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四章 辰巳とどこか不思議な子供たち
(6)
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――場所は変わって、辰巳宅。
板張りの部屋に辰巳を前に、鯛、兎。犬、ウソ、鼠の計五人が正座している。
鯛、兎、犬、ウソ、鼠は辰巳と向かい合う形だ。
その五人を前に辰巳は気難しい顔を崩さすにいた。
「まず、犬とウソ、それに鼠」
「はい」と三人揃って返事をする。
「三人とも、まだまだ『人の姿』をとるにあたって失敗が多いです。今日も雪見障子のガラス越しに体が見えてなくてはいけないのに、見えていませんでしたよ」
「忘れてたー」
「今度は気をつける」
「ごめんなちゅう……」
最後の鼠は自分の言葉の使い方に気づき、「ごめんなさい」と言い直した。
「特に鼠はまだこちらに来て日が浅いですから、今日のように人間と鉢合わせしたら十分に気をつけてくださいね」
「はい」
ハッキリとした三人の返事に辰巳は笑みを浮かべ頷くも、すぐに憂い顔になった。
憂いの元凶は菜緒だ。
姉崎菜緒。
「……なぜ、結界と目くらましが効かなかったのか」
彼女の先祖に巫女筋がいたことは、前の霊視で確認した。
でも、霊を感じる力はあるようだが、あとは全くの素人。普通の人間と変わらない。
結界を破るような力も能力もないのに――平然とこの住宅に入ってこれた。
自分の神力が弱くなっているのだろうか?
それを思うと哀しくなってくる。
祀られる存在ではなくなっていると、如実に証明されたようなものだ。
こうして預かりになっている多成神社の主祭神様や神社に集まる信仰心、そして祀られている五龍神の神気を分けてもらっているが、やはり社を持たない神は消えていく運命なのだろうか?
溜め息交じりの息を吐き出した辰巳の心の内を知っているように声をかけたのは、鯛だった。
「辰巳ぃ、違うよ。恵比寿様のお導きなの」
「また恵比寿様が?」
「うん、辰巳と引き会わせたいんだって」
「どうしてこんなお節介を……」
ぽかんとしたがすぐに我に返る。
恵比寿神は日本七柱神に入る最上級の神様だ。
彼の干渉があったら自分は気を張らないと気づかない。
さっそく目を閉じて、瞑想をはじめる。
恵比寿神と連絡をとり意図を尋ねようとする。
――まあ、想像がつくが。
『やれ、どうだ? 菜緒という女子はなかなかいいと思うが? 胆力があるじゃろう?』
(無理に引き合わせないでください。それでなくても彼女は北の巫女の血が流れていて敏感なのに)
『だからじゃ。そちの頭の固さに我々は強硬手段にでた』
(……)
『あの者は日本という中にあった異文化の巫女の血を引く。同じ異文化なら日本のものの方が藤村の竜も触れやすかろう。神使達を育てるのに、現代から遮断した育て方に関して我々は賛同できんのだ。我々は民として共にあるのだから、切り放して見るわけにはいかぬ。たまたま居合わせた者だが、必然なる出会いであると考えたまでじゃ』
(しかし、彼女は霊感は確かにありますが、あなた方の考えまでお見通しなわけではありません。それを話す私の身にもなって――)
『現代の異国料理なども彼女は知っている。彼女から現代の生き方を己で考えながら切磋琢磨せよ。』
(恵比寿様!)
ここで呼びかけても、うんともすんとも返事がかえってこなくなった。
「神と人が近かった昔と今は違うのですから……」
と辰巳は頭を抱える。
そんな彼を見て口を挟んできたのは兎だった。
「命令じゃないんだから、辰巳の好きにしていいんじゃない? ここは辰巳が任された領域だし、私達の養育は辰巳に一任されているんだし。辰巳が困るなら、菜緒を拒絶してもいいと思うわ」
「……神は寛容でなくてはいけないのですけれどね」
けれど、兎の意見も一理ある。
この子達は他の神様より預かりし『神使候補』達だ。
これから神使として成長して、俗世間に入り神様にお仕えするときに雑多な思念を持っていてはいけないのだ。
できるだけ純粋に、また清らかに。そしてお仕えする神に心酔しなくてはならない。
まだ下界のものに接触させるには早すぎる――
(今回は自分の一存で動こう……)
そう決意した辰巳だった。
板張りの部屋に辰巳を前に、鯛、兎。犬、ウソ、鼠の計五人が正座している。
鯛、兎、犬、ウソ、鼠は辰巳と向かい合う形だ。
その五人を前に辰巳は気難しい顔を崩さすにいた。
「まず、犬とウソ、それに鼠」
「はい」と三人揃って返事をする。
「三人とも、まだまだ『人の姿』をとるにあたって失敗が多いです。今日も雪見障子のガラス越しに体が見えてなくてはいけないのに、見えていませんでしたよ」
「忘れてたー」
「今度は気をつける」
「ごめんなちゅう……」
最後の鼠は自分の言葉の使い方に気づき、「ごめんなさい」と言い直した。
「特に鼠はまだこちらに来て日が浅いですから、今日のように人間と鉢合わせしたら十分に気をつけてくださいね」
「はい」
ハッキリとした三人の返事に辰巳は笑みを浮かべ頷くも、すぐに憂い顔になった。
憂いの元凶は菜緒だ。
姉崎菜緒。
「……なぜ、結界と目くらましが効かなかったのか」
彼女の先祖に巫女筋がいたことは、前の霊視で確認した。
でも、霊を感じる力はあるようだが、あとは全くの素人。普通の人間と変わらない。
結界を破るような力も能力もないのに――平然とこの住宅に入ってこれた。
自分の神力が弱くなっているのだろうか?
それを思うと哀しくなってくる。
祀られる存在ではなくなっていると、如実に証明されたようなものだ。
こうして預かりになっている多成神社の主祭神様や神社に集まる信仰心、そして祀られている五龍神の神気を分けてもらっているが、やはり社を持たない神は消えていく運命なのだろうか?
溜め息交じりの息を吐き出した辰巳の心の内を知っているように声をかけたのは、鯛だった。
「辰巳ぃ、違うよ。恵比寿様のお導きなの」
「また恵比寿様が?」
「うん、辰巳と引き会わせたいんだって」
「どうしてこんなお節介を……」
ぽかんとしたがすぐに我に返る。
恵比寿神は日本七柱神に入る最上級の神様だ。
彼の干渉があったら自分は気を張らないと気づかない。
さっそく目を閉じて、瞑想をはじめる。
恵比寿神と連絡をとり意図を尋ねようとする。
――まあ、想像がつくが。
『やれ、どうだ? 菜緒という女子はなかなかいいと思うが? 胆力があるじゃろう?』
(無理に引き合わせないでください。それでなくても彼女は北の巫女の血が流れていて敏感なのに)
『だからじゃ。そちの頭の固さに我々は強硬手段にでた』
(……)
『あの者は日本という中にあった異文化の巫女の血を引く。同じ異文化なら日本のものの方が藤村の竜も触れやすかろう。神使達を育てるのに、現代から遮断した育て方に関して我々は賛同できんのだ。我々は民として共にあるのだから、切り放して見るわけにはいかぬ。たまたま居合わせた者だが、必然なる出会いであると考えたまでじゃ』
(しかし、彼女は霊感は確かにありますが、あなた方の考えまでお見通しなわけではありません。それを話す私の身にもなって――)
『現代の異国料理なども彼女は知っている。彼女から現代の生き方を己で考えながら切磋琢磨せよ。』
(恵比寿様!)
ここで呼びかけても、うんともすんとも返事がかえってこなくなった。
「神と人が近かった昔と今は違うのですから……」
と辰巳は頭を抱える。
そんな彼を見て口を挟んできたのは兎だった。
「命令じゃないんだから、辰巳の好きにしていいんじゃない? ここは辰巳が任された領域だし、私達の養育は辰巳に一任されているんだし。辰巳が困るなら、菜緒を拒絶してもいいと思うわ」
「……神は寛容でなくてはいけないのですけれどね」
けれど、兎の意見も一理ある。
この子達は他の神様より預かりし『神使候補』達だ。
これから神使として成長して、俗世間に入り神様にお仕えするときに雑多な思念を持っていてはいけないのだ。
できるだけ純粋に、また清らかに。そしてお仕えする神に心酔しなくてはならない。
まだ下界のものに接触させるには早すぎる――
(今回は自分の一存で動こう……)
そう決意した辰巳だった。
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