異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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春はここでも恋の季節?

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 未知の調味料――味噌ミーショを使った試食会。
 食べたのはレオニダス、デーメル、ラウ爺、アディ、シギ、そして俺とチビ。
 アディやシギの分まで了承させたラウ爺の手腕には恐れ入る。
 ドルドとサフは料理の味を気にしつつも、店が心配だと言って戻っていった。


「――作ったのは以上だ。今回は鍋で焼いたが、網なんかで直火にしたほうが香ばしくて美味い。ただし味噌漬けは焦げやすいから付きっきりになる必要がある。……この味噌なら煮詰めても風味は落ちないし、作るなら煮込みのほうがオススメだな。他の味噌は勝手が違うから気をつけろ。と言うか、そっちもあるならくれ」

 初めて作ったにしてはそれなりの物が出来たと思うが、味噌漬けは改良が必要だった。
 漬け込みより後乗せの方が良かったかもしれない。

「うむ。赤ワイン煮込みはいつもよりも味に深みがあるな。……だがミーショの味はとん汁のほうがわかる」
「だろうな。こっちは味噌以外の味付けをしないで、後は肉や野菜からの旨味だけだ。寒い時に食うと美味いぞ」
「そりゃあ良い。でも……ちぃっと……パンに合わないのう……」
「……だよなぁ」

 ラウ爺の指摘はかなり的確で、シギやアディも頷いている。
 煮込みの方はアディが作ったというのもあって、こちら風の味付けになっていた。
 無理に味噌を使わなくても良い、でも入れた方が美味しい――そんな具合で、勿論パンに合う。

「キャベツの千切りと一緒に薄いパンで挟めば、鶏肉あたりは軽食として屋台で出せそうだと思うんだが……」

 外国のなんとかサンドと言うのが流行っていた記憶がある。
 あれに近い物なら、味噌の味も中和するだろう。

「……オンラさんはどちらのご出身なんですか? 失礼ですが、この村でここまでミーショに詳しい方がいるとは思ってもいませんでした。それに、この子の髪色は……」
「デーメル、それは今必要のないことだ。僕たち商人は対等な取引が出来るなら国も種族も関係ない。とは言え、全てにおいて対等かと聞かれると困るけどね。――さて。では、取引をしようか」

 それまで俺とアディが話す調理法を黙々とメモに取っていたデーメルだが、色々と情報を出してしまった俺を訝しげに見てきた。
 レオニダスが上の立場としてそれを止めたが、続いて口に出した言葉に空気が張り詰める。

「アディ、宿の手伝いをしておいで。後はワシが引き受けるから、オンラも、チビを連れて出て行きなさい」
「いえ、オンラさんには大事な話があるのでここに。――シギさんはどうぞ」
「嫌だね。別に聞かれちゃ困る話じゃないんだろ? だったら俺もここにいる。……村長、良いよな?」
「……手は出すなよ」
「もうそんな若くねぇよ、心配すんなって」

 俺としては村長がいれば十分なのだが……
 そう思っているのは向こうも同じようだったが、梃子てこでも動かないシギの様子を見て諦めたらしい。

「僕としては貴方がいると面倒なんですけどね……まぁ良いでしょう。単刀直入に言います。――オンラさん、僕と一緒に王都へ来ませんか? あのチーズ、偶然の産物だと村長は言いましたが内情は違いますよね」
「……あれは村の女性陣が作り上げたんだ」
「最終的にはそうだと思います。でもそれなら、今まであれがなかったことはおかしい。最初の一手は誰か別の人間……僕はオンラさんの発案だと思っています。――まぁ真実がどちらだとしても良いんですけどね。ザハーヌ商会で使い途のわからなかったミーショについて、ここまで知っているだけで価値がある」

 たまたまだと返すには、ネタを出し過ぎた。
 追い打ちを掛けるように「ミーショって他にもあるんですか?」と聞かれてしまい、あの時に反応しなかっただけでしっかり聞いていたことが憎たらしい。

「バビー商会が以前売り出したトイレ用の補助椅子も、オンラさんが作ったんじゃないかと予想しています。あちらはそこまで調べなかったようですけど……」
「オンラーシを金蔓かねづるにするつもりか?」
「違います。純粋に興味がある。ただそれだけです。――下心もありますけどね。オンラさんは随分と魅力的だ。チビくんもとても可愛いらしいですし、出来れば僕の家族になって欲しい」

 その途端、シギが音を立てて椅子から立ち上がりレオニダスを睨みつけた。それを挑発するように「婚姻の申し込みに貴方の許可が必要ですか?」と聞くレオニダス。
 流れとしては俺の話だと思うのだが、意味がわからない。

「家の資産とは別に僕個人の資産もあります。お子さんを育てるのに苦労はさせません。……それに、チビくんは魔族だ。これから大きくなった時にこの村で十分な教育が出来るとは思えません。それと、今現在の問題としてに差が出ているのではないですか? 人族と魔族の垣根は、想像以上に大きいですよ」

 ――家族? 結婚? と話の途中から脳が理解するのを拒否していたが、レオニダスが最後に言った〈種族の垣根〉という言葉は胸に重く伸し掛かってきた。



――――――――――

シルバーウィーク、まさかの台風二連発でしたが皆さん大丈夫でしたでしょうか?
拙作が何かしらの楽しみになっていたら嬉しいです。
明日からの更新は毎夜20時に1回となります。
ゆっくりとした歩みになりますが、これからもよろしくお願いいたします。

9/26・11時30分追記↓
ありがたいことに、HOTランキングの末席にお邪魔することが出来ました!!
お礼も込めて12時と20時にも更新いたします!!
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