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春はここでも恋の季節?
①
しおりを挟む春を実感する事象、事柄、イベント。――向こうでは桜の開花などがその象徴だったが、この村では違う。
行商人が来ると村の中央にある広場にテントが張られ、どこかのバザールのように様変わりする。
一口に〈行商人〉と言っても、背負い籠だけで歩くような身軽な商売ではない。
大元の商会の人間の他、荷運びや護衛を含めて三十人ほどが移動するのだ。
慎ましやかな村がこの時ばかりは活気づく。
山の中腹にあるこの村よりも、麓のほうが暖かい。その暖かさを引き連れて行商人が訪れる。
その為、〈行商人〉が来ることは〈春の訪れ〉とされている。
「――……春だなぁ」
パタパタとシャツの胸元をつまみ上げて風を通しながら独りごちた。
そうは言っても実際は初夏の陽気で、日向で活動していると汗ばむくらいだ。
胸を押さえつける晒が暑さを助長させるが、これを外すとプックリと膨れた乳首が透けてしまうから外せない。
息苦しいのか寝ている間に緩ませてしまうようで、朝起きるとチビが乳首に吸い付いたまま寝ていることがある。
あれは驚くので止めて欲しい。
「今回は何があるだろうなぁ。チビの好きなプオゴの実があると良いんだが……」
プオゴの実は、向こうで言う桃やプラムだ。じゅわっと溢れる果汁でベタつくから食べるのは大変だが、甘さの割に後味がスッキリしていて美味い。
ヨヨのお茶を飲んだ後の口直しにも良かった。
ついでに、食べやすい飴玉や水飴のような代物も欲しい。
今回来たのは食料品に力を入れているザハーヌ商会なので期待は高まった。
「オンラーシ!!」
行商人が持ち込む品々に思いを馳せていると、テントの影から見慣れた人間がこちらに歩いてきた。
わざわざ大声で俺を呼び、視線もこちらに固定している。
逃げても良いが、後々のことを考えればここで対応した方が良い。
「久しぶりだなぁ! おぉ、チビも!! ……少しは大きくなっ――――イッデェ!!」
「シギ。お前、こいつに嫌われてるんだから抱き上げるな。あー……チビ、気持ちはわかるが指を離してやれ」
この騒がしい男――シギ――は、隣の村の人間だ。
何故か俺を気に入っていて、春から秋の間は片道一週間を掛けてよくこの村にやってくる。
今回は商隊と一緒に来たのだろう。
そして、チビの天敵でもある。
どうにも気に障るようで、シギ相手には遠慮会釈なく急所を狙って攻撃する。
今も、その小さな指をシギの鼻の穴にブスリと突っ込んでいた。
ヒィヒィ言っているシギからチビを取り返し、その指を服で拭ってやる。
ついでに「汚ねぇからそんなとこに指を突っ込むな」と注意した。せめて人中を突いてくれ。
「オンラ、そういうことじゃ……これ、鼻血が出てないか?」
「残念ながら出てねぇよ。まったく――それで、今日は何の用だ?」
「相変わらず素っ気ないなぁ。そんなところも好きだけど」
「……」
訂正。
俺のことを〝気に入っている〟のではなく、俺のことが〝好き〟らしい。
「あーっ! その冷たい視線! 堪らんッ!!」
こんなアホなことを言っているから、チビがこいつを嫌うのかもしれない。
行商が来ることは嬉しいが、シギのことは出禁にして欲しい。
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