異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

違う世界でもトイレはトイレ

⑤

　
「でたぁー」

　村の共用便所へと駆け込んで、リトの服をバッと捲まくり上げて後ろから支えると、スポポーンと音がするようなスピード出産排便。
　全力疾走で上がった息が整わない内に、ガックリと気の抜けるようなことを言いやがった。
　念の為に「もう出ないか？　大丈夫か？」と声を掛けるが、当の本人は「いっぱいでたねー」と他人事だ。
　それは俺も見ていたから知っている。

　こういう時、捲り上げるタイプの服でフルチンは楽だな。
　あのスピード感はズボンとパンツ着用だったら間に合わなかった。それくらい切羽詰まっていた。


「オンラー、大丈夫だったー？」
「おー……間に合ったぞー。ユアン、あ・れ・取ってくれ」
「ちょっと待っててー」

　急いでいた為、ケツを拭く紙を持っていなかった。
　ちょうど良いタイミングで、追いかけてきたユアンの声が聞こえたので投げ入れてくれるように頼む。
　少し待つとドア上部の隙間からそれが落ちてきた。

　正式名称はロールントの葉―――日常生活では「トイレのあれ」「あの拭くやつ」と言えば通じる。

　この葉は風船のように膨らんでいて、それを破くと大きな一枚の葉っぱになる。
　内側が少し湿っているので、触り心地はトイレットペーパーと言うよりはウエットティッシュ……――否、赤ん坊のおしり拭きその物だ。
　拭いた後に少しだけ清涼感を感じられるから、トイレットペーパーよりも気持ちがいい。破れないし。
　村の共用便所毎にロールントの木が生えているので、そこから葉を毟むしってきて使う。

「すきり！」
「そうだな、スッキリしたな。……でもリト、トイレは家でしてから出てこいよ」

　何故か「えー？」と不満を口にするリトの丸出しにしたケツを拭いてやって、拭いた葉はそのままトイレにポイ。
　裾を直してから外に出ると、さっきの会話が聞こえていたのかユアンが苦笑していた。

「皆ね、最近はこっちでしたがるんだよ。オンラがトイレの椅子を作ったでしょ？　あれに座りたいみたい。多分、家でするより楽なんじゃないかなぁ……僕たちは逆に、ここでするの怖かったもん」
「落ちそうだよな」

　今回は使用していないが、俺が子供と親の為に作ったのがユアンの言っている〈トイレの椅子〉だ。
　なんせこの共用便所、昔懐かしい汲み取り式なのだ。
　ドアを開けると三歩先あたりから床が二十センチ程高くなり、真ん中に穴がポッカリと空いている。
　そこへしゃがみ込んでする和式タイプだったので、向こうの子供用便座や風呂の椅子を思い出しながら作った。

　確かに落ちる危険がなければこっちの方が良いだろう。
　親が後ろから支え続ける手間もなくなり、本人も安心して気張れる。
　良いこと尽くめ――……かもしれないが、何でユアンと一緒に追いかけてきた子供らがトイレに並んでいるんだ。
　お前ら絶対にウ○コ出ないだろう。