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春はここでも恋の季節?
②
しおりを挟む「シギ。今回のザハーヌ商会の目玉は何だ? 一緒に来たんだし、何か聞いているだろう?」
俺とチビ、二人がかりの冷たい視線にもヘラヘラ笑って堪えていない。
へこたれないのは見上げた根性だが、これに付き合っていると話が進まないので多少強引だったが水を向けてみる。
こちらの思惑が通じたのか、シギは誤魔化すように空咳をしてから口を開いた。
「――、えっと、オンラが欲しい物ってチビ用だよな? うーん……あまり子供向けの物はなかったと思う。飴とかはあった筈だけど目新しくはないよなぁ。――商会としては、この村でホラ、去年少しだけ出したチーズがあっただろ?」
「あぁ。フルーツを入れたヤツか?」
「それ! あれが王都の方で人気になったみたいで、それの買い付けがメインらしい」
そう言われて少々ガッカリしてしまう。
言われたチーズは確かに珍しいかもしれないが、王都で人気になる程とは思えなかった。
だってそれ、普通のチーズケーキだぞ?
飴玉や水飴からわかる通り、この世界で砂糖は貴重品ではない。
上白糖ではなく黒糖やきび砂糖だが、それでも砂糖は砂糖だ。ちゃんと甘い。
後は麦芽糖と言う、小麦由来の物もある。
元々チーズに砂糖を混ぜて食べる習慣はあったが、そこにビスケット、干した果物、胡桃に似た木の実があったので全部混ぜた。
向こうでちゃんとしたお菓子作りをしたことはなかったし、記憶の物とは若干違っていたが、まぁまぁ食える物が出来たのだ。
それの形を良くし、更なる美味しさの追求をしてくれたのは、マリッサを始めとする女性陣である。
最終的には「焼いた方が日持ちするわね!」と言ってこんがりと焼いてくれた。
そして出来上がったのは――〈フルーツ入りチーズケーキ~異世界風~〉
「誰でも作れるんじゃないか? 食えば中身はわかるんだし、王都にはプロの料理人もいるんだろう?」
「いるだろうけどさ。……あの中に入ってるチェルはあっちじゃ高級品だぜ? そうホイホイと使えないんだろうよ」
「そう言えばチェルってこの辺りの特産品だったな」
「そーいうこと」
チェルと言うのは、ボンヤリと甘いだけの赤い木の実だ。
お菓子のグミの食感のまま、香りを付けずに甘さだけを感じさせたらチェルの実になる。
サイズも見た目も赤いグミなので、「いちご味か?」なんて気分で食べるとガッカリする。
「なんであれが高級品なんだろうなぁ…?」
未だに食べるとガッカリするので、俺としては「あー…アレね」程度にしか思っていない。
「都会の人間の考えることなんて、俺ら田舎モンにはわかんねぇよ」
「シギは食い飽きてるもんな」
「ここらの人間は皆そうだ」
――国も世界も違うのに、こういう言い回しは同じらしい。
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