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『5.孤独な星のお泊り』
熱い手
しおりを挟む何かを言い返そうとする、
俺の唇は何故か、
声を発しないままだった。
シリウスは
俺の隣に腰を下ろした。
遠慮がちに、
熱い手が俺の髪をなでる。
「……お前が輝きを失っても、
俺にとっては"超えられなかった壁"だ。子供の時から、ずっと変わらない。俺に輝いて見えればそれで良い」
俺はさらに動けなくなった。
普段の俺なら、
きっとこの場を茶化して終わらせただろう。
けれど、今日俺は、
ずっと言葉を失ったままだった。
「シリウス……」
気づけば、その名を呼んでいた。いつも「監督様」とか
「天狼星」とか、
からかい交じりで呼んじゃうのに。
やつが俺の名を何度も呼び、
俺を支えようとするその姿が、
不器用で、真っすぐで――
妙に胸が熱くなった。
けど。
「⋯⋯俺が弱ってるからって、優しくするなよ。狼さん」
やっと出てきた言葉が
これだったのが情けない。
それでもシリウスは、
驚くほど真剣な瞳で
俺を見つめていた。
「弱ってなくても、お前には優しくするさ。幼い頃からの弟分だからな」
鼻の奥が痛い。
目頭が熱くなるのを
ごまかそうと、俺は悪態をついた。
「⋯⋯嘘つけ。その弟分をさっきさんざんどついてくれたくせに」
「⋯⋯そ、それは⋯⋯お前があんまり煽るから⋯⋯」
天狼星のまなざしが宙を泳ぎ、
薄闇でも解るくらい
シリウスは赤面していた。
「⋯⋯悪かった。お前の可愛さに自制ができなかった」
「何が可愛いだ,Merde(くそっ).
もげちゃえよ、絶倫め」
悪態を聞き流し、シリウスが
俺の頭にそっと手を置く。
その手の重みが、
妙に心地良かった。
「ルシ。お前がどこで一番星だろうが、冥王星だろうが⋯⋯俺には変わらない。俺のルシファーだ。子供の頃から、ずっと」
シリウスの熱が、
俺の胸に深く、
深く染み渡っていく――
「シリウス……」
彼はそのまま、
何も言わずに隣に座っていた。
思えば俺は、
付き合いが長いだけの
この男のことをまだ知らな過ぎる。
だけど今日、
もう少しだけ――
ううん、もっともっと……
知りたくなったんだ。
――"あんたの"一番星でいるのも、悪くないかもね。
そんなことを考えながら、
俺は静かに目を閉じた。
シリウスになら少しくらい、
俺の弱さを晒しても
良いと思えたから。
けどシリウス、
俺は忘れてないからな……!
あの後、風呂場で
『かき出すだけ』って
言っておきながら、
結局最後までやり切ったこと!
しかも…何回も……!
次の日、
座れないわ、熱は出るわで
散々だったんだからな!
このどすけべ!
……まあ、あんたが慌てふためいて、
看病してくれる姿は見ものだったけどさ。
さて、どすけべ狼の
いろんな意味で面白い話をしたから、
次は俺あいつの兄貴分光る話をしようか。
もちろん俺たちがくっついた後の話さあ!
――赤い縄を見ると、俺は未だに寒気がするぜ⋯⋯
『孤独な星のお泊り』おわり
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