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春はここでも恋の季節?
⑧
しおりを挟むレオニダスも甘い胡麻味噌はお気に召したようだ。
厨房隅に置かれた丸テーブルのところで、椅子に腰掛けて黙々と食べている。
その向かい側で、チビはデーメルと言う従者に抱かれながら座っていた。
待ってる間に疲れるだろうからと抱き上げようとするシギを無視し、デーメルへ向けて両手を広げた為である。初対面の人間に物怖じしない割には、何度も会っているシギに抱かれるのは嫌らしい。
サフはそんな空間に居られないとばかりに、率先してアディの料理を手伝っている。
役員とその秘書だからな……嫌だよな。わかる。
チビに振られたシギは厨房内をウロウロとしていて邪魔だったので、ドルドと村長を呼びに行かせた。
ドルドはサフの親代わりだし、村長は俺の身元保証人だ。
もしかしたら、だが――王都の商人が知らない料理を作ることで何かしらの面倒が起きるかもしれない。十数年の社会人生活で培った経験則からの保険である。
味噌漬けにする肉は牛、豚、鳥の三種類。
牛は一種類のみだが、豚は生姜入り、鳥はにんにく入りも試してみる。
ついでにとん汁も作った。
ゴボウがないのでなんとなく物足りないが…そして、わかっていたことだが肉ばかりだ。
村では川魚も食べるが、思いついたからとすぐ捕ってくることは出来ない。これは今度、アランあたりに声を掛けて魚捕りに繰り出すか。
「こりゃまた随分と豪勢じゃな、オンラ。――……何があった?」
「……ザハーヌ商会の持ち込んだ調味料で、ちょっとな。――作ってる間、あっちの話し相手になってくれ。チビは接待に向いていない」
「そこは可愛さでお釣りが来るから大丈夫だ。……まぁ、わかった。ワシも食って良いんだよな?」
「材料はあちらさん持ちだ。そのあたりの調整も頼む」
シギが連れてきた村長は、厨房を見るなり現状を把握したようだった。
事前に説明を受けていたのかもしれないが、今までに色々な面倒事を解決してきた年の功もあるだろう。
そのままシギを引き摺ってレオニダスの方へ向かい、宿の広間で待っていようと声を掛けている。
厨房から彼らがいなくなれば、サフも、村長と一緒にやって来たドルドも、少しは気が楽になる筈だ。
「――ドルド、どうした?」
「あ、いや……なんと言うか、大変なことになっちまったなぁ、すまん」
そんな謝罪を口にしながらも視線の先にはサフがいる――いや、サフの隣のアディを見ているのだろうか。
こんなに心のこもっていない謝罪は初めてだ。
この挙動不審な感じは上司のいる場所へ急に呼び出されたせいではないだろう。
むしろ――そう、この感じは……
「良かったな、アディは未婚だ。……ただし宿屋への婿入り希望、その仕事に誇りを持ってくれる人が理想だ。他は年齢不問、経歴不問、食べることが好きなら尚良し、だそうだぞ」
気になるメスを見掛けたオス犬みたいな反応だった。――つまり、早い話が一目惚れ。
そう当たりをつけて教えてやると、アディを見つめる視線に力が入ったようだった。
アディは二十五歳で、ドルドが見た目通りの四十過ぎだとしたら彼女との年齢差は二十近い。
更に仕事は行商で、アディと恋仲にはなれても結婚となればその仕事を辞めなければならない。
まだ引き取って間もないサフもいる。
彼女自身は子供好きの料理好きで、少々恰幅は良いが良い子である。
男の方が惚れ抜いたらひょっとして――そう考えつつ、「ボーっとしてないでこっちを手伝え」と言ってからドルドの尻を引っ叩いた。
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