チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた

文字の大きさ
上 下
28 / 34
イメージ違うんですけど!

その2

しおりを挟む
「……えっ?」
 今「弟」って言いませんでしたか?
 私、ウィルドさんと王様を交互にガン見。
「弟? ウィルドさんって王様の弟さん?」
「まあ、な……。全く、こんな兄をもって情けないやら恥ずかしいやらだが、血が繋がっている」
 ――それより、とまだへたり込んでいる兄である王様に向かってウィルドさんは凄む。
「いいから予備の剣はどうしたよ? ミナトってやろうじゃあ、属性からもだが、あんなへなちょこじゃあ今回の瘴気を倒せるわけねーだろ? あいつが素直にミサトに剣を渡せばいいが、へんなプライド持っているせいか無理っぽいしな」

「あ、ああ……」
 と王様はフラフラと立ち上がると、暖炉の上に飾ってあった帯剣を取る。すると――脇に設置してあったキャビネットが横にスライドした。

 そこに鉄の扉があり、開けると剣が立てかけて保存されていた。
 ウィルドさんは剣を取ると、状態を確かめる。
「うん、破損もないし。予備とはいえさすがに勇者用の剣だ」
 と、鞘から抜いた剣を見て満足そうに頷く。
 確かに、その剣の刃の輝きが違う。素人の私でさえ分かる。
 僅かな光を吸収し、自分の内なる力を放出しているかのようなまばゆい光だ。

「おい、兄貴。――言いたいことが山ほどあるが、まずはこの瘴気を倒さないといかん」
「あ、ああ……」
「首洗って待ってろよ」
 しょぼん、としている兄貴――王様。
 なんだか、弟さんの方が偉そう。
 ぼんやりとこの状況を眺めている王太子を後目に、ウィルドさんは私に剣を渡す。

「いいか、勇者の剣は持ち手の性質や願いで形を変える。これは予備として鍛え上げられた剣だが、あの馬鹿勇者が持つ剣と対で造られて性能は変わらん。これも『勇者の剣』だ。ミサト、もって願ってみろ」
「は、はい」
 恐る恐る受け取って重さにガクンと身体が揺れた。
「お、重い……っ!」
 と口に出した途端、軽く持てる程度の重さになった。
「あ、あれ……重さが変わりました」

「ミサトに合うように剣の方が調整してくれてるんだ。何度か振ってみろ」
「はい」と剣道の振り方を思い出しながら振ってみると、みるみると剣の形も変わっていく。
 幅広な刃だったのに、まるで日本刀のような幅になり、柄も私の手のひらにあう大きさになる。

 何より――

「剣の仕様? なんでしょうか? 属性が変わったような気がします」

 表現すれば『逞しさ』や『男らしさ』があった剣が『神々しさ』『艶やかさ』な剣になった気がする。
「今のミサトならステータスが視れるだろう? 視てみろ」
「どうやって『視る』んですか?」
 まずそこからだろう。
「そうだな……剣に手をかざして『状態開示』でいけるんじゃないか?」
「はい」と私は剣の前に手をかざし、
「状態開示」
とせりふを吐く。
 すると――目に前に透明な画像が出現した。
「うわぁ! ゲームの世界だわ!」
 思わず声を上げる。
「名称『聖勇者の剣』対象物に切りつけることで相手の状態、魔力、体力を回復させる。アンデット、ゾンビ、闇属性のモンスターに有効だが、普通のモンスターに対しては回復させてしまうので注意が必要……ああ、支援系の剣ですね」
「元々、治癒師のミサトだからな」
「人を切って怪我させるより良いかな、と思います」
 ぽん、と私の頭にウィルドさんの手のひらが乗る。
「ミサトが持つのに相応しい剣じゃないか!」
「はい……!」
 頭ぐりぐりされる。いつも髪が乱れて嫌だ~とか思う反面、大好きだったりする。
(乙女心は複雑だ~)

「これならミオの身体を傷つけることなく『瘴気』だけを倒すことができるぞ、ミサト」

 ――そうだ、私はそう願って剣を握った。

 剣はそれに答えて姿も属性を変えてくれた。
 私は、気を引き締めて真剣な顔をウィルドさんに向ける。

「澪ちゃんを助けてきます!」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...