異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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この世界は皆噂好き

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 大浴場は既に掛け流し状態になっていて、事前にエルメーアが準備していてくれたことを知った。
 パンツへの情熱が凄いせいで忘れがちになるが、やはり有能な女性だ。
 まぁ水を向けなければ熱く語ることもないし、こちらが気をつければ良い話だけれど――……チビが同じように下着への情熱を持ち始めているのは正直怖い。


「うん、やっぱりそのパンツは良いね。お尻が綺麗に持ち上がってる」
「……じっと見るんじゃない。オッサンの尻だぞ?」
「尚志はオッサンじゃないよ。若い若い。――……うーん。でもやっぱり革製も欲しいかな」

 四十歳は自他ともに認めるオッサンだと思うのだが、チビは魔族だからか感覚がおかしいようだ。
 確かに、必要性を感じられないダンスやウォーキングのお陰で下半身は変わったように思う。自分ではちゃんと見れないけれど、鏡越しに見た時に「おぉっ」と思うことがあった。
 女性だったらこの変化は更に嬉しいだろうな。

「ほら、尚志。早く早く!」
「わかったから、風呂場で走るな。掛け湯をしてから……」
「先に体を洗うんでしょ。わかってるから大丈夫!」


 普段から結構子供っぽい言動をしているチビは、小さい姿になると全く違和感がない。
 ザッパザッパとお湯を体に掛けていたチビから桶を受け取り自分にも掛けていると、もう洗い場の椅子に座ってモコモコな泡作りに没頭していた。

 村ではマイユプの葉を使用していたが、こちらには液体のボディソープがある。
 と言っても原材料はマイユプなので、違うのは加工して香りを付けて、ついでにしっとりタイプとすっきりタイプが選べる点だ。
 考えてみればマイユプにはこれといった香りがなかった。強いて言うなら弱い〝石鹸の香り〟だろうか。あれはあれで好きだったけれど、気分や季節によってニオイを選べるのは楽しい。

「でもアカスリタオルは欲しい」
「スポンジ嫌い?」
「もっとゴシゴシ擦りたいな」

 スポンジは向こうの〝へちま〟に似た植物を乾燥させた物。長さも十分にあるので背中を洗うのは楽になった。
 ただ少々柔らかい。
 女性や子供にはちょうど良いかもしれないが、俺としては固いタオルで擦るのが好きなのだ。

「駄目だよ。それをすると肌が荒れる」
「別にオッサンの肌荒れを気にする人間もいないだろう」
「俺が気にするの! 折角ここに来てツルツルでモチモチになったのに!」
「いや……うん、ちょっと待て。お前そんな違いに気付いてたのか?」
「うん」

 真顔で「うん」はないだろう。そういうのはやっぱり女の子に……いやでも下手をしたらセクハラだ……――と悩んでいる内に、チビはさっさと自分の体を洗って俺の後ろに膝をついた。
 一応、俺の言った〝ゴシゴシ〟に見合う力で背中を洗ってくれる。十歳程度だと重労働だと思うが、鼻歌交じりに首や腕まで洗ってくれて、かなり気持ちが良い。

「うぁっ!? お前、なんでそこまで洗うんだよ!」
「えー? 割れ目だし、別に穴まで洗ってないから良いでしょ?」
「穴って言うな。そこ、なんか擽ったいんだよ……こら、脇腹も止めろ。って何でスポンジ使ってないんだ!」
「気持ち良くない?」
「擽ったい!!」

 首や腕、背中はスポンジを使ってくれたのに、他の部分は素手で洗ってきた。
 さっきまでのリラックス気分は吹っ飛んで、擽ったさとゾワゾワした悪寒が背筋を走る。
 前のほうまで手で洗おうとするチビをなんとか引っ剥がして「早く湯船に浸かれ」と追い立てた。
 どこの風俗サービスだ、と言い掛けて我慢した俺は偉いと思う。チビは子供なんだから知る訳はないのだが――……教育に悪い。

「お風呂、ちょうど良いよ。尚志も早く入ろうよー」
「ちょっと待ってろ」

 こいつが小さな姿でも、結局疲れる。
 溜息を吐いた俺が浴槽のチビを見れば、「あ、小さい姿だと余裕で泳げる!」とバタ足を始めていた。――せめてプカプカと浮くだけにしなさい。
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