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春はここでも恋の季節?

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 デーメルの「お手柔らかに」を無視して、ラウ爺は好き勝手に提案し始めた。

 まず――――……

 味噌の定期納品。
 購入ではなく上納扱いで年に二つ。俺の分と村の分。

 取り扱っている商品の割引。
 割引率は個々で調整だったが、最大で三割引。半額ではないからマシだろうとのこと。

 村から出している品物の買取金額アップ。
 今回のチーズケーキがなくても、村で作られているチーズは上等な物らしい。
 ただ王都での販売額を上げることは不可能に近いので、売れば売るほど赤字に近づく。
 いくら自分のところで輸送しているとは言え輸送費ゼロ・人件費ゼロとは言えないからだ。

 魔力の回復薬を仕入れ値価格で販売。
 通常で買う値段の約三割となる。千円が三百円、一万円が三千円……倒産するな。
 とは言えこの村で使うのは俺だけなので、俺が買わなければそこまでの不利益は発生しない筈。

 チェル入りチーズケーキの希望数を減らすことと買取金額アップ。
 もしくはレシピの高価買い取り。
 生産を継続するならレシピは売らないほうが良いが、月に百個も希望されているらしく「保管場所がないのに無理!」と言うことで、試食会前の会談も「今日は保留」で落ち着いたんだそうだ。
 焼いたことで日持ちするようになっても、商会が来るのに合わせて百個作っておくのは厳しい。
 この村でオーブンがあるのは村長宅とその隣の公民館、そしてパン屋のみ。一気に作るにはオーブンが足りない。


「本当は百個でも足りないんです。この村に来れるのは春から秋の四ヶ月程、そこで四百個を買い取っても一年で見れば一日一個ほどしか売れません」
「じゃあレシピの高価買取で終わらせれば良いだろう。別に特殊な製法をしてる訳でもないし、チェルだって商会でも買い取ってるだろ?」
「……チェルが溶けてしまうんですよ。だから作れませんでした」

 チェルが溶けるという言葉に、俺、シギ、ラウ爺は揃って首を傾げた。
 あの実は水と砂糖で煮るとグミから固いゼリーくらいの食感になる。
 そのままお菓子に載せるとチェルだけ口に残ってしまうが、煮ておけばそれもない。その為、村では余った分を煮て瓶に詰めておくのだ。
 もしかしたら砂糖煮をしないで加熱すると溶けるのかもしれない。

「村長、それ……」
「言うなよ、二人とも。これは技術料が取れそうだからな――……とは言え加熱したら薬効も消えるのに、それでも王都の人間はありがたがるのか? そこが純粋に不思議なんじゃが……」
「……薬効?」

 薄らボンヤリした味のチェルに、薬の効果があるとは知らなかった。

「なんじゃ、オンラは知らんかったか。チェルは一粒食べれば病気知らずと言われてるんじゃよ。ただし生で食べた時だけで、加熱したら効果がなくなる。このあたりで大病がないのはチェルのお陰とされているな。特に子供の風邪は恐ろしいからなぁ……」

 そう言えば「薬の代わりに」と勧められて、チェルを食べさせていたのだ。
 まさか本当に薬だとは……。
 加熱しなければ良いと言うだけあって、ゆっくりとすり潰せば問題ないらしい。
 チビの歯が生える前は、そのすり潰したのをスプーンにちょっとだけ乗せて舐めさせるようにしていた。

「そうですね、薬効については知っています。だからチェル一粒の値段からするとそこまで高くは売れません。ただ珍しいという部分と……下処理方法がわからなければ真似出来ませんから、その分高く売り出せます」
「ふぅん?」

 シギはそれでも首を傾げていたが、村長は〈薬効がなくても良い〉と言う部分に少し呆れたようだった。
 それが商売と言われたらそれまでだが……。

「ラウ爺、どっかで落とし所を作らないと不味くないか? シギの村でも同じ物を作れるんだし、ここで吹っ掛けるとあちらと揉める気がする……それに出稼ぎなんかで出てった奴も作り方は知ってるだろ? 俺としては、一旦下処理の方法は伏せたままこのあたりの特産品にして、それを商会に売るのでちょうど良いと思う。他から情報が出ちまったら都度相談とかで……」

 人手は隣村の方が多いし、そこで作ったのを買い取りにした方が商会も山登りの手間が減る。
 代わりにうちはチーズケーキのレシピをちょっと高く売る。
 他の諸々の誠意については別に考える――くらいで良いのでは? と思い提案すると、ラウ爺が「そのようだな」と呟いた。
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