異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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この世界は皆噂好き

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 国家滅亡を願うチビを宥めながらダラダラしたら、直ぐに夕飯の時間になった。

 定期的に愚痴るのでガス抜きだろうけど、魔王の立場で滅亡を願ったら駄目だろう。
 世界規模ではないとは言え……――実際にやればヴェルクトリ魔王国を更地にしたところで、竜・森・土の種族から突っつかれることは確定している。

 魔族は魔力を。
 竜族は地脈を。
 森族は生命を。
 土族は再生を。

 この世界中を巡っているそれぞれの力を、それぞれの代表者が循環させている。
 十七年も魔力の循環が滞っていたのはチビのせいではないが、最初の頃はその調整で大変だったらしい。
 そして、それが落ち着いたからこそ、今度は国内の問題が目立ってきたとも言える。


「尚志、お風呂入ろー」
「……一人でゆっくり入ってきなさい」
「やだ。一緒に入った方が疲れが取れる」
「んな訳あるか!!」

 周りを押さえ込めるような影響力のある嫁さんを貰うのが一番だと思うが、本人が「いらない」と言うのをどう了承させたものか……――そんなことを考えていた俺を余所に、チビは通常運転だった。
 風呂には入るが、男二人で入る必要はないだろう。

「背中流すよ? 頭も洗ってあげるよ?」
「そういうのはお嫁さんにしてあげなさい」
「嫁、いないし。良いじゃん別に。親孝行ってやつだよ。――多分」
「お前と入ると疲れるんだよ」

 俺が普段使っている風呂(ほぼシャワールーム)とは別に、この離宮には大浴場と言ってもいい広さの風呂がある。
 足は伸ばせるし、洗い場もあるし、魔力を使えば延々と湯が出てくる掛け流しのような風呂だが、チビと入ると狭い。
 何故かチビがべったりくっついてくるからだ。
 自分より背丈のある男がずっと真横にいてはリラックス出来ないし、浴槽で俺を抱き上げようとするのを止めさせるのも疲れる。

「じゃあ小さくなれば良い?」
「なんでわざわざ疲れることをしようとするんだ」
「別に、俺の魔力量だったら子供になるくらい平気だもん。十歳くらいならセーフだよね」

 そう言って一瞬の内に小さくなってしまった。
 小さな姿から大きくなれば洋服は千切れる。逆に、大きな姿から小さくなればズボンやパンツは用をなさず、ブカブカな上着だけの格好になる。
 ただのシャツなのに懐かしのワンピース姿に見える。ついでに「どう?」と首を傾げるのも可愛い。

「これで良いでしょ? もっと小さくなると背中洗えないし」
「それは決定事項なんだな。……はぁ。小さくなっちまったモンは仕方ない。入るか」
「わーい!」

 多分、今日もこのまま泊まっていくつもりだろう。
 人肌恋しいのなら早く彼女なり嫁さんなりを見つけて欲しいのだが……実際に連れて来たら複雑なんだろうな。その前に自分の嫁さんが欲しい。
 そう言えばシギやレオニダスの婚活はどうなったのか。

 そんなことを考えながら廊下を歩く俺の後ろで――……


「あら、陛下。可愛らしいお姿で」
「ふふん。今夜は尚志をデロデロに甘やかすんだ」
「その見た目じゃ真逆ですけどね。――香油はいりますか?」
「んー……肌の乾燥対策って言って慣れさせるか……」
「では香りの弱い物を。粘度も低いのでマッサージだけにしてくださいね」
「わかってる」

 なんてことを、チビとエルメーアが話していたのは気付かなかった。
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