24 / 80
春はここでも恋の季節?
⑨
しおりを挟む未知の調味料――味噌を使った試食会。
食べたのはレオニダス、デーメル、ラウ爺、アディ、シギ、そして俺とチビ。
アディやシギの分まで了承させたラウ爺の手腕には恐れ入る。
ドルドとサフは料理の味を気にしつつも、店が心配だと言って戻っていった。
「――作ったのは以上だ。今回は鍋で焼いたが、網なんかで直火にしたほうが香ばしくて美味い。ただし味噌漬けは焦げやすいから付きっきりになる必要がある。……この味噌なら煮詰めても風味は落ちないし、作るなら煮込みのほうがオススメだな。他の味噌は勝手が違うから気をつけろ。と言うか、そっちもあるならくれ」
初めて作ったにしてはそれなりの物が出来たと思うが、味噌漬けは改良が必要だった。
漬け込みより後乗せの方が良かったかもしれない。
「うむ。赤ワイン煮込みはいつもよりも味に深みがあるな。……だがミーショの味はとん汁のほうがわかる」
「だろうな。こっちは味噌以外の味付けをしないで、後は肉や野菜からの旨味だけだ。寒い時に食うと美味いぞ」
「そりゃあ良い。でも……ちぃっと……パンに合わないのう……」
「……だよなぁ」
ラウ爺の指摘はかなり的確で、シギやアディも頷いている。
煮込みの方はアディが作ったというのもあって、こちら風の味付けになっていた。
無理に味噌を使わなくても良い、でも入れた方が美味しい――そんな具合で、勿論パンに合う。
「キャベツの千切りと一緒に薄いパンで挟めば、鶏肉あたりは軽食として屋台で出せそうだと思うんだが……」
外国のなんとかサンドと言うのが流行っていた記憶がある。
あれに近い物なら、味噌の味も中和するだろう。
「……オンラさんはどちらのご出身なんですか? 失礼ですが、この村でここまでミーショに詳しい方がいるとは思ってもいませんでした。それに、この子の髪色は……」
「デーメル、それは今必要のないことだ。僕たち商人は対等な取引が出来るなら国も種族も関係ない。とは言え、全てにおいて対等かと聞かれると困るけどね。――さて。では、取引をしようか」
それまで俺とアディが話す調理法を黙々とメモに取っていたデーメルだが、色々と情報を出してしまった俺を訝しげに見てきた。
レオニダスが上の立場としてそれを止めたが、続いて口に出した言葉に空気が張り詰める。
「アディ、宿の手伝いをしておいで。後はワシが引き受けるから、オンラも、チビを連れて出て行きなさい」
「いえ、オンラさんには大事な話があるのでここに。――シギさんはどうぞ」
「嫌だね。別に聞かれちゃ困る話じゃないんだろ? だったら俺もここにいる。……村長、良いよな?」
「……手は出すなよ」
「もうそんな若くねぇよ、心配すんなって」
俺としては村長がいれば十分なのだが……
そう思っているのは向こうも同じようだったが、梃子でも動かないシギの様子を見て諦めたらしい。
「僕としては貴方がいると面倒なんですけどね……まぁ良いでしょう。単刀直入に言います。――オンラさん、僕と一緒に王都へ来ませんか? あのチーズ、偶然の産物だと村長は言いましたが内情は違いますよね」
「……あれは村の女性陣が作り上げたんだ」
「最終的にはそうだと思います。でもそれなら、今まであれがなかったことはおかしい。最初の一手は誰か別の人間……僕はオンラさんの発案だと思っています。――まぁ真実がどちらだとしても良いんですけどね。ザハーヌ商会で使い途のわからなかったミーショについて、ここまで知っているだけで価値がある」
たまたまだと返すには、ネタを出し過ぎた。
追い打ちを掛けるように「ミーショって他にもあるんですか?」と聞かれてしまい、あの時に反応しなかっただけでしっかり聞いていたことが憎たらしい。
「バビー商会が以前売り出したトイレ用の補助椅子も、オンラさんが作ったんじゃないかと予想しています。あちらはそこまで調べなかったようですけど……」
「オンラーシを金蔓にするつもりか?」
「違います。純粋に興味がある。ただそれだけです。――下心もありますけどね。オンラさんは随分と魅力的だ。チビくんもとても可愛いらしいですし、出来れば僕の家族になって欲しい」
その途端、シギが音を立てて椅子から立ち上がりレオニダスを睨みつけた。それを挑発するように「婚姻の申し込みに貴方の許可が必要ですか?」と聞くレオニダス。
流れとしては俺の話だと思うのだが、意味がわからない。
「家の資産とは別に僕個人の資産もあります。お子さんを育てるのに苦労はさせません。……それに、チビくんは魔族だ。これから大きくなった時にこの村で十分な教育が出来るとは思えません。それと、今現在の問題として年齢と見た目に差が出ているのではないですか? 人族と魔族の垣根は、想像以上に大きいですよ」
――家族? 結婚? と話の途中から脳が理解するのを拒否していたが、レオニダスが最後に言った〈種族の垣根〉という言葉は胸に重く伸し掛かってきた。
――――――――――
シルバーウィーク、まさかの台風二連発でしたが皆さん大丈夫でしたでしょうか?
拙作が何かしらの楽しみになっていたら嬉しいです。
明日からの更新は毎夜20時に1回となります。
ゆっくりとした歩みになりますが、これからもよろしくお願いいたします。
9/26・11時30分追記↓
ありがたいことに、HOTランキングの末席にお邪魔することが出来ました!!
お礼も込めて12時と20時にも更新いたします!!
3
お気に入りに追加
559
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる