異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

チビの正体と自分の役割

⑭

　
　それからはもう凄かった。
　何度も「今すぐ気絶は出来ないだろうか」と思っていたが、そういう時こそ出来ないものなのかもしれない。
　なので、なるべく心を無にして、映画でも流し見ているような気持ちで乗り切った。


　タイトルを付けるならば〈お義父さん、娘さんを僕にください ～孫は最強～〉になる筈だ。


　どうするんだこれ状態のハグから、一番最初に動き始めたのはチビだった。
　ちょっと降ろしてと言われて地面へ降ろすと、テクテクとラウ爺のところへと歩いて行ってこう言ったのだ。

　――「じーじ、おれ、とうさんのところにいきたい」と。

　今まで喋らない、無表情、それがデフォルトだったチビ。
　村人ほぼ全員が集まった村長宅の前での初めての言葉に、その場が静まり返る。
　ラウ爺はお前の爺さんではないし、俺の父親でもない。だがそれを訂正する前にラウ爺が相好を崩した。それはもう、孫にメロメロになる爺さんのように……。

「な、なんじゃチビ……お前さん、喋れるように……」
「とうさんにまりょくもらった。もうだいじょうぶ」
「そうか……魔力を貰えたってことは、あれがお前の親で間違いないんだな。本当に良いのか？　あいつのせいで、お前とオンラーシは苦労したと言うのに……」
「？　……おれもかあさんも、じーじやみんなに、いっぱいたすけてもらったよ？」
「チビ……！」

　もうここで、ラウ爺を含めた全員がボロ泣きである。
　後ろの皆は「良かった……」「本当に良かった」と言い合っているし、いつもはうるさい子供たちも空気に飲まれたのか静かにしていた。
　その間にチビは俺とバイラムの間に戻ってきて、二人の手を掴んだ。公園などでよく見る〈仲良し親子の図〉だ。

「皆さん……本当に、ありがとうございました」

　そう言ってバイラムが深々とお辞儀したので、俺も慌てて頭を下げる。
　そんな俺たちに対し、一度大きく溜息を吐いたラウ爺が「……幸せになりなさい」と言ってくれたことで、バイラムが父親だと認められたらしい。
　そして即日引っ越しは可能になった。というか、逆に「さっさと行け」とでも言うような空気が漂うくらいだ。

　それに異を唱えた者もいた。

　わざわざ引っ越してきたシギ、長期滞在中のレオニダス――……まぁ確かに、この二人は俺を落とすと公言していたし、何度「無理だ」と言っても諦めなかった。
　二人からしていたら〝寝耳に水〟だし、〝鳶に油揚げ〟だと思う。
　一瞬即発のような緊迫状態にもなりかけた。
　しかし、チビの「とうさん、だっこして」に脆くも崩れ……うん、二人とも嫌われていたからな。そのチビが素直に抱っこをせがみ、ついでに首へギュッと抱きついてダメ押しでの笑顔。

「マジかよ……！」
「ごめん。シギ、レオニダス……俺……」
「チビくんを身籠ったと言うことは、それだけの愛があったと言うことです。男同士の場合は、それがなければ子供は出来ませんから……そんな相手がこの村にまで辿り着いたのならば仕方ありません」

　ここに来て新たな常識が出てきたが、そもそもチビは俺の分身でこれ全部茶番なんだよ。……とは言えないから、もう一度「ごめんなさい」と言うしかないけれど。



　最後には、俺がバイラムにお姫様抱っこをされる――なんてオチまでついた。
　映画だったら〝リーンゴーン〟と鐘の音が鳴り響き、フラワーシャワーが吹雪いていたただろう。
　そんな追い打ちはいらない。

　引っ越し前に一旦家に帰ってきた俺が、小さいままのチビを抱きしめてグリグリとしてしまったのは仕方ないと思う。