一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

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十一話

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 途端に昨夜の記憶が脳裏によみがえる。
 酔った勢いで失恋を語り、上司とベッドインしてしまった醜態に青ざめた。
 なんて軽率なことをしたんだろう……。
 青ざめた紗英は体を震わせる。
 そのとき、長い睫毛を瞬かせた悠司が、ゆっくりと目を開けた。
「おはよう、紗英……起きたのか?」
 甘く掠れた声を紡いだ悠司は、寝起きのためか、雄の色気が滲み出ている。
 けれど、もう夜は明けたのだ。
 つまり甘く過ごした夜は終わったということである。
 それがわからないほど、紗英は子どもではないつもりだ。
 抱きしめる悠司の腕を退かした紗英は、ベッドの上に身を起こした。
「あの……課長……昨日はですね……」
「朝になった途端、『課長』はないだろ。ふたりのときは名前で呼んでくれ」
「承知しました。では、悠司さん」
「まあ、いいけどな。どうした、急に仕事モードだな」
 笑いながら、悠司は紗英の腰に絡みつく。
 寝起きだからなのか、彼はまだ恋人気分が抜けないようだ。
 ふたりは一夜限りの関係である。
 つまり、過ちを犯したのだ。
 ふたりとも恋人がおらず、独身なので、誰にも非難されないわけだが、付き合っているわけではないので、過ちと言えばそうなるだろう。
 紗英は遊びで誰かとワンナイトするような女ではなかった。
 同じ職場なのに一夜限りの関係になったら、気まずくなるのは必至だろう。
 それなのに、悠司にはまったく罪悪感が見えない。
 それとも男性だから、あまり気にしていないのだろうか。
「昨日の紗英は可愛かった。まさか抱いたらあんなに可愛いなんて思わなかったよ」
 腰に絡みついた腕をさりげなく外した紗英は、苦笑を零した。
「あの、昨日のことは忘れてください」
「忘れる? なぜ?」
 顔を上げた悠司は訝しげに問いかけた。
 あくまでも職場の上司と部下が酒の勢いで体を重ねてしまっただけだ。昨夜のことはなかったことにして、これまで通りの関係でいたい。そうでなければ業務に支障を来してしまう。
 そう考えた紗英は、ぽつぽつと話した。
「私……酔った勢いでいろいろ語ってしまったと思うんですけど、覚えていられても恥ずかしいので」
「ああ。気にしなくていいよ。俺は紗英のことを誰かに吹聴するような男じゃないし、馬鹿にしたりもしない。きみと抱き合ったことも、もちろんふたりだけの秘密だ。そうだろう?」
「ええ、まあ、そうなんですけど……」
「それより、シャワーを浴びよう。一緒にバスルームに行こうか」
 身を起こした悠司は、紗英の頬に、チュッとキスをした。
 彼はなにか勘違いをしてはいないだろうか。
 まるで恋人のように扱われて、紗英は戸惑ってしまう。
「いえ、それは、お断りします。悠司さんが先に浴びてください」
 彼の強靱な体を両手で押して、バスルームへ促す。
 とはいえ、剛健な体はびくともしなかった。
 悠司は残念そうな顔をしながら、渋々ベッドから足を下ろす。
「しょうがないな。じゃあ先に浴びるけど、このあと一緒に朝食にしよう。きみを誰にも見せたくないから、インルームダイニングがいいな」
「承知しました。どうぞ、お先に」
 名残惜しげに悠司は紗英の髪の一房を手に取る。
 その髪にキスを落としてから、するりと離した。
 愛情の残り香が切なくて、胸が引き絞られる。
 だけど、彼と恋人になれるわけはないのだから、初めから期待を持つべきではない。
 悠司がバスルームに消えていくと、ややあってシャワーの水音が響いてくる。
 紗英は音を立てずにベッドを下りると、かき集めた服を着て、バッグを持つ。
 ドアノブを回して、こっそり部屋を出た。
「ごめんなさい、悠司さん」
 小さな声で謝り、足早にエレベーターホールへ向かう。
 悠司は追ってこなかった。
 さすがにバスルームから部屋の様子は、わからないだろう。
 ホテルの車寄せに待機していたタクシーに乗り込み、自宅へ戻る。
 いつもの街並みを目にすると、現実に戻ってきたような感覚が湧いた。
 昨夜のことは、甘い夢だったのだ。
「忘れよう……」
 小さな溜息をついた紗英は、自分の手を擦り合わせた。
 そこには悠司の熱がまだ残っているような気がして、かすかな疼きを覚えるのだった。

二、御曹司と恋人契約

 悠司と一夜を過ごしたのは金曜日だったので、翌日の土曜日を、紗英は悶々として過ごしていた。
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