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第一章 悪役令嬢と女神様

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 日が暮れかけた頃、私はミシェルのもとを訪れていた。
 シナリオの骨組みが完成したのでとりあえず見てもらおうと思ったのである。
 シャルロットは家の仕事をしなくちゃ、と帰ってしまったので私一人だ。彼女もなんだかんだで真面目なのかもしれない。…いやそれはないか。夜に王宮に侵入して私にいきなりマゾ発言連発した輩なのだから。
 しかしそんな変態だとしてもこの場にはいてほしかった。だって、さっきからミシェルが話を聞いてくれないんだもん。聞くどころか口を利いてくれない。彼女は無言で自身の部屋に案内してから無言でクッキーをすすめてきた。本当に今日どうしたの、ミシェル。あぁ、シャルロットならあの奇妙な言動で場を和ませてくれただろう。回想から戻ってきた私はもう一個、とクッキーに手をのばした。どんな奇妙なフンイキだとしても食べ物に罪はない。
 …やはり開口一番に同人誌をつくろー的なことを言ったのが悪かったのだろうか。

「それでね、ミシェル…「あ、シルヴィラちゃん、そのクッキーどうかな?」え、あ、美味しいよ…?」

 良かった、新作なんだぁ、とふわふわ笑われても困る。口を利いてくれたのは進歩だけれど私は話を進めたいのだ。
 今日中にシナリオの骨組みをミシェルにチェックしてもらって明日には早速シャルロットにキャラクターの絵設定を伝え案作りに精を出してもらおう、と計画していたのだが…これでは難しいだろうか。

「ミシェ「朝王子たち出発しちゃったね…やっぱり婚約者さん居ないと寂しい?」えと、あ、はい…?」

「やっぱりそうだよねぇ…でも、いくら寂しくても趣味に没頭することで婚約者のことを忘れ去ろうとするのは良くないと思うよ~?」

 あれ、なんか勘違いされてる?てか私は婚約者…ノワールを恋愛対象として観たことないし。できれば即刻で婚約破棄してほしいし。それを言わないのは世間体とか政治的なことを気にしているからだ。いくらモブになりたいと言っても他の人に迷惑をかけるのは避けたい。そこまで自己中心的には考えられないのだ。そういうのを一切抜きにしていいのなら私は喜んで婚約破棄に向けて動くだろう。
 まぁ、趣味に没頭して婚約者のことを忘れ去ろうとしているというのは否定しない。原因はミシェルの考えるような恋煩いなどではないのだが。

(その時、返事を聞かせてほしい)

「っ!?」

 また思い出してしまった。全く、彼は私にどうしろと言うのだ。って、違う。今はBLの話をしているんだった。
 私がむぅ、と悩んでいるとミシェルはクスクスと笑い始めた。

「ふふ、冗談だよ~。シルヴィラちゃんが王子様を見るたびに一瞬だけ嫌そうな顔をするの知ってるもん」

 ん?あれ、どれが冗談でどれが冗談じゃないの?同じような表情で冗談を出したり抜いたりするのはやめてほしい。冗談はノワールの話だけ、ということでいいんだろうか。

「シルヴィラちゃん分かりやすいからねぇ。あ、でも玄関で変なことを口走るのはやめてほしいな…シルヴィラちゃんだけでなく私まで変な人扱いされちゃう~」

 ミシェルはすっごく分かりづらいよねぇ。とそんなことは言えない。変なことを言ってまた本題に入らせて貰えなかったら困るからな…。
 でも本当に分かりづらい。同人誌をつくろーと言ったことが嫌だった、なんて全然分からなかったし。ちょっと表情に出してくれてもいいじゃないか。てか私は変な人決定なの?そこは揺るがないの?こんなに平々凡々だというのに…。
 ふてくされる私にミシェルは可愛らしい笑顔を向けた。

「ごめんね、可愛くていじめたくなってしまったの」

 その笑顔ですぐに悟る。シャルロット連れてこなくて良かったのかもしれない。彼女がこれを聞いていたらミシェルに詰め寄る気がする。大丈夫です、むしろウェルカムなんでもっといじめて下さい、みたいな感じで。それだとミシェルがかわいそうだ。
 まぁミシェルも毒舌だし相性は悪くない気もするけれど。
 で、ドージンシだっけ?とミシェルが本題に移ってくれたので、私はそれに乗ってまた話しだした。
 シャルロットがお呼びですか?と出てこなかったことにホッとしていたのは秘密である。
 話しあった結果、よく分かんないけどそれでいいんじゃない、と苦笑いされた。こういう趣味の話はいつもロランという名の通訳が必要になってくる。説明下手でごめんね。
 お願い、ロラン早く帰ってきて。そう切実に願った。いつまでも会話が成り立たないのはさすがに辛い。
 いやまぁ私が悪いのだけど…言葉遣いなんてすぐに直るものでもないし。開き直ってロランを待った方が早いはず。
 とりあえず今日は引き上げてシナリオが完成したときに読んでもらうことにした。

 帰り際、今日食べていたクッキーは2年前に発売されたもので、全然新作ではなかったと知らされたのは余談である。…そっちも冗談だったか。
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