異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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春はここでも恋の季節?

閑話 ~思春期の二人~

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転載するか迷いましたが、少年組のちょっとしたお話です。
――――――――――

 
 普段とは違うガヤガヤとした喧騒――いつもならばウキウキと店を覗いたり、商人の話す王都の噂話に興味を惹かれたりと楽しむのだが、ユアンとアランは人気のない場所でボンヤリとそれを眺めていた。
 いや、実際にボンヤリとしているのはユアンであって、アランはそれを気に掛けつつも有用な手段が見つからず……といったところだ。

「もう……いつも通りにしたいのに、なんで……」
「ユアンは考え過ぎなんだよ。オンラは気にしてなかったんだろ?」
「そうだけどさ。それって全然僕のことを気にしてないってことじゃん……はぁ、どうしたら良いんだろう」

 先日、ユアンがようやく追いついた〈大人への通過点〉だったが、今はそれが重く伸し掛かっている。
 最初は動転、その後に安堵。そして晴れがましい気持ちになったと言うのに、アランに「どんな夢だった?」と聞かれて眼の前が真っ暗になってしまったのだ。
 夢は夢。それはユアンもわかっている。
 起きた時には「随分と気持ちが良い夢だったな」としか覚えていなかった。だが内容をよくよく思い返してみると、その夢に出てきたのはオンラーシだったのだ。
 それと気付かず最初に助けを求めてしまった――気まずいなんてものではない。何故アランの元へ行かなかったのか。何故、恥を忍んで母親に聞かなかったのか。

 夢精の後始末を教えてくれた後も、オンラーシは変わらない。いつものようにとして接してくれている。
 それが辛くて、苦しくて、最近のユアンはオンラーシを避けていた。


 自分たちが八つの時にこの村に来たオンラーシ。荷車に乗せられて慌ただしく担ぎ込まれ、あれよあれよと言う間に赤ん坊を産んだ。ユアンとアランは「男も子供を産めるのか……」とショックを受けたし、他の年若い村人たちも少なからずショックを受けていた。
 村長はそんな戸惑う村人たちを集め、どんな状況下ならば子供が出来るのかを教えてくれた。そして本人が一番ショックを受けていること、一部の記憶がないこと――……それでも赤ん坊を育てる気概はあるので、なるべく助けるようにと説明されて、村の皆で様子を見ることになった。

 まず最初にオンラーシへ近づいたのはお産を助けた母親たちだ。初めての子育てで不安になるのは皆同じ、その気持ちを共有することで仲良くなっていった。
 次に色々な疑問をそのまま口に出せる年下の子供たち……「なんで?」「どうして?」とそれぞれが聞くのを一つ一つ答えていた。
 それから父親連中がオンラーシへ色々な仕事を割り振るようになり、引き摺られるようにして自分たちも会話するようになったのだ。
 多分、こちらがこわごわと近づいたことにはオンラーシも気付いていた。それでも笑顔で「よろしくな」と言ってくれたことに、随分とホッとしたことを覚えている。
 兄とも父親とも違う、頼りに出来て甘えられる存在。――今は村の子供たち全員がそう思っていることだろう。もしかしたら一部は恋心も持っているかもしれない。ユアンのように。

 甘えたい。
 甘えて欲しい。
 助けたい。
 助けて欲しい。

 少し幼い顔立ち。それに見合わない筋肉質な体。今よりも幼かったユアンとアランを両腕にぶら下げても、なんてことないように笑う姿――同じ男として憧れていた筈だが、ユアンはいつの間にかその気持ちをたがえてしまったようだ。
 一度だけ見てしまったさらしを解いた胸元、ふっくらと盛り上がった筋肉の先端にポツンと尖った乳首、そこはチビだけに許された場所なのに……。


「もうやだ。死にたい……」
「大げさなヤツだなぁ。良いじゃんか、俺なんてフルチンだったのがバレてるんだぜ?」
「十歳までパンツを穿かなかった自分のせいでしょ。僕はちゃんと、パンツは穿いたほうが良いよって言ったもん」
「だって、あの時はなんか気持ち悪かったんだよ。モゾモゾするじゃん。今は慣れたけど……オンラのせいでまた皆思い出しちゃったしなー」

 拗ねた表情でそう言うアランだったが、生来の楽観主義であまり悩まないことをユアンは知っている。
 自分とは本当に真逆な存在。だけどそれが気楽で、昔から家族にも言えない話を共有してきた。

「ぶっちゃけちゃえば良いんだよ。オンラのことが好きだーってさ」
「それ、うちの姉ちゃんに言えるの? ついでに、姉ちゃんでエッチなことも考えてるよって教えてあげようか」
「うっ……無理。つか、それバレたらお前の家に行けないじゃん」

 ユアンとしては不思議なことだが、アランの恋心は自分の姉へと向かっている。
 更に言えば……そういう妄想をしていることまで話されていた。弟としてはかなり複雑でそこまで聞きたくないと何度も言ったが、アランはなんてことのないように話してくるのだ。最近は諦めて、その話が始まったら別のことを考えるようにしている。

「僕としてはアランを〝兄さん〟なんて呼ぶのは勘弁して欲しいけどね」
「現実問題として無理だろうなぁ……俺もお前も兄貴いるじゃん。継ぐ家がないからこの村でってのは厳しいし……ヨハンナさん、多分どっかに嫁に行くんだろうしさ」
「そういうところは冷静だよね、アランのクセに。僕もそうやって割り切れたら良いんだけど……」
「俺だって悶々としたっての! ……ユアンも暫くしたら落ち着くんじゃね? わかんねーけどさ」

 今はまだ色々と混乱しているのだろうとアランは言う。
 それでも、こうやって悩むくらいなら大人になりたくなかった。気恥ずかしくてどうしても避けてしまうユアンのことを、オンラーシが心配しているのがわかるからだ。

 本当に儘ならない――……溜息を吐いた後、気分を変える為に二人で喧騒の中へ戻ると通り過ぎた店からオンラーシの名前が聞こえた。
 そのまま流れてきた内容に、二人は顔を見合わせた。
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