続きは生徒指導室で

伊吹咲夜

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「鈴木! 大丈夫か!?」

 勢いよく開け放たれたドアから入ってきたのは、澤田だった。
 コウが驚いて振り向くと、無愛想な顔を怒りで赤くした澤田が、コウを睨み下ろしていた。

「鈴木になにをした」
「なにって、見て分かりませんか? イイコトしてる途中ですよ。花梨がそういうプレイがしたいって言うから。ちょっと騒がしくして、誤解を生んだのかもしれませんが」
「鈴木、本当か?」

 そう言って澤田は、コウから花梨へ視線を移した。

「そうだよな、花梨?」

 コウも花梨の方へ向き直し、笑顔で確認した。が、目は笑っていない。
 二人に尋ねられ、花梨はビクビクとしながら身体を縮こませた。
 ただただ、怖かった。
 澤田の怒りに満ちた姿も、コウの笑っていない目も。
 どちらも、花梨にとって恐怖でしかなかった。

「鈴木、本当のことを言いなさい。私は怒ったりしない」
「花梨、本当になんでもないよな? ただのプレイの一環だよな?」

 コウは念を押しながら、澤田に見えない角度で花梨の内腿をギュッと抓った。

「鈴木」

 澤田が『大丈夫だから』というような目で見つめ、花梨の名前を呼んだ。
 それに呼応するように、花梨は小さく呟いた。

「先生、助けて……」

 花梨のそのひと言を聞いて、二人が同時に動いた。
 コウは花梨に向かって拳を振り上げ、澤田はコウに向かって腕を伸ばした。

「!!」

 花梨が目を閉じた瞬間、ガターン! と大きな音がした。しかし痛みは全然ない。
 おそるおそる目を開けると、倒れた椅子と、それに寄りかかる形で倒れているコウが目に映った。

「~~!! 俺にこんなことして許されるとでも思っているのか!? 俺の父親が誰か知ってて、こんなことしのか!?」
「知っているが、何だというんだ。お前がしようとしたことは、強姦に暴力だ。それを止めるために、やや強引に・・・・・引き離した結果、偶然・・椅子にぶつかっただけなんだが?」
「くっ……。そんな言い訳、通用すると思ってるのか!?」
「通用するのか否かは、お前が父親に話してみれば分かるんじゃないのか? それよりも、この顛末をどう話すのかの方が、興味があるな」

 澤田がそう言うと、コウは言い返す言葉が見つからなくなったのか、悔しそうに澤田を睨むんだ。

「たかが教師のくせに! 俺に暴言を吐いたことに後悔するがいい!」

 コウは捨てゼリフを吐くと、入口付近に脱ぎ捨てていたズボンを急いで穿いて、逃げるように生徒指導室から出ていった。

「……まったく、虎の威を借る狐ってやつか。そこまで現実は甘くないんだよ」

 フンっとコウが出ていったドアに向かって鼻息を吐くと、クルリと花梨へ向き直った。

「大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
「先生……」

 コウから助けてもらったということで安心したせいか、花梨は返事をするとそのまま意識を失った。



 気付くと、花梨は知らない部屋にいた。
 自分の部屋とは違う、ライトグレーの壁紙の天井と、紺色のシーツとカバー。そして眠りに邪魔にならない明るさの、細長いウォールライトがベッド脇の壁で灯っていた。
 ここはどこだと考える前に、誰かが静かにドアを開けて入ってきた。
 澤田だった。

「気付いたのか。どこか痛いところはないか? 眩暈はしないか?」
「背中とか、ぶつけたところがちょっと。ここ、先生のおうちですか?」

 そう言って起き上がろうとした花梨を、澤田は止めた。

「まだ起き上がるな。医者を呼んでいたから、それまでは寝ていろ」
「大袈裟ですよ。ちょっと頭をぶつけたくらいで」
「念のためだ」

 澤田が花梨をベッドに押し戻したところで、インターフォンが鳴った。

「ちゃんと寝ていなさい」

 もう一度念を押して、澤田は部屋から出ていった。
 そこから時間を置かず、澤田は黒い大きな鞄を持って、ネルシャツを着たムスっとした老人を連れて戻ってきた。

「こんな夜に呼び出しおって。ちょうどドラマが始まる時間だったのに」
「ドラマくらい録画で見てください。それより、早く診てください」
「急かさんでも今診る。ドラマはリアタイで見るのが一番面白いのを、お前は知らんのか?」
「ドラマに興味はありませんので」

 澤田がそう答えると、老人はフンと鼻息を吐き出し花梨の横に立ち、勢いよく布団を剥がした。

「お前に彼シャツ願望があったとは。姉さんに教えておこう」
「……単に着せるものがなかっただけです。私のTシャツだと、ブカブカ過ぎて脱げてしまったんで」
「恥ずかしいのは分かるが、別にいまさら隠さなくてもよかろう? きっとあいつは、彼シャツを着るのが好きな見合い相手を選出してくれるぞ?」
「もう見合いはしないと、母には言ってあります。それより早く診てください」

 澤田がジロリと睨むと、老医師はつまらなさそうに溜息を吐いて、鞄から聴診器を取り出した。

「ん? 少年、どうした?」
「彼シャ……いや、なんでもないです。ボク、大丈夫なんで、診なくて大丈夫です」
「大丈夫だったら医者を呼ばんだろう。吐くなり倒れるなり、なにかしらの症状があったんだろう?」

 そう言いつつ老医師は、花梨の胸に聴診器をあて、瞼を開いて眼を診たり、テキパキと手を動かした。

「生徒同士のケンカで頭で打ったんです。気を失ったのもあって、心配だったからあなたを呼んだんです」
「昔はこれくらいのことで、大騒ぎなんかしなかったのにな。そんなに心配なら、親に連絡して病院に連れて行ってもらえばいいの話だろうが」
「連絡はしました。何度かけても不在でした」
「この時間でか!? どこの馬鹿だ、そいつは!?」

 呆れたように眉を顰め老医師が憤慨すると、澤田はチラリと花梨の方へ視線をやってから老医師を見つめた。
 
「なんだ、ここでは話せない内容なのか」
「まあ少々。ご相談も兼ねて別室でお話したいのですが。鈴木、先生ちょっと話をしてくるから、大人しく寝ていなさい」
「先生?」
「すぐ戻る。気分が悪くなったら、壁を叩いて呼びなさい」

 ポンポンと花梨の頭を叩くと、澤田と老医師は神妙な顔をして部屋から出ていった。

 澤田が花梨の元に戻ってきたのは、小一時間も過ぎた頃だった。
 すぐに戻ると言った割に時間は経っていたが、幾分か落ち着いたせいか花梨は眠っていた。

「眠ったか」
「……ん、先生?」
「悪い、起こしてしまった」

 チラリと壁に掛かった時計に視線をやると、針はすでに一時を回っていた。

「今日はこのまま寝なさい。無理なようなら、明日は学校を休むといい」
「でも……」

 『でも』と言いつつも、花梨の本心はこのままここで眠ってしまいたかった。
 家に帰ればまたあれこれと考えてしまうし、なにより澤田の傍にいると不思議と落ち着けることに気づいたからだ。

「遠慮することはない。さっきも言ったように、親に連絡しても連絡がつかない。そんな場所へ帰したあとの、鈴木のことが心配なんだ。私の不安を取り除くためにも、今日は泊っていってくれないか?」
「先生がそこまで言うなら……」

 ホッとしつつ、それを悟られないように花梨は目元まで布団の中に潜り込んで表情を隠した。

「なあ鈴木、少し聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「あいつと何があったんだ? 校内でお前達が付き合ってるという噂は知っていたが、あれは尋常じゃない」
「……本当に何でもないんです。それにボク達は付き合ってなんかいません」
「ならば余計におかしいだろう。どこからどう見ても強姦だ。合意のもとでなら、鈴木だってあの場で私に助けを求めたりしない」

 澤田に問い詰められ、花梨はなにも言えなくなってしまった。
 それこそ、コウがやったことを強姦と認めてしまえば、コウは罪に問われることになるだろう。
 しかしそうなってしまうと、緘口令を出していたとしてもどこからか情報は洩れ、花梨は『男に強姦された男』と校内で噂になることは間違いないだろう。
 
 強姦を認めなかったとしても、コウとの関係は元には戻れないだろう。
 コウはどう思っているか分からないが、花梨としては前のように尊敬したり兄のように慕ったりは出来ない。
 あのおぞましい光景を思い出してしまい、嫌悪感と恐怖が甦ってしまうから。

「あいつが言った、父親の権力を借りて云々ってのを気にしているのか?」
「いえ、それは……」

 気にしているどころか、全然考えていなかった。
 幼い頃から接してきたコウの父親は、確かに権力のある人間であるが、不正にその力を振るうような人間ではないことを知っていた。
 コウが本当に父親に乞うてその権力を使おうとしたところで、逆にコウが説教されるであろう。

「じゃあなんだ? 何を気にしているんだ?」
「……先生には関係ないでしょ」

 そう言って花梨は布団を頭までスッポリと被り、黙り込んだ。

「鈴木」
「……」
「話してくれ、鈴木」

 澤田が話かけるも、花梨は返事をしようとしなかった。

「……さっき、鈴木は私には関係ないと言ったが、関係なくはないんだ」
「関係ないじゃん。たかが生徒と先生の関係なんだから」
「そうじゃない!」

 強く言いきると、澤田は勢いよく布団をはぎ取り、布団の中で丸くなっていた花梨を抱き起こした。

「鈴木は私のことを通っている高校の先生という認識なのかもしれないが、私はそう思っていない」
「じゃあなに、生徒として認識していないって? 生徒以下、ただの他人としか思っていないって言いたいの?」
「違う!」

 抱き起こした花梨をそのまま引き寄せると、澤田は花梨の唇に強く口づけた。

「他人だなんて思ったことない。それどころか、教師としてあるまじき感情を抱いている」

 突然のキスに驚き、なにも言えなくなっている花梨に澤田は続けて言った。

「好きなんだ。生徒としてではなく、ひとりの人間として鈴木のことが好きなんだ」
「ボクのことが、好き……?」

 呆然と澤田を見つめていたが、ハッと我に返ると澤田を腕で押し退け、キッとした目つきで睨み上げた。

「それ、ボクに対する懐柔のつもりですか? 自分がいくらイケメンだからって、好きだっていえば相手が落ちて、なんでも話すと思っているんですか? そうやって今までも何人もの生徒を懐柔させて、あれこれ喋らせてきたんですか?」
「違う! 私はそんなことはしていない!」
「大人は誰だってそうやって嘘をつくんだ。自分はやっていないといいつつ、陰で人を嘲って優越に浸る」
「私は鈴木を嘲ってはいない。信じてくれ」

 押し退けたとはいっても、体躯のいい澤田を非力な花梨が押した程度だ。触れていた身体同士に少し隙間が空いた程度だった。まだまだ至近距離にあった澤田は、ぎゅっと花梨の両手を握った。

「本当に好きなんだ。その可愛らしい容姿に一目惚れした。密かにその姿を追ううちに、真面目でひたむきな性格にも惹かれるようになっていった。たまにみせる不真面目な面も、愛おしいと思っている」

 握った手を自分のほうへ引き寄せ、真剣な眼差しで語る。
 花梨が言うような嘲ったり、騙したりというような雰囲気は微塵も感じられなかった。

「好きだからこそ、鈴木には苦しい思いはして欲しくないんだ。だからあいつに罪を問うことで問題が生じるなら、私はその問題を取り除いてやりたいんだ」
「先生」
「話してくれないか、鈴木。純粋なお前を、これ以上傷つけたくないんだ」

 澤田の『純粋なお前』のひと言で、花梨の表情は強張った。

「……がう」
「? なんだ?」
 
「違う。ボクは純粋なんかじゃない。本当のボクを知らないから、そう言えるんだ!」

 叫ぶと、握られていた手を振り解き、スルリと澤田の間をすり抜けて部屋から飛び出した。

「鈴木……!」

 引き留めようと後を追ったが、意外と花梨の動きは素早く、玄関に行ったときにはすでに花梨の姿は消えていた。

「鈴木……」

 諦めて部屋に戻り、急変した花梨の態度に首を傾げていた。
 なにが花梨の機嫌を損ねてしまったのだろう? そんなに変な発言をしたのか? と。
 思い悩んでいると、どこからかスマホの通知音が鳴り響いた。
 ポケットにしまっている自分のスマホではない。それでは? と発信源を辿ると、ベッド脇にある花梨の鞄からだと分かった。

「親からか?」

 違う可能性もあるが、こんな時間にかかってくるなんて、未だ自宅に戻らない花梨を心配した親の可能性が高い。
 本当はやってはいけないのだが、澤田は花梨の鞄を開けスマホを取り出し、再び鳴り始めた着信に応答した。

『あ、りんりん? やっと出た。珍しくもう寝ちゃってたとか? それより明日会えない? りんりんの動画見てたらムラムラしちゃってさ。そんなに払えないけど、二万でどう?』
「……」
『聞いてる? おーい? りんりんー?』

 相手がまだ話しかけていたが、構わず澤田は電話を切った。そしてそのまま電源も落として、再びかかってこないようにした。

「りんりんって、鈴木のことなのか?」

 相手が話してした内容から、花梨が男相手に身体を売っていることは確かだった。しかも一回や二回じゃない。

「……やはり無理矢理にでも聞き出すしかないのか」

 鞄にスマホを戻しつつ、明日は学校に来るのであろうか? と再び花梨を心配し始めた。

 澤田が懸念したように、花梨は翌日の学校を休んだ。
 担任に聞けば、風邪をひいたとかで今日明日は休ませて欲しいと連絡が入ったという。

(今日は直接話は聞けないか……)

 半ば諦めかけ、教員室へ戻ろうとしたとき、澤田の前の廊下を歩くコウの姿が目に入った。

(こいつなら、何か知っているかも)

 思った次の瞬間、澤田は走ってコウを捕まえた。
 父親に殴られたのだろう。頬を腫らしたコウは、澤田に逆らうことなく澤田と生徒指導室へ向かい、聞かれるままに花梨について素直に話した。

「だからあんなことを言っていたのか」

 コウを生徒指導室から帰したあと、ひとり残った澤田は椅子に座ったままポツリと呟いた。

「しかし、信じられない」

 好きだと思っている相手だからなおさらなのだけど、そんなことをするような人間には見えなかったのでショックが隠せない。
 コウが昨日の腹いせに嘘を言っている可能性もあるが、がっつり叱られたのであろう、かなりしおらしかった。あの状態で嘘を言えるとは思い難い。

 それでもまだ少し、花梨がそんなことをするとは信じたくなかった。
 だから澤田は、コウから聞いたサイトを見てみることにした。
 夜中に活性化している某アダルトサイト。そこに花梨がいるという。
 珍しく緊張して早鳴る心臓。若干汗ばんだ手でマウスをクリックし、教えられたサイトの教えられた人物をクリックした。

「すずき、なのか……」

 クリックした画面の中には、大き目のシャツを開けて自分の乳首を弄るを少年がいた。
 見覚えのあるシャツ。昨夜、花梨が着たまま部屋から飛び出していった、澤田のシャツ。
 バタフライマスクをつけて顔は見えないが、体型と何気ない仕草は花梨に間違いなかった。

「本当だったのか……」

 ショックは大きかったが、バタフライマスクから覗く花梨の、悲し気な瞳を見て少し安心した。
 そして、確信した。

「鈴木」
「あ、先生……」
「今、ちょっといいか?」
「はい……」

 放課後、教室を出たところで花梨は澤田に呼び止められた。
 逃げ出したいが、こんな場所では逃げ出すことも出来ないし、逆に周りの学生に『何事か!?』と怪しまれてしまう。
 逃げることを諦め、大人しく下を向いたまま澤田の後ろをついて行った。
 しばらく行くと澤田のピタリと足が止まった。顔を上げると、そこは見覚えのある教室の前だった。

「入りなさい」

 もう二度と来たくないとまで思っていた教室、生徒指導室。
 入ることを躊躇っていると、澤田は花梨の背中を押して教室の中へ入れ、鍵をかけた。

「ここに来るのは抵抗があるとは思ったが、誰にも邪魔されない場所がなかったんだ」
「そう、ですか」

 促されるまま椅子に座り、教室内を見回した。
 あれだけ滅茶苦茶にしたというのに、何事もなかったかのように片付いており、あの日のことは夢だったのでは? と思えてしまうほどだった。

「家に忘れていっただろう? 翌日にでも渡せればよかったんだが」

 澤田が席に着くと同時に、花梨の前にスマホとマグカップを置いた。
 甘い匂いにカップの中を覗くと、湯気の立ったココアが入っていた。
 澤田は『変なものは入っていない』と言いたいのか、自分のカップのココアをひと口啜ってから口を開いた。

「……あいつに聞いた。鈴木の言っていた意味が、分かった」
「わざわざそれを言いたいだけで、ボクをここに連れ込んだんですか? 思ってたボクと違くて幻滅したと? それとも薄汚いとでも言いたいんですか? ああ、あんなことしてるんだから、自分にも一発ヤラせろと?」

 フンと鼻で嗤うと、花梨はわざとらしく上着を脱ぎシャツのボタンを胸のあたりまで外した。

「いいですよ。先生の顔も体型も、ボクの好みなんですよ。先生って立場じゃなきゃ、一回ヤリたいと思ってたくらいですから」
「そんなことを言いたいんじゃない!」
「好きだと言ったくせに、ヤリたくないんだ。やっぱり口だけなんだ」

 自嘲気味に笑うと、花梨はフイと澤田から視線を外した。

「そこまで言うなら、望み通りに犯してやるよ」

 ガタンと椅子から立ち上がると、澤田は花梨の傍へ来るといきなりキスをした。
 キスをしたまま、胸元まで開いたシャツの間から手を入れ、乳首をギュっと捻り上げた。

「んんっ!」

 唇を塞がれて声が出ないが、そこから漏れ出るものは痛さによる叫びというより、快感からくる喘ぎに近かった。
 花梨の唇を塞いでいた口は下へと移動し、首筋を辿り胸へと到達した。そして手で捻っていた乳首に、白い歯を立てた。

「あっ!」

 痛さと快感の渦に呑み込まれかけるが、それだけでは済まなかった。
 空いた手が、花梨のモノをまさぐり、やがて菊紋をなぞりだしていた。

「感じやすい身体してるんだな。すっかり濡れて。ここも、そんなに解さなくてもイケるんじゃないのか」
「だ、だったら、さっさと挿れればいいじゃないか。ヤリたいんだろ」

 ぎゅっと目を瞑り、ズボンのボタンを外し、自ら脚を大きく開いた。
 それを受け、澤田は無言のまま花梨のズボンと下着を脱がし、穴の周りを指でなぞった。
 冷たい指先に触れられ、花梨はビクっと身体を震わせ、これから訪れる痛みに身構えた。

 が、指先が穴から離れても、一向に痛みは訪れなかった。

「……?」

 どうしたんだろう? とそっと目を開けると、少し厳しい目をして花梨を見つめている澤田の姿がそこにあった。

「ヤラないんですか」
「そんなに震えて怯えているのに、まだ強がるのか。本当は犯されるのが怖いくせに。嫌なら嫌と、ちゃんと言いなさい」
「怯えてなんか」
「本当にか?」

 言うや否や澤田は素早く自分のモノを取り出し、花梨の穴に当てがった。

「!!」
「……怖いだろう。これに懲りて、好きでもない相手に抱かれるのは止めなさい。理由は聞いて知っているが、もっと大人を頼りなさい。自分の親が頼れないならなおさら、信頼できる大人を見つけなさい。私を、もっと頼りなさい」

 それだけ言うと、衣服を整えた澤田は花梨を残して生徒指導室から出ていってしまった。
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