので、星空でも見て癒やされたい。
返信すると、悠司から『オーケー。デート、楽しみだね』というメッセージが返ってきた。それから、『おはよう』『おやすみ』など、しつこくなく、かといって放っておくでもないメッセージをくれる。
もちろん会社では私的な会話をしないけれど、その分、メッセージでやり取りできるので、安心感が生まれた。
なんだか本物の恋人同士のようで心が浮き立つ。
だから今日のデートは楽しみだった。
自室の鏡の前で、紗英はデート用に購入した服を着てチェックした。
さすがにジャージで行くほど女子力は失っていない。だけどデートに着ていけるような服を持っていなかったので、新しく購入した。
ピンクのロングスカートは裾がふわりと広がったマーメイドスタイルで、白のトップスはクシュクシュの袖口がアクセントになっている。春らしい、おしゃれな格好ではないだろうか。
今のトレンドがよくわからなかったので、マネキンが着ている服一式をそのまま購入しただけなのだが……。
どこにも糸くずや髪の毛が服についていないことを確認すると、紗英は斜めがけの小ぶりのバッグを手にした。アパートの戸締まりをし、ヒールで慎重に階段を下りる。
少し不安な気持ちもないわけではないが、悠司とのデートは楽しみだ。
うきうきして、心がふわふわする。
紗英は待ち合わせの駅前まで早足で向かった。
時計を確認しつつ、所定の場所まで辿り着く。
さりげなく辺りを見回したが、悠司はまだ来ていないようだ。
そのとき、プッと軽いクラクションの音が鳴ったのを耳にして、ふとそちらを向く。
駅のロータリーに、純白の高級車が停車していた。
ウインドウが下がり、悠司が顔を出して手を振る。
「紗英、こっち」
「悠司さん!」
紗英が駆け寄ると、悠司はわざわざ運転席を降りて回り込み、助手席側のドアを開けた。
「さあ、どうぞ」
「車なんですね……。お邪魔します」
てっきり電車で移動すると思っていたので、彼が高級車に乗って現れたから驚いた。
助手席に座ると、革張りのシートがふわりと心地よく体を包み込む。特別仕様の車らしく、シートも純白だった。
運転席に乗った悠司は、シートベルトを締めながら、隣の紗英に微笑みかける。
「俺の車を見せたくてね。助手席に乗せたのは紗英が初めてだから、安心してくれ」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる