【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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番外編 咲く花、散る花 (4) 名前の秘密

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本当の父親のように、みふゆを一番に考えてくれる惣領貴之。

『みふゆ、お前はもっと俺に甘えていいんだ』
『俺はお前を娘として扱うぜ』
『まだまだ子供じゃねえか』

今までの貴之の行動、言動が頭のなかでぐるぐると回る。

違う。これは偶然。きっと。偶然。

スケッチブックの『惣領貴之』の文字が目に入った。


そうりょう・・たかゆき・・・

たかゆき・・・

たか・・、ゆき・・・?


みふゆは息を止めた。


小学五年の、自分の名前の由来を調べる課題に答えた母・礼夏の言葉を思い出したのだ。

『みふゆという名前はね・・・』



京司朗は夜の九時を回る頃事務所から帰ってきた。
帰ってきてすぐにまたスケジュールの変更の追加をしていた。特に重要な仕事は会長である惣領貴之か黒岩正吾が引き継ぐが、段階的に三上や桐島に割り振って部下の経験値を高めたいと考えていた。

室内の電話が鳴った。みふゆからだ。
『聞きたいことがあるから今から部屋に行ってもいいか』とみふゆの声がした。


「どうした?」
「ごめんなさい。あの、聞きたいことがあって・・・あの・・」
みふゆは躊躇していた。
「あの・・、もしかして・・お父さんは・・・わたしの・・・本当のお父さんですか・・・」
京司朗が驚きの表情を浮かべた。
「あの、わたし・・!」
「直接訊くといい。その方が・・、きっといい」

京司朗が静かに答えた。

そう、京司朗が答えを出した。

答えはみふゆの胸に突き刺さった。






貴之は自室で報告書を読んでいた。
惣領家一族に巣喰う血族主義者達の報告だ。

血族主義と言う割りにはほとんどが惣領家の“血”とはすでに遠い。
もはや他人ではないかという者達に限ってわずかに繋がっている“血”を振りかざし、血族の結束を固めなければならないと語り出す。

先代や先々代の功績を考慮して出しゃばっても見逃してやっていたが━━━━━

惣領家一族の中枢を担っていた二条家が消えたのも“血”にこだわりすぎたからだ。
かつて堀内健次を担ぎ出し、最終的には全ての責任をとる形で消滅した二条家。

━━━━さて、残りのこいつらをどうするか

貴之は思案中だ。


「京司朗です。よろしいでしょうか?」


障子の向こうから声がして、貴之は「入れ」と言った。

障子がするりと開くと、居たのは京司朗とみふゆだ。

貴之は報告書を閉じた。

「どうした?二人そろって・・。まあ、中に入れ」

京司朗が入り、みふゆはうつむいたまま部屋に入った。

みふゆは貴之の正面に座ったがうつむいたまま、「あの・・」と言ったきりなかなか話せなかった。

「どうしたんだ?みふゆ?」

貴之の優しい声に、みふゆは意を決して顔を上げて貴之に問いかけた。

「本当の・・お父さんなんですか・・・?」

みふゆの必死な表情に貴之は迷った。

「なんで・・そう思った・・・?」

みふゆは泣きそうな気持ちを抑えて答えた。

「お守りが・・、お母さんから貰ったこのお守り袋が和尚様の袈裟と同じで・・・」

「そうか・・。それで俺を本当の父親と思ったのか?」

「名前も・・」

「名前?」

「小学生の時に、自分の名前の由来を調べる課題があって・・・、お母さんに聞いたんです」

『みふゆという名前にはね、秘密があるの』
『ひみつ?』
『みふゆの名前にはお父さんの名前が隠れてるの』

「お父さんの名前?」

「はい。青木の父の名前は重弘なので、みふゆの名前のどこに隠れてるのか知りたくてもう一度聞いたんです。そしたら」

『だから秘密なのよ。でもね、お母さんはお父さんをとても愛してるから、たった一人の子供のあなたにお父さんの名前を隠したのよ』

「お母さんはわたしの名前は漢字にすると美しい冬だと言ってました。でもお父さんの名前を隠すには平仮名のみふゆにしなければならなかったと言ったんです。・・お母さんは“みふゆ”の“冬”に“雪”を隠したんです。でも“貴之”の“ゆき”は降る“雪”ではないから、お母さんはわたしに平仮名の“みふゆ”と名付けて、“たかゆき”の“ゆき”を隠したんです」

貴之は絶句している。

「・・わたし、順さんが本当のお父さんじゃないかって思ったことがあって・・。海外に単身赴任だったとしてもあまりにも赤ちゃん時代のわたしと青木のお父さんが一緒に写った写真が無くて・・・でも青木のお父さんはいつも優しくて、わたしをとてもかわいがってくれたから・・」

みふゆが涙を落とした。

耐えられなくなった貴之は
「すまねぇ・・!」
と声を振り絞った。

「すまねぇ、みふゆ・・!俺が、俺が諦めずに礼夏を探し続けていれば・・・!」

みふゆは首を横に振った。

「いいんです。たくさん事情があったんだと思います。だからもういいんです。わたしは・・お父さんが本当のお父さんで・・よかったと・・・」
そうだ。よかったのだと、みふゆは自分に言い聞かせ、そのあとの言葉が続かなかった。
貴之の深く広い愛情は、実の父としての愛情だったのだ。
みふゆは初めての想いを完全に断ち切った。
初めての想いに名をつけるなら“初恋”だ。
実の父なら恋をしてはならない相手だ。最初から愛してはならないひとだったのだ。
いつの間にか芽生えていた想いをなかなか断てなかったが、今日━━━━━

貴之は、みふゆを実の娘と子供と知って愛してくれていただけだったのだ。

「この御守りを見た時にもしやと思った」

貴之が御守りを握っているみふゆの手をとった。

「権現寺のこの御守りは身内と霊能力の高い者に渡されていた御守りだ。手にしたのはわずか数人だ。お前の母親の名が“礼夏れいか”だと聞いて、年齢を逆算した。お前には悪いと思ったが勝手にDNA検査をして親子の証明がされた」

出所後に礼夏と出会い愛し合ったが、礼夏は姿を消した。探したが見つからず、諦めてしまったことを貴之はみふゆに詫びた。


まさかこんな形で実の親子であることをみふゆが知るとは思わなかった。

貴之自身、打ち明ける機会を探っていたが、みふゆの体調がもう少し落ちついてからと考えていた。

袈裟は何種類かあり、兄・一心が今日着用したのは先代の住職が好んで身につけていた袈裟だ。

礼夏に修行をつけた、先代権現寺住職・惣領要一。


兄・一心がわざと御守り袋と同じ柄の袈裟を選んだと貴之が知ったのは、翌日のことだった。











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