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十六話
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わかっているものの、どう改善したらよいのかわからない。
その後、クズ男は別の女と浮気をする。いつもそのパターンの繰り返しだった。
つまり、恋愛において紗英はなんの成長もしていない。そもそも恋愛に向いていないのかもしれない。幸せな恋愛がどこにあるのかなんて、まるでわからなかった。
「私の性質で勝つ負けるというより、そんな勝負のようなことで付き合えませんよ。それって恋愛でもなんでもないじゃありませんか」
「ふむ……なるほどな」
悠司は少し考えるそぶりをした。
勝負のために恋愛するなんて、気持ちが盛り上がるわけがないと思う。
それこそ紗英に甘えた悠司がクズ男になってしまう未来が見えて、憂鬱になる。
紗英に向き合った悠司は、笑みを見せた。
「わかった。じゃあ、恋人契約ということにしよう」
「はい……? 恋人契約って、なんですか?」
「かりそめの恋人として契約を結ぶということだ。勝負がつくまでの仮の恋人なら、いいだろ?」
確かに、かりそめの恋人としてなら、本当の恋人ではない。
勝負がつくまでの、恋人ごっこということだ。さらに契約である以上、いつでも破棄できるはず。
そもそも酒に酔った上で悠司が言い出したことだから、彼が飽きたらそれで終わりだろう。もしかしたら明日には、話が流れてしまうかもしれない。
彼が紗英にこだわるのも、勝負を言い出したので引っ込みがつかないという理由かもしれない。
そう解釈した紗英は頷いた。
「わかりました。それじゃあ、恋人契約ということにして、お付き合いしましょう」
「よかった。じゃあさっそく、紗英のアドレスと番号を教えてくれ」
さっとスマホを取り出した悠司は、連絡先を交換しようとする。
紗英は目を瞬かせた。
「え……かりそめの恋人なのに、連絡先を交換するんですか?」
「連絡先がわからないと事情を聞けなくて困るだろ。きみがホテルからいなくなるから、誰かに誘拐でもされたのかと俺は心配した。そういうことがないようにするためだ」
痛いところを突かれて身を小さくした紗英は、自らのスマホを取り出す。
悠司に心配をかけさせたのも、すべては紗英の浅慮が原因である。
ふたりは連絡先を交換した。
「よし。紗英のアドレスを手に入れたぞ」
なぜか悠司は嬉しそうに自らのスマホを掲げる。
まさに金棒を手にした鬼のような得意顔だ。
紗英のアドレスを入手したくらいで、なぜそんなに喜ぶのだろうか。
「鬼メッセージは勘弁してくださいね。私にも都合があるので」
「相手の都合くらい考慮するさ。わかってると思うけど、合コンに行くなよ」
「行きませんよ……」
「もちろん俺も行かない。紗英以外の女と飲みにも行かない。ほかの女にいっさい触れない。あと、俺に望むことはあるか?」
「特にありません……」
かりそめの恋人ではなかったのか。
悠司はまるで本物の恋人になったかのように、ふたりのことを取り決めてくる。
でも、それが不快ではなかった。
彼はここで話す前に、木村からの誘いを断ってくれた。
つまり悠司はすでに紗英に対して、この提案をするつもりでいたのだ。
彼の誠実さを信じてみたい。
胸に温かなものが芽吹くのを感じていると、紗英の頭を、悠司は優しく引き寄せた。
「俺に甘えろよ」
きゅん、と胸が高鳴る。
低い声で耳元に囁かれて、紗英は戸惑った。
そんなことを言われたら、好きになってしまいそう――。
でも、ダメ。私が負けるわけにはいかないんだから。絶対に悠司さんをクズ男にはさせられない!
そう心に誓った紗英は、恋心のようなものを胸の奥深くに押し込める。
紗英の頭を撫でながら、悠司はさらに甘い声で誘いかける。
「次の休みはデートしような」
「え、デートですか?」
かりそめの恋人なのにデートする必要はあるのか。
疑問に思ったが、嬉しそうに悠司の顔を見たら、拒否できなかった。
「そう。紗英はどこに行きたい?」
「えっと……わかりません」
まともなデートなんてしたことがないので、どこかに行きたいという願望がなかった。
だけど、どこにも行きたくないわけではない。
遊園地とか動物園とか、どこでもいいのだけれど、恋人同士で楽しみたいという気持ちはある。クズ男と付き合ううちに、それが薄れてしまったが。
抱き寄せた紗英の頭を、ぽんぽんと撫でた悠司は、楽しげに話す。
「じゃあ俺がデートコースを立てておくから。メッセージで送っておく」
「……承知しました」
つい、いつもの癖で上司に対する返事をしてしまう。
その後、クズ男は別の女と浮気をする。いつもそのパターンの繰り返しだった。
つまり、恋愛において紗英はなんの成長もしていない。そもそも恋愛に向いていないのかもしれない。幸せな恋愛がどこにあるのかなんて、まるでわからなかった。
「私の性質で勝つ負けるというより、そんな勝負のようなことで付き合えませんよ。それって恋愛でもなんでもないじゃありませんか」
「ふむ……なるほどな」
悠司は少し考えるそぶりをした。
勝負のために恋愛するなんて、気持ちが盛り上がるわけがないと思う。
それこそ紗英に甘えた悠司がクズ男になってしまう未来が見えて、憂鬱になる。
紗英に向き合った悠司は、笑みを見せた。
「わかった。じゃあ、恋人契約ということにしよう」
「はい……? 恋人契約って、なんですか?」
「かりそめの恋人として契約を結ぶということだ。勝負がつくまでの仮の恋人なら、いいだろ?」
確かに、かりそめの恋人としてなら、本当の恋人ではない。
勝負がつくまでの、恋人ごっこということだ。さらに契約である以上、いつでも破棄できるはず。
そもそも酒に酔った上で悠司が言い出したことだから、彼が飽きたらそれで終わりだろう。もしかしたら明日には、話が流れてしまうかもしれない。
彼が紗英にこだわるのも、勝負を言い出したので引っ込みがつかないという理由かもしれない。
そう解釈した紗英は頷いた。
「わかりました。それじゃあ、恋人契約ということにして、お付き合いしましょう」
「よかった。じゃあさっそく、紗英のアドレスと番号を教えてくれ」
さっとスマホを取り出した悠司は、連絡先を交換しようとする。
紗英は目を瞬かせた。
「え……かりそめの恋人なのに、連絡先を交換するんですか?」
「連絡先がわからないと事情を聞けなくて困るだろ。きみがホテルからいなくなるから、誰かに誘拐でもされたのかと俺は心配した。そういうことがないようにするためだ」
痛いところを突かれて身を小さくした紗英は、自らのスマホを取り出す。
悠司に心配をかけさせたのも、すべては紗英の浅慮が原因である。
ふたりは連絡先を交換した。
「よし。紗英のアドレスを手に入れたぞ」
なぜか悠司は嬉しそうに自らのスマホを掲げる。
まさに金棒を手にした鬼のような得意顔だ。
紗英のアドレスを入手したくらいで、なぜそんなに喜ぶのだろうか。
「鬼メッセージは勘弁してくださいね。私にも都合があるので」
「相手の都合くらい考慮するさ。わかってると思うけど、合コンに行くなよ」
「行きませんよ……」
「もちろん俺も行かない。紗英以外の女と飲みにも行かない。ほかの女にいっさい触れない。あと、俺に望むことはあるか?」
「特にありません……」
かりそめの恋人ではなかったのか。
悠司はまるで本物の恋人になったかのように、ふたりのことを取り決めてくる。
でも、それが不快ではなかった。
彼はここで話す前に、木村からの誘いを断ってくれた。
つまり悠司はすでに紗英に対して、この提案をするつもりでいたのだ。
彼の誠実さを信じてみたい。
胸に温かなものが芽吹くのを感じていると、紗英の頭を、悠司は優しく引き寄せた。
「俺に甘えろよ」
きゅん、と胸が高鳴る。
低い声で耳元に囁かれて、紗英は戸惑った。
そんなことを言われたら、好きになってしまいそう――。
でも、ダメ。私が負けるわけにはいかないんだから。絶対に悠司さんをクズ男にはさせられない!
そう心に誓った紗英は、恋心のようなものを胸の奥深くに押し込める。
紗英の頭を撫でながら、悠司はさらに甘い声で誘いかける。
「次の休みはデートしような」
「え、デートですか?」
かりそめの恋人なのにデートする必要はあるのか。
疑問に思ったが、嬉しそうに悠司の顔を見たら、拒否できなかった。
「そう。紗英はどこに行きたい?」
「えっと……わかりません」
まともなデートなんてしたことがないので、どこかに行きたいという願望がなかった。
だけど、どこにも行きたくないわけではない。
遊園地とか動物園とか、どこでもいいのだけれど、恋人同士で楽しみたいという気持ちはある。クズ男と付き合ううちに、それが薄れてしまったが。
抱き寄せた紗英の頭を、ぽんぽんと撫でた悠司は、楽しげに話す。
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