28 / 80
春はここでも恋の季節?
⑬
しおりを挟むデーメルの「お手柔らかに」を無視して、ラウ爺は好き勝手に提案し始めた。
まず――――……
味噌の定期納品。
購入ではなく上納扱いで年に二つ。俺の分と村の分。
取り扱っている商品の割引。
割引率は個々で調整だったが、最大で三割引。半額ではないからマシだろうとのこと。
村から出している品物の買取金額アップ。
今回のチーズケーキがなくても、村で作られているチーズは上等な物らしい。
ただ王都での販売額を上げることは不可能に近いので、売れば売るほど赤字に近づく。
いくら自分のところで輸送しているとは言え輸送費ゼロ・人件費ゼロとは言えないからだ。
魔力の回復薬を仕入れ値価格で販売。
通常で買う値段の約三割となる。千円が三百円、一万円が三千円……倒産するな。
とは言えこの村で使うのは俺だけなので、俺が買わなければそこまでの不利益は発生しない筈。
チェル入りチーズケーキの希望数を減らすことと買取金額アップ。
もしくはレシピの高価買い取り。
生産を継続するならレシピは売らないほうが良いが、月に百個も希望されているらしく「保管場所がないのに無理!」と言うことで、試食会前の会談も「今日は保留」で落ち着いたんだそうだ。
焼いたことで日持ちするようになっても、商会が来るのに合わせて百個作っておくのは厳しい。
この村でオーブンがあるのは村長宅とその隣の公民館、そしてパン屋のみ。一気に作るにはオーブンが足りない。
「本当は百個でも足りないんです。この村に来れるのは春から秋の四ヶ月程、そこで四百個を買い取っても一年で見れば一日一個ほどしか売れません」
「じゃあレシピの高価買取で終わらせれば良いだろう。別に特殊な製法をしてる訳でもないし、チェルだって商会でも買い取ってるだろ?」
「……チェルが溶けてしまうんですよ。だから作れませんでした」
チェルが溶けるという言葉に、俺、シギ、ラウ爺は揃って首を傾げた。
あの実は水と砂糖で煮るとグミから固いゼリーくらいの食感になる。
そのままお菓子に載せるとチェルだけ口に残ってしまうが、煮ておけばそれもない。その為、村では余った分を煮て瓶に詰めておくのだ。
もしかしたら砂糖煮をしないで加熱すると溶けるのかもしれない。
「村長、それ……」
「言うなよ、二人とも。これは技術料が取れそうだからな――……とは言え加熱したら薬効も消えるのに、それでも王都の人間はありがたがるのか? そこが純粋に不思議なんじゃが……」
「……薬効?」
薄らボンヤリした味のチェルに、薬の効果があるとは知らなかった。
「なんじゃ、オンラは知らんかったか。チェルは一粒食べれば病気知らずと言われてるんじゃよ。ただし生で食べた時だけで、加熱したら効果がなくなる。このあたりで大病がないのはチェルのお陰とされているな。特に子供の風邪は恐ろしいからなぁ……」
そう言えば「薬の代わりに」と勧められて、チェルを食べさせていたのだ。
まさか本当に薬だとは……。
加熱しなければ良いと言うだけあって、ゆっくりとすり潰せば問題ないらしい。
チビの歯が生える前は、そのすり潰したのをスプーンにちょっとだけ乗せて舐めさせるようにしていた。
「そうですね、薬効については知っています。だからチェル一粒の値段からするとそこまで高くは売れません。ただ珍しいという部分と……下処理方法がわからなければ真似出来ませんから、その分高く売り出せます」
「ふぅん?」
シギはそれでも首を傾げていたが、村長は〈薬効がなくても良い〉と言う部分に少し呆れたようだった。
それが商売と言われたらそれまでだが……。
「ラウ爺、どっかで落とし所を作らないと不味くないか? シギの村でも同じ物を作れるんだし、ここで吹っ掛けるとあちらと揉める気がする……それに出稼ぎなんかで出てった奴も作り方は知ってるだろ? 俺としては、一旦下処理の方法は伏せたままこのあたりの特産品にして、それを商会に売るのでちょうど良いと思う。他から情報が出ちまったら都度相談とかで……」
人手は隣村の方が多いし、そこで作ったのを買い取りにした方が商会も山登りの手間が減る。
代わりにうちはチーズケーキのレシピをちょっと高く売る。
他の諸々の誠意については別に考える――くらいで良いのでは? と思い提案すると、ラウ爺が「そのようだな」と呟いた。
0
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる