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番外編 美之の黒歴史 1
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惣領家では今日も美之(五歳)の歌声が響いている。
覚えたばかりの新しい歌だ。
今日は歌にあわせた衣装も公開する。
ステージはリビングに併設のかつてのサンルーム。みふゆの部屋であり、三つ子達の部屋でもある。
衣装はキンキラピンクのラメ入りゆかたにキラキラの魚の飾りが縫いつけてあり、派手である。
魚が異常に好きな美之のために、みふゆが金銀の折り紙で折って手ずから飾り付けたお手製衣装だ。ついさっき仕上がり、着せてもらったのだが、みふゆは細かい作業に疲れたのか、ソファでうとうとし眠ってしまった。
代わりに三つ子達の見守りは惣領貴之がベランダで一服しながらしている。
美之は司と朗を目の前に立った。
ちゃんと振り付けもあるので美之は両手をパッとあげ、腰を左右に振った。
「おーねぇー!おーねぇー!
マチュケンサーンマー♪おーねぇー!おーねぇー!!マ・チュ・ケ・ン・サーンマーー♪♪♪」
司と朗が正座しながら美之を眺めてパチパチと手をたたいている。二人は観客役である。
「さーあ♪ポイせよ♪アミ(網)ーを!♪おんもーで♪せのりんだ♪♪♪ねむいシャケマイワシサンマとあそーぼーーー♪♪サーンマ!ビーバ♪サーンマ!マ・チュ・ケ・ン・サーンマーアアアーー♪♪♪オッネェイ!!」
美之はドヤ顔で両手をバッと広げ決めポーズだ。
歌いきって大満足。
「みゆちゃんかわいー」
「みゆちゃんすごーい」
司と朗は美之を讃えているが、棒読みである。
すごくめんどくさそう。
そんな三つ子達を、リビングの入り口で立ちすくんで見ていたのがスーツ姿の二人の男だ。
「三上・・、俺は美之に正しい歌詞を教えるべきなのか?」
「え?お、俺に聞かないでくださいよ。結婚もしてないのに」
「・・・桐島に訊くべきか・・あいつは子育ての先輩だし・・」
ぽそりと呟いた父・京司朗は悩ましい。
これまでもおかしな替え歌をそれとなく正してきたが、効果はない。そもそも美之は替え歌という認識も概念もない。
三上は悩む京司朗にとりあえずの打開案を提示した。
「みふゆお嬢さんに頼めば良いのでは?」
「お前、みふゆが正しく教えると本気で思ってるのか?」
「う・・、いや、・・うーん・・・」
三上は言葉に詰まった。
美之がこの歌を覚えたのは、昨年末のテレビ『年忘れ恒例日本の名曲紅白歌合戦』だった。
キラキラときらびやかな着物でステップを踏んで登場したその男性は、時代劇でおなじみの日本を代表する名優だ。
従える女性達もきらびやかに光を弾くピンクの着物を着て踊っている。美之の心はガッチリとつかまれた。
美之はこのキラキラな煌めく着物と楽しげな曲のイントロを聞いた瞬間、テレビの前を陣取って見よう見まねで踊りだした。そして一度聞いただけで歌のサビを覚えたのだ。
一度聞いて覚える━━━━そう。子供とは、みな天才である。
しかし、五年分しか生きていない脳みそには正しい日本語として覚える機能に限界があった。正しい日本語より耳に聞こえた感覚的日本語のほうが勝っていたのである。
歌は美之の都合のいいように変えられていった。
おまけに母親のみふゆから、
『みゆちゃんすごい!天才!かわいい!素敵!!』
と、圧倒的な支持と賞賛を受け、美之は余計気を良くして自信を持った。
「・・・、代表、間もなくオンライン会議が始まります」
三上は仕事に逃げた。
「・・・、そうか、そんな時間か」
京司朗も仕事に逃げた。
「あ、おとーさんだ!」
朗が京司朗を見つけた。ちょうど書斎に入るところだった。
「ぼく、おとーさんとあそぶー」
朗が立ち上がって京司朗の書斎に向かって走りだした。
「だめー!みゆちゃんがおとーさんとあそぶんだからー!」
美之が朗の後を追いかけた。
二人とも京司朗の元に行ってしまった。
一人残された司は二人が走り去るのを見てひとつため息をつくと、よっこらしょっと立ち上がり、またため息をついて朗と美之のあとを追った。
貴之はリビングから出て行った三つ子達のあとをそっと追った。
朗と美之が書斎のドアノブに悪戦苦闘している。上手く開けられないようだ。
「ちゅかさー、ドアあかないよー、あけてー」
美之が言うと、司はドアノブに両手をのばしてつかんだ。
このドアは開けるのにコツがある。三つ子達が勝手に入らないようにしてあるのだ。
だが、司は賢い。開け方を知っている。
ドアがカチャリと開いた。
朗と美之が我先にと部屋に飛びこんだ。
「おとーさん!!あそんでー!!」
誰もいない。
確かにこの部屋に入ったはずなのに。
机の上には開かれたパソコンがある。
朗と美之の目がキラーンと輝いた。
惣領家では今日も美之(五歳)の歌声が響いている。
覚えたばかりの新しい歌だ。
今日は歌にあわせた衣装も公開する。
ステージはリビングに併設のかつてのサンルーム。みふゆの部屋であり、三つ子達の部屋でもある。
衣装はキンキラピンクのラメ入りゆかたにキラキラの魚の飾りが縫いつけてあり、派手である。
魚が異常に好きな美之のために、みふゆが金銀の折り紙で折って手ずから飾り付けたお手製衣装だ。ついさっき仕上がり、着せてもらったのだが、みふゆは細かい作業に疲れたのか、ソファでうとうとし眠ってしまった。
代わりに三つ子達の見守りは惣領貴之がベランダで一服しながらしている。
美之は司と朗を目の前に立った。
ちゃんと振り付けもあるので美之は両手をパッとあげ、腰を左右に振った。
「おーねぇー!おーねぇー!
マチュケンサーンマー♪おーねぇー!おーねぇー!!マ・チュ・ケ・ン・サーンマーー♪♪♪」
司と朗が正座しながら美之を眺めてパチパチと手をたたいている。二人は観客役である。
「さーあ♪ポイせよ♪アミ(網)ーを!♪おんもーで♪せのりんだ♪♪♪ねむいシャケマイワシサンマとあそーぼーーー♪♪サーンマ!ビーバ♪サーンマ!マ・チュ・ケ・ン・サーンマーアアアーー♪♪♪オッネェイ!!」
美之はドヤ顔で両手をバッと広げ決めポーズだ。
歌いきって大満足。
「みゆちゃんかわいー」
「みゆちゃんすごーい」
司と朗は美之を讃えているが、棒読みである。
すごくめんどくさそう。
そんな三つ子達を、リビングの入り口で立ちすくんで見ていたのがスーツ姿の二人の男だ。
「三上・・、俺は美之に正しい歌詞を教えるべきなのか?」
「え?お、俺に聞かないでくださいよ。結婚もしてないのに」
「・・・桐島に訊くべきか・・あいつは子育ての先輩だし・・」
ぽそりと呟いた父・京司朗は悩ましい。
これまでもおかしな替え歌をそれとなく正してきたが、効果はない。そもそも美之は替え歌という認識も概念もない。
三上は悩む京司朗にとりあえずの打開案を提示した。
「みふゆお嬢さんに頼めば良いのでは?」
「お前、みふゆが正しく教えると本気で思ってるのか?」
「う・・、いや、・・うーん・・・」
三上は言葉に詰まった。
美之がこの歌を覚えたのは、昨年末のテレビ『年忘れ恒例日本の名曲紅白歌合戦』だった。
キラキラときらびやかな着物でステップを踏んで登場したその男性は、時代劇でおなじみの日本を代表する名優だ。
従える女性達もきらびやかに光を弾くピンクの着物を着て踊っている。美之の心はガッチリとつかまれた。
美之はこのキラキラな煌めく着物と楽しげな曲のイントロを聞いた瞬間、テレビの前を陣取って見よう見まねで踊りだした。そして一度聞いただけで歌のサビを覚えたのだ。
一度聞いて覚える━━━━そう。子供とは、みな天才である。
しかし、五年分しか生きていない脳みそには正しい日本語として覚える機能に限界があった。正しい日本語より耳に聞こえた感覚的日本語のほうが勝っていたのである。
歌は美之の都合のいいように変えられていった。
おまけに母親のみふゆから、
『みゆちゃんすごい!天才!かわいい!素敵!!』
と、圧倒的な支持と賞賛を受け、美之は余計気を良くして自信を持った。
「・・・、代表、間もなくオンライン会議が始まります」
三上は仕事に逃げた。
「・・・、そうか、そんな時間か」
京司朗も仕事に逃げた。
「あ、おとーさんだ!」
朗が京司朗を見つけた。ちょうど書斎に入るところだった。
「ぼく、おとーさんとあそぶー」
朗が立ち上がって京司朗の書斎に向かって走りだした。
「だめー!みゆちゃんがおとーさんとあそぶんだからー!」
美之が朗の後を追いかけた。
二人とも京司朗の元に行ってしまった。
一人残された司は二人が走り去るのを見てひとつため息をつくと、よっこらしょっと立ち上がり、またため息をついて朗と美之のあとを追った。
貴之はリビングから出て行った三つ子達のあとをそっと追った。
朗と美之が書斎のドアノブに悪戦苦闘している。上手く開けられないようだ。
「ちゅかさー、ドアあかないよー、あけてー」
美之が言うと、司はドアノブに両手をのばしてつかんだ。
このドアは開けるのにコツがある。三つ子達が勝手に入らないようにしてあるのだ。
だが、司は賢い。開け方を知っている。
ドアがカチャリと開いた。
朗と美之が我先にと部屋に飛びこんだ。
「おとーさん!!あそんでー!!」
誰もいない。
確かにこの部屋に入ったはずなのに。
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