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第1章 初級冒険者として活躍 シルヴィ、ユヅキ

11話 分割払いの相談

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 奴隷商館で、ルモンドから話を聞いているところだ。
 シルヴィは、白狼族という希少種族だった。

 また、俺の懐事情にまだ余裕がないのもルモンドには見透かされている感じだ。

「ああ。実を言うと、まだまだ購入資金は足りていない。この1週間で新たに貯められた額は、金貨数枚程度だ」

 俺はそう言う。
 もう少し詳しく言えば、俺の全財産も金貨数枚程度だ。
 だが、あえてそこあたりは少し濁しておく。

「ふうむ。コウタ殿はすばらしい風魔法の腕をお持ちですが、やはりソロで下級の魔物を相手にしているだけでは、そうなりますか」

 ルモンドがそう言う。
 駆け出し冒険者の割には稼げているほうだと思うが、シルヴィの購入にはまだまだ足りない。

「俺としても残念なところだ。より稼ぐために中級の魔物の討伐に挑戦したい。しかしそのためには、パーティメンバーとしてシルヴィを迎え入れたい。シルヴィを購入するために、もっと稼ぎたい……」

 堂々巡りである。
 やはり、コツコツと稼いでいくしかないのか。

 俺には『ジョブ設定』『経験値ブースト』『ストレージ』『セカンドジョブ』などというチートがあるし、そこらの一般冒険者よりははるかに恵まれた環境にある。
 1か月ぐらいがんばれば、前金分ぐらいなら稼げるかもしれない。

「コウタ殿には助けていただいた恩もありますし、こちらとしても何かしらのご提案をさせていただきたいところですが……」

 ルモンドがそう言って、思案顔になる。
 彼が何かを思いついたような顔をして、口を開く。

「……ふむ。条件次第では、シルヴィ購入の前金をさらにお安くさせていただくことも可能かもしれません。具体的には、金貨1枚でも、10枚でも」

 彼から現時点で提案されているのは、前金として金貨50枚、残りは金貨250枚を分割払いだ。
 利子や手数料もあるので、最終的に払う額はもう少し多くなるだろう。

「金貨1枚だと? 実質的には前金なしのようなものではないか。ありがたいが……。それで、その条件とは?」

「利子を高くし、かつ担保を設定していただくことでございます」

「利子を高くするのはわかる。しかし、担保にできるものなど俺にはないぞ。あったら、売却して購入費の足しにしている」

 高く売れる担保と言えば、土地、家屋、芸術品などだろう。
 残念ながら、俺はどれも持っていない。

「いえ、コウタ殿は高い価値のものをお持ちです。まずは、入り口でお預かりしました剣と、狩りの際に着ていらっしゃる防具です。初心者向けのもののようですが、なかなか質が高い。合わせて、金貨数十枚の価値はあるでしょう」

 剣と防具は、ミッション報酬で得たものだ。
 店で売られている安物と比べると、多少は質がいい。
 ルモンドの言う通り、金貨数十枚の価値はあるだろう。

「しかし、剣と防具は俺の冒険者活動の生命線だが……」

「もちろん、今後も使っていただいて構いません。あくまで、コウタ殿が返済不能に陥られた際にだけ現金化することになります」

「ふむ。しかし、それでも全額の返済には足りないのではないか?」

 シルヴィの売値は、俺に対する割引価格でも金貨300枚。
 前金はほぼないようなもの。
 かつ、俺が分割払いをほとんどできないままケガを負って返済不能に陥ったと仮定しよう。
 単純に考えて、ルモンドは金貨200枚以上の損失を被ることになる。

「シルヴィの所有権の返却をしていただきます。シルヴィの価値を保全するため、分割払いを終えられるまでは、肉体的な手出しは不可とさせていただきます」

 つまり、『やるな』ということか。

 シルヴィの価値は、俺に対する割引価格でも金貨300枚。
 その高い価値は、彼女の整ったな容姿と、白狼族としての高い戦闘能力の素質に起因するのだろう。
 俺が肉体的に手を出さなければ、彼女の価値は高いままだ。

「しかし、俺がその約束を破ったらどうする? いや、もちろん破る気はないが」

「シルヴィの価値が低下しており返済額が不足した場合は、最終的にはコウタ殿自身の奴隷落ちで補填させていただきます」

 俺が奴隷落ち。
 重い話だ。

「そ、それは……。さすがに……」

 俺は尻込みする。
 そんな俺を見て、ルモンドがニッコリと微笑む。

「それほど心配する必要はございませんとも。コウタ殿であれば問題なく稼いでいけるでしょう。万が一不慮の事故に遭われたとしても、剣、防具、シルヴィなどが万全の状態であれば、返済不能に陥ることはありません」

「確かにそうだが……」

「最悪の事態を想定してみましょう。コウタ殿がシルヴィを購入されて早々にムチャな魔物に挑戦し、大敗。シルヴィは死亡し、コウタ殿は大ケガにより冒険者活動の継続が困難に。剣や防具も壊れて使い物にならなくなった。……そのような状況に陥れば、コウタ殿は一生を奴隷として過ごすことになるでしょうな」

 一生奴隷。
 それは嫌だ。
 せっかく異世界に来て無双できるような状況なのに。

「…………」

「次に、そこそこの残念な事態を想定してみましょう。コウタ殿がシルヴィを購入され、しばらくは低級の魔物狩りで様子見をされた。慣れてきた頃に中級の魔物の討伐に挑戦され、ギリギリで撃破。しかしコウタ殿もシルヴィも完治可能な程度の大ケガを負った。……このような状況であれば、まだ救いはあります。シルヴィ、剣、防具を現金化すれば、かなりの額を返済できるでしょう。コウタ殿のケガが完治すれば、風魔法使いの戦闘奴隷として売りに出されます。魔法使いの奴隷は需要がありますし、そうそう過酷な環境で酷使されることはありません。ゆくゆくは解放も見込めるでしょう」

 ルモンドがそう言う。
 彼の想定している『最悪の事態』や『そこそこの残念な事態』には、リアリティがある。
 確かに、あまり無謀なことさえしなければ『一生奴隷』などということにはならないか。

 それに、彼は俺のことを高く評価してくれているようだが、まだまだ俺の底を把握し切れているとは言い難い。
 俺には、『ジョブ設定』『経験値ブースト』『ストレージ』『セカンドジョブ』などというチート能力があるからな。
 それらを活用すれば、危険を犯さずに稼いでいくことも可能だろう。

「……うむ。では、その方向で話を進めよう。その前に、シルヴィ自身の意向も確認しておきたい」

 俺はそう言う。
 白狼族は高い戦闘能力を持つ。
 冒険者としても活躍が見込める種族だ。

 しかし本人の適性というものもある。
 本人が内向的で臆病な性格であれば、冒険者としてやっていくのは難しいだろう。

「それは当然のことですな。実は、既に準備をさせております。今、連れてきましょう」

 ルモンドがそう言って、部屋から出ていった。
 待望の、シルヴィとの対面だ。
 あのかわいい少女が俺の仲間になるかどうかの瀬戸際である。
 楽しみに待つことにしよう。
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