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螺旋編 二章:螺旋の迷宮

約束

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 転生を繰り返すクロエの話と理由を聞いたマギルスは、表情に疑問を宿らせながら口を開く。
 少年のマギルスにとって、クロエの生き方と死に方は理解できるモノではなかったのだ。

「――……それ、楽しいの?」

「?」

「だって、この世界を魔力で満たす為だけに生きて、そして死んで。そんなのずっとしてて、楽しいの?」

「……ううん。楽しくは無いね」

「じゃあ、楽しくないなら止めちゃえばいいじゃん! どうしてずっと続けるのさ?」

「そうしないと、この世界から『魔力』という存在そのものが、消えちゃうからだね」

「……魔力が、消える?」

「世界には、とても膨大な魔力がある。でもそれは日々、消費され続けているの。私達がこうやって呼吸しているだけでも、世界から魔力は消費され続けてるんだよ?」

「え……」

「そして生命が自然の中で育てるのも、魔力があるから。アリアさん達のような魔法師が使う回復魔法や攻撃の為でも、君達みたいな魔人や魔族が身体を強くする為のモノじゃない。元々は、この広大な宇宙せかいの中で生命が育つ為に必要な、ただの栄養なんだよ」

「魔力が、栄養……?」

「その栄養である魔力が、何も無い宇宙そらに星を生み出し、生命を生み出し、世界を生み出す。それを繰り返しながら世界を広げて、やがて無限に等しい宇宙そらを生命で溢れさせた。だから君や皆は、こうして世界の中で生きていられるの」

「……」

「私は、その魔力えいようが世界から無くならないように役目を与えられた。もしその役目を止めちゃうと、瞬く間に魔力がどんどん消費されて、世界から無くなっちゃう。……そうなったら、どうなるかな?」

「……皆、死んじゃう?」

「そうだよ。この世界みたいに、何も無い光景になる。……そんな世界なんて、マギルスもつまらないでしょ?」

「……うん」

「だから私は、楽しくないけど続けてるんだ。つまらない世界は、嫌だから」

 マギルスの疑問に答えたクロエは、微笑みながら自身の役目に対する見解を話す。

 『魔力』が無い世界では、生命は生まれないし育たない。
 それを満たす為の役目を放棄すれば、世界は死へと向かう。
 世界の死を望まないクロエは、何百万年以上も前から『到達者エンドレス』として生き、そして死に続けた。
 
 楽しいからやるのではない。
 つまらない世界は嫌だから仕方無くやるという考え方と行動は、楽しさを生き方にしたマギルスにとって未知の話だっただろう。
 困惑し動揺するように表情を悩ませるマギルスを見ながら、クロエは笑って話し掛けた。

「……その役目は楽しくないけどね? 別の事で、楽しい事はいっぱいあるよ」

「え?」

「長く生きて、死んでを繰り返すとね。世界がどんな時の流れを刻んだのか、私の魔力で生まれて育った人達はどういう生き方をしたのか、それを見れるの」

「……それが、楽しいの?」

「うん。だからね、私はマギルスと一緒にいると、とても楽しいんだ」

「!」

「私が死に続けて、魔力を生み出し続けたから。だからこうして、マギルスと会えた。それがとっても楽しくて、そして嬉しい」

「……!!」

「エリクさんや、アリアさん。そしてケイルさん。あの三人と会えたのも、とても楽しくて、とても嬉しい。……でも、せっかく出会えた人達が死んでしまったら、とても悲しい。つまらない。私は、そう思うんだ」

「……」

「私は死んでも、また何処かで生まれ変わる。そうしたら、大きくなった君とまた出会えるかもしれない。……でもね、君やアリアさん達が死んでしまったら、もう二度と私とは会えなくなるの」

「……ッ」

「そんなの、私は嫌だな。……ねぇ、マギルス?」

「……なに?」

「私とまた会えたら、友達になってくれる?」

「……でも……」

「大丈夫。私とマギルスは、また会えるから。その時は、いっぱい遊ぼうね。まだマギルスに教えてない遊びが、いっぱいあるから」

「……本当に、また会える?」

「私がマギルスに、嘘を吐いたことある?」

「……無い」

「でしょ? だから、君はここから出て。マギルス」

 クロエは手を緩やかに動かし、マギルスの顔に触れる。
 幼く小さな手で優しく撫でるクロエは、マギルスを抱き寄せた。

「世界にはいっぱい、楽しい事があるよ。……でも、つまらない事をしなきゃいけない人達もいっぱいいるの。私みたいに」

「……」

「でもね、つまらない事だけが全てじゃない。沢山のつまらないがある中で、一つの楽しみがある。それが、生きる理由になるんだよ」

「……生きる理由……?」

「だから、マギルスもいっぱい生きてね。そして私みたいに、生きる理由を見つけてね。そうすれば、マギルスにとって本当に楽しい事も、見つかるから」

「……うん」

 優しく抱き締めるクロエが囁き伝える言葉が、マギルスの耳に届く。
 ただ一つの楽しみしか知らなかった者と、多くのモノから一つの楽しみを見出した者という違いが二人にはあったが、それは友達となる事に問題にはならなかった。

 説得されたマギルスは青馬に指示し、廃村があった方角へ戻る。 
 そして発熱で再び気を失うように眠ったクロエと共に、数時間後に廃村へ戻ってきた。

「――……この、バカッ!!」

 そして凄まじい形相でアリアは怒鳴り、マギルスは不服そうな表情で顔を背ける。
 アリアの説教は十数分ほど続いたが、痺れを切らしたマギルスが途中で逃亡し、建物内に寝かされるクロエと一緒に過ごすようになった。

「僕がフォウル国でいっぱい強くなって、生まれ変わった君を探しに行くからね。ついでに、君を狙ってる奴等も倒しちゃうから!」

「……うん。待ってるね」

 そうして再会を約束する二人は、互いに微笑みながら話す。
 それを見ていた大人達は、マギルスもクロエの死を受け入れ、別れの覚悟を決めた事を察した。

 それでも最後までアリアは別の方法を模索し、クロエに出来る限りの治療は続ける。

 しかし一週間後、水と食料が底を尽く。
 時間内で用いられる万策が尽き、高熱が治らず衰弱が酷くなるクロエの容態から、一行は次の事態に備えざるを得なくなった。
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