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3話 煩悩の力(エロパワー)

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「まずは部員集めからか……。いや、その前にグラウンドを一度見ておこう」

 8月も中頃を過ぎたこのタイミングで、龍之介2年生は新生野球部のキャプテンに任命された。
 前途多難だが、リターンも大きい。
 彼はやる気だった。
 というか、断ったら退学させられてしまう。
 成績不良で野球以外に取り柄のない彼にとって、野球は無事に卒業するための唯一の手段でもある。

「ふっふっふ。早速グラウンドに顔出しとは、感心じゃないか。龍之介くん」

「あ、理事長」

 龍之介がグラウンドを眺めていると、女性理事長が声をかけてきた。
 彼女は、どこか嬉しそうな表情をしていた。

「野球部の復活、協力に感謝するよ。桃色青春高校の名を全国に広めるため、頑張ってくれ」

「ええ、もちろんですよ。まずは部員を集めないといけませんがね」

 言うまでもないことだが、野球をするには最低9人の選手が必要だ。
 守備時のポジションで言えば、ピッチャー、キャッチャー、ファースト、セカンド、サード、ショート、レフト、センター、ライト。
 それぞれ漢字一文字で表すなら、投捕一二三遊左中右となる。

 攻撃時には、あらかじめ組まれた打順に従ってバッティングを行うことになる。
 1~5番が上位打線、6~9番が下位打線と呼ばれ、概ね打撃の上手い者から配置される。
 若干の例外があるとすれば、1・2番は上位打線の中でもミートが上手くて足が速い者が適任とされ、3・4・5番は長打を打てるパワーを持つ者が適任とされる。

 さらに細かいことを言えばいろいろとあるのだが、今は置いておこう。
 いずれにせよ、龍之介自身を含めて9人の選手を集めなければ話にならない。
 試合中の怪我や疲労に備えるならば、さらにもう数人は欲しいところだろう。

「ちなみにですが、理事長権限で部員を集めたりは……」

「それも考えたのだが、君の場合は自力で集めてもらった方が良いと考えた」

「え? それはなぜ?」

「分からんか? そうだな……。よし、そのボールを一度投げてみたまえ」

 理事長が指をさす。
 その先にあったのは、綺麗な白球だった。
 どうやら、野球部のスタートのために理事長が手配してくれていたらしい。

「俺はブランクが1年以上あるんですけどね……。まぁ、やってみましょう」

 龍之介がボールを手に取る。
 そして、軽く振りかぶって投球フォームに入った。
 中学3年間の間に鍛え上げた、彼の最速ストレートである。

「ふんッ!」

「ほう……」

 放たれたのは、時速140kmを超えるスピードを持った速球――ではなかった。
 130kmや120kmですらない。
 およそ100km程度の遅球であった。

「やはり、今の君はその程度か」

「あれぇ? こんなはずじゃ……」

 龍之介が首を傾げる。
 ブランクが1年以上あるとはいえ、彼は中学生で全国制覇を成し遂げたピッチャーだ。
 中学の時点で、軽く130kmは出ていたはず。
 わずか1年サボった程度で、100km程度にまで落ちるものだろうか?

「いいかい、龍之介くん。私はね、君のポテンシャルを高く評価しているんだ」

「は、はぁ……」

「その才能を腐らせておくわけにはいかないんだよ。だから――ほら、これでどうだい?」

 ふにゅんっ。
 突然、龍之介の手が柔らかい何かに包まれる。
 それはとても柔らかく、温かく、心地よい感触だった。

「うおっ!? こ、これは!?」

「私の胸――おっぱいだよ。これでも、なかなかの大きさだと自負している」

「む、むむむ……!」

「年増の胸で悪いが……。どうだね? 少しはやる気になったかい?」

「はい! 今なら200kmぐらい出せそうです!!」

 龍之介が目を輝かせる。
 彼は思春期真っ盛りの男子高校生だ。
 巨乳の感触を受けて、否応なくテンションが上がってしまう。
 目の前の理事長は、まだまだ若く彼のストライクゾーンに入っていたのだ。

「ははは、そうかいそうかい。それなら良かった。もう一度投げてごらん」

「了解です! うおおおおぉっ!!! どりゃぁっ!!!!!」

 龍之介が再び、力を込めて腕を振る。
 すると、今度はちゃんとした速度でボールが飛んでいった。
 さすがに200kmは遠く及ばないが、先程の遅球とは比べるべくもない。

「おおー! さすがは龍之介くん! おっぱいパワーで球速が上がったね」

「ありがとうございます! なんか調子出てきたぞーっ!!」

 調子に乗った龍之介が速球を投げ込んでいく。
 だが――

「あれ……? また力が出なくなってきた……?」

「ふむ。やはり私のおっぱい程度では駄目か」

「ええええええ!?」

「いいかい? 君の力の源泉は性欲だ。煩悩の力、あるいはエロパワーと言ってもいい。中学生の時にも、幼馴染のチームメイトとやらに告白するために頑張っていたそうじゃないか」

「そ、それは……」

 龍之介の顔が赤くなる。
 彼は野球自体も好きだが、それ以上に異性へのアピール手段として取り組んでいた。

「中学生の君は、純粋な恋愛心が原動力だったのかもしれない。しかし今の君は、エロが原動力だ。エロエロマンだな」

「エロエロマンって……。なら、俺はどうすれば!? こんな100kmのボールじゃ、甲子園優勝どころか1回戦突破すら怪しいですよ!」

「心配はいらないさ。ここがどこだか忘れたか? 恋愛青春学園だ。君以外、女子生徒しかいない」

 理事長がニヤリと笑う。
 彼女は龍之介の肩に手を置くと、優しく語りかけていくのだった。
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