乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

地下室からの帰還

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「わかった。それじゃ、気をつけて」

 ぶんぶんと首を縦に振ったノエルは大階段を上ったところでアランと別れた。
 ラ・ファイエット侯爵が現れたときは、本物の幽霊が出たかと思った。あの状況で冷静に話せるアランの神経には感服する。侯爵との相談に付いてこいなんて命令されたりしたら、全力で仮病を使うだろう。
 客間まではもうすぐなので、角灯の明かりが持つことを祈りながら怖々と廊下を進んだ。

「はあ……。ただいま、フランソワ。暗号解けた?」

 ようやく辿り着いた部屋の扉を開き、脱力しながら問いかける。
 コレット家の完璧執事は、長椅子に横になり安らかな寝息を立てていた。
 テーブルに広げられたメモを見ると、書き込みが少々増えてはいるものの、メモの域を脱していない。解読の途中で力尽きてしまったようだ。
 主人が地下の大冒険を繰り広げていたというのに、執事が椅子で寝落ちとはいかがなものか。
 頭にきたノエルは、束ねられた金髪の毛束をぐいと引っ張る。

「ちょっと。起きてよ」
「んん~、むにゃむにゃ……。坊ちゃま、本日のディナーはコウモリの羽入りシチューでございます、ご堪能あれ……」

 楽しそうな夢見てるね。
 日常に戻ったときのほうが恐ろしいかもしれない。
 がっくりと肩を落としたノエルは、フランソワに毛布を被せてから角灯の明かりを消し、ベッドに潜り込んだ。



 一夜明けて、フランソワは優雅に飛び起きるという芸当を見せた。寝不足で眼を擦るノエルに、彼は朝の挨拶と謝罪を述べる。

「おはようございます、坊ちゃま。本日も素敵な朝でございますね」
「うん。曇りだけどね」
「昨夜は坊ちゃまより先に寝てしまい申し訳ございません。このフランソワ、一生の不覚でございます」

 あれが一生の不覚だなんて、数々の際どい発言やら、毎日提供される手料理やらと比べたら些細なことだ。フランソワの常識では、それらは不覚ではなく、精一杯の愛情を込めた献身なのだなと、改めて実感したノエルは苦笑いが止まらない。

「いいよ、べつに。解読もヒントがないと、これ以上進まないみたいだね?」
「わたくしの稚拙な知識では未だに謎は解けておりませんが、怪盗が登場する前には解答を導き出して御覧にいれましょう」

 朝から下手な駄洒落を聞かされたところで、腹の虫が、ぐうと鳴る。
 そろそろ朝食の時間だが、今日もまたメイの架空料理が待っているのだろう。あれは、いかに脳内でおいしい料理をイメージできるかが鍵だと思うのだが、ノエルの乏しい料理知識では頭に思い描いたところで程度が知れている。
 ああ、おなかへった。
 まともな食事を取らなければトイレットに行く用はないわけで、大変都合がよろしいでございます。

「フランソワ、着替えるから隣の部屋に行ってていいよ。そうだ、角灯の油が切れそうだから足しておいて」
「承知いたしました」

 ノエルが支度を調える間、隣の部屋では角灯を弄ったり、昨夜持ち帰った皮袋の水を水差しに開ける音がしていた。フランソワは顔を洗う器に水を少々注いで、慇懃にタオルを差し出す。
 器に入れられた水の量はもちろん、小雨でできた水溜まり以下である。目と口許くらいは洗えるだろう。

「地下に井戸があって、そこから水を汲めるんだ。フランソワも喉渇いたでしょ。飲んでいいよ。皮袋はアランのだから後で返そう」
「ありがとうございます。皮袋は干しておきましょう」

 後で地下の墓場やメイのことを話しておかなければ。
 ノエルは顔を洗いながら、昨夜の会話を思い返した。
 やはり、偽の乙女怪盗はメイだった。
 けれど、宝石の所有者について何か事情があるようだ。もう少し詳しい話を聞けないだろうか。
 思考しながら廊下を歩き、ダイニングへ向かう。後ろを歩くフランソワは、ふと口にした。

「そういえば、角灯の油はまだ沢山残っておりましたよ。減った分は継ぎ足しておきましたが」
「そう?」

 油など些細なことだ。当面の問題は食糧と水だ。水は確保できたのでよしとする。
 それから、メイと宝石のこと。
 乙女怪盗ジョゼフィーヌの出番は近い。
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