上 下
10 / 48

十話

しおりを挟む
 下着を脱がせた彼は、紗英の裸をじっくりと見つめる。
 恥ずかしくなり、紗英は頬を朱に染めた。
「あの……そんなに、見ないでください」
「綺麗だ。貴重な美術品より、きみの体は美しい」
 そんなことは誰にも言われたことがない。
 真剣に呟く悠司に、紗英の胸には驚きとともに喜びが湧き上がった。
 決して自信のある体ではないのに、やっぱり褒めてもらえると嬉しい。たとえお世辞であっても、少しなら自信を持ってもいいのかな、と思えてくる。
 チュ、と紗英の唇にキスをひとつ落とした悠司は、膝立ちになって自らの服を脱ぐ。
 ジャケットとベストを脱ぎ捨て、するりとネクタイをほどくと、純白のシャツの釦を外す。
 潔く裸になる悠司を、紗英はどきどきしながら見つめていた。
 露わにされた彼の上半身は、神が造形したのかと見まごうばかりの、均整のとれた肉体だった。ほどよくついた筋肉はしなやかで、雄の猛々しさを滲ませている。腹筋は綺麗に割れていた。
 紗英が見惚れていると、ベルトを外した悠司は口元に弧を描く。
「俺の体、好き?」
「え、えっと……はい」
 紗英は小さく頷いた。
 こんなに素敵な肉体を嫌いな人なんていないだろう。
 だけど悠司はその答えに、不服げに眉を跳ね上げる。
 彼はまろやかな愛撫を与えながら、低い声で囁いた。
「好き、って言ってほしいな」
「ん……好き、です」
「俺も。好きだよ」
 体の話だと思うが、好きと言い合うだけで、なんだか恋人のような甘い気分になり、心が温かくなる。
 とろとろに蕩けた体は、腰の奥から蜜を滲ませる。
 愛撫されてこんなふうに感じるなんて、紗英には未知のことだった。
 それくらい悠司の抱き方は優しくて情熱的で、心と体を満たした。
 空虚だった心身が満たされていく感覚に、恍惚として甘い声が漏れる。
 こんなに甘えた声が出るなんて、紗英は自分でも信じられなかった。
 やがて、ともに達したふたりは、しばらくの間、きつく抱き合っていた。
 荒い息遣いが耳に心地いい。彼のしっとりと汗が滲んだ肌にも愛しさが湧いた。
 ややあって、頂点から下りたふたりの息が整う。
 少し顔を上げた悠司は、双眸を細めて紗英を覗き込んだ。
「最高だ。きみの中は楽園だよ」
「私も……こんなに感じたの、初めて」
 満足げな息を吐いた悠司は、体を起こす。
 事が済んだから、離れるのは当然だった。
 それを紗英は、寂しいと思ってしまった。
 だがコンドームを外して事後処理を済ませた悠司は、紗英の横に寝そべる。彼は強靱な腕を伸ばして、紗英の頭の下に差し入れると、腕枕をした。
 空いたほうの手で紗英と手をつなぐ。悠司は甘く掠れた声で囁く。
「好きだよ」
「……えっ」
 紗英は思わず目を瞬かせて驚いてしまった。
 けれど、すぐに思い直す。
 事後の『好き』は、ベッドをともにした相手への気遣いだろう。
 だって紗英は事後だろうがそうでなかろうが、誰にも『好き』なんて言われたことがない。彼氏だろうと、そんな台詞を言ってくれる人はいなかった。
 だから付き合ってもいない悠司が『好き』と言うのは、きっと気遣いという理由以外にない。
 そう解釈して、高鳴りかけた胸の鼓動は急速に落ち着きを取り戻した。
 悠司は愛しげに目を細めて、紗英を見つめている。
「私も……」
 好き、と言いたい。
 でもなぜか言えなかった。
 先ほどは、体が好きという意味だから言えたのであって、悠司自身を好きと言ってしまったら、後戻りできない気がしたから。
 そうしているうちに眠気に襲われて、紗英は眠りの淵に落ちていった。
 彼の熱い体温は紗英が眠ってもずっと、離れなかった。
 すうすうと安らかな寝息を立てている紗英に、悠司はそっと呟く。
「おやすみ」
 つないだふたりの手は、しっかりと握られていた。

 ゆっくりと意識が浮上する。瞼に明るい陽射しを感じて紗英が目を開けると、いつもの自室の天井とは異なるのに気づいた。
 あれ……ここ、どこ?
 純白の広い天井に心の中で首を捻っていると、体が熱いもので包まれていて、はっとする。
「えっ……⁉」
 横を見ると、悠司の端麗な寝顔が間近にあった。
 彼の強靱な腕に、裸の体が抱き込まれているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...