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黎編
21話 過去③
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ある日、おれは担任の先生に呼び出された。何か悪いことをしただろうか…と疑問が残った。
空き教室に待っているように言われおれは机に座って待っていた。
しばらく待っていると
ガラッと音が鳴った。音のする方を見ると…そこには先生がいた。
「せんっ───」
話しかけようとした───そのとき
バンっ!
おれは机に背中をつけていた。
目の前に、先生がいて…おれはいつの間にか、先生に押し倒されていた。
「先っ…」
「可愛い…。黎君は…他の生徒とは違って…本当にいいこだねぇっ…。」
先生はそういうとおれの顔を手で優しく撫でた。
「先生…?」
──────おれはわからなかった。
───先生がおれをどんな目でみていたかなんて。
「黎君…かわいいねっ。かわいい…本当に。」
先生はそういっておれの──ほっぺをペロッと舐めた。
「っ!?」
びっくりした。意味がわからなかった。
よく、先生の顔を見た。
先生は──おれのことを見ていた。
まるで獣になったようにおれを喰おうとしていた。はぁはぁっと息を荒くさせおれを────犯そうとしていた。
その目をその姿を──見てしまった。
嫌だと思った。怖かった。身体が震えた。
なんで…おれなんだと思った。
「たっ…」
助けてっ…と声を出したくなる。
「黎君…。もしかして怖いの?」
先生はそういっておれを抱きしめる。
「大丈夫、気持ちいいことしかしないから。」
気持ち悪いっ────!!
いやだ、いやだ!!どうして…おれ、こんなっ…。
目がおれを写っていた。おれを熱を帯びたような目で見つめてくる。
まるで正兄のようだ───。
先生の目が──正兄に似てた。
それを気づいたとき──怖かった。
先生が…正兄のように見えた。
「かわいいねっ…。黎君、かわいいっ。」
『かわいいっ…。れーくんはかわいいねっ…。』
いやだ、怖いっ…!
「離せっ!!」
声が出た。先生にこんな暴言、吐くことはないと思っていた。
なのに…声が出た。
気持ち悪い、気持ち悪いっ───。
「黎君、好きだよ───。ねぇ?」
先生はおれのワイシャツをビリッと破った。
破るとおれの肌をペタッと触ってきた。
「やめっ…!」
「うわぁっ…!黎君、肌、すべすべ…♡」
おれに、触るな。おれに──そんな目をするなっ!!
いやだった、どうしても────。
「やめろって!!」
おれは先生をどんっと押した。
なのに、ビクともしない。
───────怖い。
助けて。助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
─────、助けて。
頭の中がパニックになる。どうすればいいのか、わからない。
先生の顔が近づいていくのを感じる。
助けてっ─────亮っ。
おれは涙がポロポロこぼれた。
怖かった、先生の目が、触り方が正兄に似てた。それが…とてもショックだった。
「黎君っ…。」
先生はおれの泣いてる姿を見て一瞬力を緩めた。
その瞬間におれは先生を押した。
そして…おれは───逃げ出した。
はぁはぁっと息を吐く。おれは走った。全力で逃げた。
怖かった、怖かった…。
「はぁっ…はぁっ…。」
走りながらおれは泣いていた。
意味がわからず───おれは、泣いた。
それから───先生の熱を帯びたような目を受けながらおれは生活した。
時々、隙をみて手、腕、肩…胸を触られることもあった。
本当は…『やめてくれ』と言いたかった。けど…おれは気づかないふりをした。
怖かった。嫌われるのも、おれを好きだという感情を向けられるのも。
嫌だった。
おれは中学二年生になると生徒会長になった。
先生にやってみなさいと言われたのと正兄も生徒会長をやっていたからだ。
初めての生徒会。だけど…おれは周りから悪い噂が漂っていた。
おれはこのごろには噂が噂を広め…学校で一番強いと言われ怯えられていた。
先生を脅し、おれに近づいたら呪われる、不幸になる、話しかけたらナイフで刺されるなどデタラメだ。
だから…生徒会に入ってくれる人なんて誰一人いなかった。
おれは一人で生徒会の仕事をこなした。毎日、毎日、日が落ちるまでずっと書類に目を移していた。少しでも休めば、間に合わない。おれがしなければならないことは沢山あった。
おれは誰かに頼ることはできなかった。
頼る相手が…いなかった。
おれは時間が余す限りずっと仕事をしていた。でないと仕事は終わらない。
ずっとずっと…パソコンに向かう日々。
おれの日々はそれだけだった。
頑張って書類をつくって、先生に褒められる。この頃になると褒められることも…怖くなっていった。
今は期待されてる。けど、次はわからない。
おれは完璧ではない。おれは…ただの人だ。
おれが仕事をするため生徒会に籠もっていると──正兄が現れた。
「正兄っ…!?なんで、いるんだ?」
正兄はとっくに中学を卒業したはずだ。なのに…。おれはびっくりして声が出なくなった。
「正兄っ…。」
「不法侵入とかじゃないから大丈夫。先生にちゃんと許可とったから。」
正兄はにこにこしながらおれを見ていた。
その顔には───先生と同じような熱を帯びた目をしていた。
───────怖い、そう思った。
「れーくん、本当に生徒会長になったんだねっ…!すごい、すごいねっ。」
「そ、そんなことはないぞ…。」
正兄はおれを褒めるとポンポンっとおれの頭を撫でた。
「…ねぇ、れーくん。」
「なんだ?」
「れーくんは担任の先生のこと好き?」
「え?」
正兄がいきなりそんなことを言いだしたのだからおれはびっくりした。
「その反応は…わかってる?」
「あ、正兄っ…。」
「あの担任、れーくんのことが好きだよね?」
「っ…!」
…その言葉を聞きたくなかった。好き。ただ好きなのならいい。けど…。
「なんのことだ?」
「れーくんがそう思いたいんだったら…それでいいけどさ…。」
正兄はそういうとにこっと笑った。
「僕は──誤魔化したくなんかないからね。」
正兄はそういっておれとの距離を詰めてきた。
「あっ…。」
「れーくんはわかってるんでしょ?担任の先生がれーくんのことが好きだって。
れーくんがわかったってことは…何かされた?」
「え?」
「────なにか、されたのかって聞いてるんだけど?」
正兄はそういっておれとの距離をどんどん、どんどん近づけてくる。
「何も…されてない。」
「ほんと?」
「本当だっ…!絶対だっ…!」
「じゃあ、なんでわかったの?」
「え?」
「担任の先生に好きって言われた?」
正兄はどんどん近づいてくる。
やめて、ほしい。こないでほしい。
おれは────このままがいい。
「正兄っ…。」
「れーくんは僕はもう、最初から…
れーくんのお兄ちゃんじゃなかったんだ。」
正兄はそういって話し始めた。
嫌だった、聞きたくなかった。
だって────おれはとっくに知ってた。
その熱を帯びた目がおれを映していた。いつから?そんなのはわからない。
それとも…もっと前からずっと。
だめだ、やめて。
「れーくん、僕はね、れーくんのこと…」
正兄がそう、言った。
その言葉が何を言いたいか、分かってしまった。
「──────やめろ!!聞きたくないっ!!」
おれは正兄を睨みつけた。
そして────そのまま逃げようとした。
怖かった、いやだった…。
だって…おれたちは、兄弟だ。
兄弟、なんだろ。
「っ…待って、れーくんっ!!」
正兄はおれの手を掴んだ。ぎゅっと強く、離さないというように。
やめろ…おれは。
「離せっ!」
「離さないよっ!!」
正兄はぎゅっとおれの手を握りしめた。
「離せって、言ってるだろっ!!」
「離さないっ!!」
そういうと正兄はおれを机の上に押し倒した。
おれの目の前には…正兄がいる。
この光景───見たことがある。
この光景は…、先生に、されたこと。
「っ────離せ!!やめろっ!!怖いっ!!」
「もしかして、先生にも同じことされた?」
「されてない!」
「なら、僕の目と目を見て!」
正兄はおれの両手を持って動けないようにした。
おれは正兄の顔しか見れなくなった。
「もう一度──言うよ、れーくん。」
「嫌だ…怖いっ…。」
「なにが?」
「変わっちゃうのが…、怖い。」
「…。」
おれは泣きながら目をつぶってしまった。
正兄の顔が見えなかった。…怖かったんだ、ずっと。
「…おれはれーくんが好き。
兄弟の好きじゃなくて…もっともっと深い好き。」
「…。言うなって…言っただろ。」
正兄はおれの顔を見ながらごめんと謝った。
「…れーくんが好き。ずっと前から…大好き。」
「…知ってた。」
「いつから?」
「…それは、わからない…。」
「そっか。」
正兄はそういって少しおれを掴む手を緩めた。
「れーくん…。」
と思ったらいきなり距離を近づけてくる。
「な、やめろっ…。」
「れーくんが好きっ…ねぇ、
キスしたい。」
「はっ…!?」
びっくりしておれは目を開けてしまった。すると──そこには正兄が目の前に写っていた。
「やだっ…、おれっ…。」
「れーくん、お願い。お兄ちゃんからの…お願い。」
「やだっ…!」
力を入れると正兄がおれの手を抑える。
正兄の方が…力が強かった。
「正兄っ…本当にやめて…!」
「やめない。やめたくない。」
「やめっ────」
どんどん正兄が近づいてくる。怖い、助けて。
…─────いやだっ!
「助けてっ─────亮っ。」
出た言葉は予想もつかない人の名前だった。
「…え?」
正兄の顔が固まる。
おれも…顔が固まった。
名前が…出た。ずっとずっと…会いたいと思っていた名前。
おれの────憧れ。
「誰?」
「え?」
「亮って───誰?」
正兄はおれに問い詰めるように聞いてくる。
「答えないと───キスする。」
「まっ…待て、」
「待たない。」
「亮、はそのっ…!」
「なに、友達?どいつ?殺すっ。」
正兄の表情は特に変わった様子は見えなかったが声がどんどん低くなっていった。
「亮は…おれだって今どこにいるのかわからない。友達…でもない。」
「じゃあ、なんなの?」
「亮は────。」
一瞬、怯んだ。言ってはいけない気がした。言ったら───傷つける。
「亮は──おれの憧れだっ…!」
「えっ…?」
正兄の戸惑ったような声が聞こえる。
…言わなきゃ良かった。
亮がおれの本当の憧れだって。
だって、おれが亮を憧れといったときの正兄の顔が───真っ青に染まって今にもショックで倒れてしまいそうに
なっていたから。
「憧れって…。」
そう正兄が言ったとき───
「あのー、すみません。」
声がした。それは生徒会のドアの向こうからだ。
やばいっ…そう思った。
こんな姿────見られたら──。
しばらく正兄は黙っていた。けど、おれを離す素振りは一切見せなかった。
「正兄っ…。ドアっ…!誰か入ってくるっ…!」
今、おれは正兄に押し倒される光景だった。
これを…見られるのはマズいと思った。
「正兄っ…!」
「あのー、入りますよ…?」
声が聞こえる、誰かが…入ろうとしてる…!
「正兄っ!!」
「─────れーくんは」
「え?」
おれが正兄の名前を叫ぶと正兄がぽつりとおれのことを呼んだ。
「れーくんは…おれの下じゃないといけないんだ…。
だから…生徒会長なんかに…ならなくてよかった。」
「え…?」
「学校の頂点なんて───立つようなそんな存在になっちゃ…だめなんだ。」
「正兄っ…!?離しっ───」
ガチャガチャとドアを開く音が聞こえる。嫌だ、どうしよう、このままじゃ…
「れーくんは…また、下に落ちるべきだ。」
正兄はそういった。
その瞬間───正兄の顔が近くにあることを感じた。
「っ─────んっ…!?」
おれは…いつの間にか正兄にキス、をされていた。
「ま、正兄っ…!?」
意味が…わからなかった。
なんで、正兄が────。
今、このタイミングで─────
「きゃっ…!!」
声が聞こえた。
はっとしてその声をする方を見ると…
そこには女の子が4人立っていた。
「まっ…!」
おれは頭の中が真っ白になって立ち上がろうとする。けど…正兄の力で立てなかった。
女の子達は『きゃっ~!』と声をあげながらバタバタと走っていってしまった。
見られた…。
正兄はにこにこと笑っていた。
「れーくんは結構顔に出るよね。かわいい。」
「正兄っ…なにして!?」
「れーくんが悪いんだよ?僕以外のところにいくから。
僕を超えて置いていこうとするから。
だから…れーくんはまた、下に落ちればいいと思って。」
正兄はにこっと楽しそうに笑う。
「ねぇ、れーくん。れーくんは…
また────孤独になればいい。
そして───憧れを僕にすればいい。
そうすれば…僕たちは幸せなんだから。」
正兄のその言葉におれは…怖さ、辛さを感じた。
正兄が…おれを束縛したいのはわかる。だけど…おれは─正兄のことを優先できるほど…優しい人間じゃない。
おれは───自分勝手なんだ。
次の日、教室に──…一枚の写真が貼られていた。
朝から騒がしかった。おれを見る目がいつもと違った…。
あの…小学校のときと同じ、いや、それ以上の────嫌な視線。
「まじかっ…!あいつ、ホモだったんだっ…!」
「ばか、聞かれたら…殺されるっ。」
「でも…まさか、男となんて…」
何があったのかわからず、おれは教室に入る。
すると────
「────キモいんだよ、このホモ野郎。」
教室の黒板に──…一枚の写真が貼られていた。
それは───昨日の正兄とおれがキスしている写真だった。
おれは…目を疑った。なんで…、誰がっ…!
「うわっ、ホモがいる。やばい、ホモに犯されるっ!」
「あははっ、きもっ!!」
一部、おれを馬鹿にする声。
「やめろって…殺されるぞ、あいつ…何するかわからないんだから。」
怯えられる声。
様々な声がおれを闇に包む。
あぁ…、嫌だ。怖い、助けて…。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
──────助けて、亮。
おれはポケットにいれたナイフを触った。触っていたら───そのナイフを向けたくなった。
そして──おれはそのナイフを──
あれ?どうしたっけ?
おれ───なにしたんだろう?
おれが気づいたときには声が聞こえた。
泣いている声、怯えた声だった。
そして…おれを止める声。
おれは───。
ふと落ち着いて周囲を見る。
クラスメートはおれをビクビクと怯えていたような目で見ていた。
はっとしておれの手を見ると…ナイフが握られていて、黒板に貼られた写真がナイフの切り後でビリビリになっていた。
そして──黒板も、ボロボロになっていた。
あぁ…、やってしまった。
おれはそのまま…教室を出た。
心が…痛い。
ホモ野郎、キモイ。
そりゃ…そうだ。
正兄にされたことが頭の中によぎる。そして…次によぎったのは…今、この世に存在しているのかもわからない、亮のことだった。
「…亮。」
そう、口にしても…誰も答えはしない。
おれは、おれをホモ野郎と言われたことより、正兄にキスされたことより、 亮を好きな気持ちが否定されたようなこの環境に…心を痛めていた。
おかしい…おれはおかしかった。
「亮…。」
なんで、こんなにも執着するのだろう。
この思いは似ていた。それが…怖かった。それは───
正兄がおれに思う気持ちとおれが亮に思う気持ちが───同じだったからだ。
空き教室に待っているように言われおれは机に座って待っていた。
しばらく待っていると
ガラッと音が鳴った。音のする方を見ると…そこには先生がいた。
「せんっ───」
話しかけようとした───そのとき
バンっ!
おれは机に背中をつけていた。
目の前に、先生がいて…おれはいつの間にか、先生に押し倒されていた。
「先っ…」
「可愛い…。黎君は…他の生徒とは違って…本当にいいこだねぇっ…。」
先生はそういうとおれの顔を手で優しく撫でた。
「先生…?」
──────おれはわからなかった。
───先生がおれをどんな目でみていたかなんて。
「黎君…かわいいねっ。かわいい…本当に。」
先生はそういっておれの──ほっぺをペロッと舐めた。
「っ!?」
びっくりした。意味がわからなかった。
よく、先生の顔を見た。
先生は──おれのことを見ていた。
まるで獣になったようにおれを喰おうとしていた。はぁはぁっと息を荒くさせおれを────犯そうとしていた。
その目をその姿を──見てしまった。
嫌だと思った。怖かった。身体が震えた。
なんで…おれなんだと思った。
「たっ…」
助けてっ…と声を出したくなる。
「黎君…。もしかして怖いの?」
先生はそういっておれを抱きしめる。
「大丈夫、気持ちいいことしかしないから。」
気持ち悪いっ────!!
いやだ、いやだ!!どうして…おれ、こんなっ…。
目がおれを写っていた。おれを熱を帯びたような目で見つめてくる。
まるで正兄のようだ───。
先生の目が──正兄に似てた。
それを気づいたとき──怖かった。
先生が…正兄のように見えた。
「かわいいねっ…。黎君、かわいいっ。」
『かわいいっ…。れーくんはかわいいねっ…。』
いやだ、怖いっ…!
「離せっ!!」
声が出た。先生にこんな暴言、吐くことはないと思っていた。
なのに…声が出た。
気持ち悪い、気持ち悪いっ───。
「黎君、好きだよ───。ねぇ?」
先生はおれのワイシャツをビリッと破った。
破るとおれの肌をペタッと触ってきた。
「やめっ…!」
「うわぁっ…!黎君、肌、すべすべ…♡」
おれに、触るな。おれに──そんな目をするなっ!!
いやだった、どうしても────。
「やめろって!!」
おれは先生をどんっと押した。
なのに、ビクともしない。
───────怖い。
助けて。助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
─────、助けて。
頭の中がパニックになる。どうすればいいのか、わからない。
先生の顔が近づいていくのを感じる。
助けてっ─────亮っ。
おれは涙がポロポロこぼれた。
怖かった、先生の目が、触り方が正兄に似てた。それが…とてもショックだった。
「黎君っ…。」
先生はおれの泣いてる姿を見て一瞬力を緩めた。
その瞬間におれは先生を押した。
そして…おれは───逃げ出した。
はぁはぁっと息を吐く。おれは走った。全力で逃げた。
怖かった、怖かった…。
「はぁっ…はぁっ…。」
走りながらおれは泣いていた。
意味がわからず───おれは、泣いた。
それから───先生の熱を帯びたような目を受けながらおれは生活した。
時々、隙をみて手、腕、肩…胸を触られることもあった。
本当は…『やめてくれ』と言いたかった。けど…おれは気づかないふりをした。
怖かった。嫌われるのも、おれを好きだという感情を向けられるのも。
嫌だった。
おれは中学二年生になると生徒会長になった。
先生にやってみなさいと言われたのと正兄も生徒会長をやっていたからだ。
初めての生徒会。だけど…おれは周りから悪い噂が漂っていた。
おれはこのごろには噂が噂を広め…学校で一番強いと言われ怯えられていた。
先生を脅し、おれに近づいたら呪われる、不幸になる、話しかけたらナイフで刺されるなどデタラメだ。
だから…生徒会に入ってくれる人なんて誰一人いなかった。
おれは一人で生徒会の仕事をこなした。毎日、毎日、日が落ちるまでずっと書類に目を移していた。少しでも休めば、間に合わない。おれがしなければならないことは沢山あった。
おれは誰かに頼ることはできなかった。
頼る相手が…いなかった。
おれは時間が余す限りずっと仕事をしていた。でないと仕事は終わらない。
ずっとずっと…パソコンに向かう日々。
おれの日々はそれだけだった。
頑張って書類をつくって、先生に褒められる。この頃になると褒められることも…怖くなっていった。
今は期待されてる。けど、次はわからない。
おれは完璧ではない。おれは…ただの人だ。
おれが仕事をするため生徒会に籠もっていると──正兄が現れた。
「正兄っ…!?なんで、いるんだ?」
正兄はとっくに中学を卒業したはずだ。なのに…。おれはびっくりして声が出なくなった。
「正兄っ…。」
「不法侵入とかじゃないから大丈夫。先生にちゃんと許可とったから。」
正兄はにこにこしながらおれを見ていた。
その顔には───先生と同じような熱を帯びた目をしていた。
───────怖い、そう思った。
「れーくん、本当に生徒会長になったんだねっ…!すごい、すごいねっ。」
「そ、そんなことはないぞ…。」
正兄はおれを褒めるとポンポンっとおれの頭を撫でた。
「…ねぇ、れーくん。」
「なんだ?」
「れーくんは担任の先生のこと好き?」
「え?」
正兄がいきなりそんなことを言いだしたのだからおれはびっくりした。
「その反応は…わかってる?」
「あ、正兄っ…。」
「あの担任、れーくんのことが好きだよね?」
「っ…!」
…その言葉を聞きたくなかった。好き。ただ好きなのならいい。けど…。
「なんのことだ?」
「れーくんがそう思いたいんだったら…それでいいけどさ…。」
正兄はそういうとにこっと笑った。
「僕は──誤魔化したくなんかないからね。」
正兄はそういっておれとの距離を詰めてきた。
「あっ…。」
「れーくんはわかってるんでしょ?担任の先生がれーくんのことが好きだって。
れーくんがわかったってことは…何かされた?」
「え?」
「────なにか、されたのかって聞いてるんだけど?」
正兄はそういっておれとの距離をどんどん、どんどん近づけてくる。
「何も…されてない。」
「ほんと?」
「本当だっ…!絶対だっ…!」
「じゃあ、なんでわかったの?」
「え?」
「担任の先生に好きって言われた?」
正兄はどんどん近づいてくる。
やめて、ほしい。こないでほしい。
おれは────このままがいい。
「正兄っ…。」
「れーくんは僕はもう、最初から…
れーくんのお兄ちゃんじゃなかったんだ。」
正兄はそういって話し始めた。
嫌だった、聞きたくなかった。
だって────おれはとっくに知ってた。
その熱を帯びた目がおれを映していた。いつから?そんなのはわからない。
それとも…もっと前からずっと。
だめだ、やめて。
「れーくん、僕はね、れーくんのこと…」
正兄がそう、言った。
その言葉が何を言いたいか、分かってしまった。
「──────やめろ!!聞きたくないっ!!」
おれは正兄を睨みつけた。
そして────そのまま逃げようとした。
怖かった、いやだった…。
だって…おれたちは、兄弟だ。
兄弟、なんだろ。
「っ…待って、れーくんっ!!」
正兄はおれの手を掴んだ。ぎゅっと強く、離さないというように。
やめろ…おれは。
「離せっ!」
「離さないよっ!!」
正兄はぎゅっとおれの手を握りしめた。
「離せって、言ってるだろっ!!」
「離さないっ!!」
そういうと正兄はおれを机の上に押し倒した。
おれの目の前には…正兄がいる。
この光景───見たことがある。
この光景は…、先生に、されたこと。
「っ────離せ!!やめろっ!!怖いっ!!」
「もしかして、先生にも同じことされた?」
「されてない!」
「なら、僕の目と目を見て!」
正兄はおれの両手を持って動けないようにした。
おれは正兄の顔しか見れなくなった。
「もう一度──言うよ、れーくん。」
「嫌だ…怖いっ…。」
「なにが?」
「変わっちゃうのが…、怖い。」
「…。」
おれは泣きながら目をつぶってしまった。
正兄の顔が見えなかった。…怖かったんだ、ずっと。
「…おれはれーくんが好き。
兄弟の好きじゃなくて…もっともっと深い好き。」
「…。言うなって…言っただろ。」
正兄はおれの顔を見ながらごめんと謝った。
「…れーくんが好き。ずっと前から…大好き。」
「…知ってた。」
「いつから?」
「…それは、わからない…。」
「そっか。」
正兄はそういって少しおれを掴む手を緩めた。
「れーくん…。」
と思ったらいきなり距離を近づけてくる。
「な、やめろっ…。」
「れーくんが好きっ…ねぇ、
キスしたい。」
「はっ…!?」
びっくりしておれは目を開けてしまった。すると──そこには正兄が目の前に写っていた。
「やだっ…、おれっ…。」
「れーくん、お願い。お兄ちゃんからの…お願い。」
「やだっ…!」
力を入れると正兄がおれの手を抑える。
正兄の方が…力が強かった。
「正兄っ…本当にやめて…!」
「やめない。やめたくない。」
「やめっ────」
どんどん正兄が近づいてくる。怖い、助けて。
…─────いやだっ!
「助けてっ─────亮っ。」
出た言葉は予想もつかない人の名前だった。
「…え?」
正兄の顔が固まる。
おれも…顔が固まった。
名前が…出た。ずっとずっと…会いたいと思っていた名前。
おれの────憧れ。
「誰?」
「え?」
「亮って───誰?」
正兄はおれに問い詰めるように聞いてくる。
「答えないと───キスする。」
「まっ…待て、」
「待たない。」
「亮、はそのっ…!」
「なに、友達?どいつ?殺すっ。」
正兄の表情は特に変わった様子は見えなかったが声がどんどん低くなっていった。
「亮は…おれだって今どこにいるのかわからない。友達…でもない。」
「じゃあ、なんなの?」
「亮は────。」
一瞬、怯んだ。言ってはいけない気がした。言ったら───傷つける。
「亮は──おれの憧れだっ…!」
「えっ…?」
正兄の戸惑ったような声が聞こえる。
…言わなきゃ良かった。
亮がおれの本当の憧れだって。
だって、おれが亮を憧れといったときの正兄の顔が───真っ青に染まって今にもショックで倒れてしまいそうに
なっていたから。
「憧れって…。」
そう正兄が言ったとき───
「あのー、すみません。」
声がした。それは生徒会のドアの向こうからだ。
やばいっ…そう思った。
こんな姿────見られたら──。
しばらく正兄は黙っていた。けど、おれを離す素振りは一切見せなかった。
「正兄っ…。ドアっ…!誰か入ってくるっ…!」
今、おれは正兄に押し倒される光景だった。
これを…見られるのはマズいと思った。
「正兄っ…!」
「あのー、入りますよ…?」
声が聞こえる、誰かが…入ろうとしてる…!
「正兄っ!!」
「─────れーくんは」
「え?」
おれが正兄の名前を叫ぶと正兄がぽつりとおれのことを呼んだ。
「れーくんは…おれの下じゃないといけないんだ…。
だから…生徒会長なんかに…ならなくてよかった。」
「え…?」
「学校の頂点なんて───立つようなそんな存在になっちゃ…だめなんだ。」
「正兄っ…!?離しっ───」
ガチャガチャとドアを開く音が聞こえる。嫌だ、どうしよう、このままじゃ…
「れーくんは…また、下に落ちるべきだ。」
正兄はそういった。
その瞬間───正兄の顔が近くにあることを感じた。
「っ─────んっ…!?」
おれは…いつの間にか正兄にキス、をされていた。
「ま、正兄っ…!?」
意味が…わからなかった。
なんで、正兄が────。
今、このタイミングで─────
「きゃっ…!!」
声が聞こえた。
はっとしてその声をする方を見ると…
そこには女の子が4人立っていた。
「まっ…!」
おれは頭の中が真っ白になって立ち上がろうとする。けど…正兄の力で立てなかった。
女の子達は『きゃっ~!』と声をあげながらバタバタと走っていってしまった。
見られた…。
正兄はにこにこと笑っていた。
「れーくんは結構顔に出るよね。かわいい。」
「正兄っ…なにして!?」
「れーくんが悪いんだよ?僕以外のところにいくから。
僕を超えて置いていこうとするから。
だから…れーくんはまた、下に落ちればいいと思って。」
正兄はにこっと楽しそうに笑う。
「ねぇ、れーくん。れーくんは…
また────孤独になればいい。
そして───憧れを僕にすればいい。
そうすれば…僕たちは幸せなんだから。」
正兄のその言葉におれは…怖さ、辛さを感じた。
正兄が…おれを束縛したいのはわかる。だけど…おれは─正兄のことを優先できるほど…優しい人間じゃない。
おれは───自分勝手なんだ。
次の日、教室に──…一枚の写真が貼られていた。
朝から騒がしかった。おれを見る目がいつもと違った…。
あの…小学校のときと同じ、いや、それ以上の────嫌な視線。
「まじかっ…!あいつ、ホモだったんだっ…!」
「ばか、聞かれたら…殺されるっ。」
「でも…まさか、男となんて…」
何があったのかわからず、おれは教室に入る。
すると────
「────キモいんだよ、このホモ野郎。」
教室の黒板に──…一枚の写真が貼られていた。
それは───昨日の正兄とおれがキスしている写真だった。
おれは…目を疑った。なんで…、誰がっ…!
「うわっ、ホモがいる。やばい、ホモに犯されるっ!」
「あははっ、きもっ!!」
一部、おれを馬鹿にする声。
「やめろって…殺されるぞ、あいつ…何するかわからないんだから。」
怯えられる声。
様々な声がおれを闇に包む。
あぁ…、嫌だ。怖い、助けて…。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
──────助けて、亮。
おれはポケットにいれたナイフを触った。触っていたら───そのナイフを向けたくなった。
そして──おれはそのナイフを──
あれ?どうしたっけ?
おれ───なにしたんだろう?
おれが気づいたときには声が聞こえた。
泣いている声、怯えた声だった。
そして…おれを止める声。
おれは───。
ふと落ち着いて周囲を見る。
クラスメートはおれをビクビクと怯えていたような目で見ていた。
はっとしておれの手を見ると…ナイフが握られていて、黒板に貼られた写真がナイフの切り後でビリビリになっていた。
そして──黒板も、ボロボロになっていた。
あぁ…、やってしまった。
おれはそのまま…教室を出た。
心が…痛い。
ホモ野郎、キモイ。
そりゃ…そうだ。
正兄にされたことが頭の中によぎる。そして…次によぎったのは…今、この世に存在しているのかもわからない、亮のことだった。
「…亮。」
そう、口にしても…誰も答えはしない。
おれは、おれをホモ野郎と言われたことより、正兄にキスされたことより、 亮を好きな気持ちが否定されたようなこの環境に…心を痛めていた。
おかしい…おれはおかしかった。
「亮…。」
なんで、こんなにも執着するのだろう。
この思いは似ていた。それが…怖かった。それは───
正兄がおれに思う気持ちとおれが亮に思う気持ちが───同じだったからだ。
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