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190. ロンド~踊る命~ -7- 愛情 ①
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堀内の乗ったエレベーターが一階についた。ドアが開き、堀内はたまたまエントランスの自動ドアの向こうに走り去る女の後ろ姿を見た。
━━━林?
後ろ姿が林香苗に似ていた。
性欲を晴らすために愛人にしていた、店の従業員だった女だ。
林香苗は過去の行いの恨みを買い、未だに追われていることがわかったのだ。堀内は面倒事に煩わされるのを嫌い、林を切り捨てた。
手切れ金はじゅうぶんな額を渡した。
逃げるために堀内からの手切れ金でフィリピンに渡ったまでは確認がとれていた。
堀内は走り去った女に引っかかりながらもアユミの待つ駐車場に足を向けた。
駐車場が騒がしい。
マンションの管理人と数人の人間が堀内の車のそばにいる。
管理人は電話を片手に話していたが、堀内に気づいて、
「社長!社長!この娘社長の知り合いじゃないのかい!?」
と地面を指さした。
車のそばにアユミが倒れている。
ナイフがつき刺さっていた。
━━━━なんていい天気なんだろ。
ベッドのみふゆの瞳に映る、窓の向こうの青い空とモコモコの白い雲。ふんわりではなく、密度の高い、モチッとする感じのそんな雲だ。乗ってみたい。
雲の動きが風の無さを教えてくれている。日なたぼっこにもちょうどいいはずだ。
壁掛け時計を見ると十時三十分になるところだ。
━━━━お庭にも出たいけど・・
室内のソファには貴之と京司朗が座っている。テーブルの上に大きな地図のような大判の紙を広げ、京司朗が説明をしている。胡蝶はパソコンに何かを入力している。
ひとつの部屋に、それぞれが自由に存在している。
みふゆはそんな彼らの存在を感じていたかった。
いつまでも眺めていたい美しい自然の風景───今日でいえば青い空と白い雲───に匹敵する、“人間”という輝く生命の存在。
それぞれの成すべきことをしながら、決してみふゆのことを忘れていない。
彼らの愛情にみふゆは感謝の気持ちを伝えたかった。
━━━━なんて伝えればいいんだろ・・
この感謝の気持ちをどう伝えればいいのかみふゆは悩んだ。なかなかうまい言葉が見当たらなくて、天井を見上げて目をつぶった。
「どうした?苦しいのか?眉間にシワよってるぞ」
いつのまにか貴之がみふゆの顔をのぞいていた。
「あ、大丈夫です!あの、違うんです。あの、リハビリは・・、今日は・・」
感謝の気持ちを伝えたくて考えていたとは言えず、当たり障りのないことを口走ってしまった。
「昨日の今日ですもの。様子をみましょう。リハの森永先生には私から話をしてあるわ」
「・・・お庭には出てもいいですか・・?」
「体が怠くなければいいわよ」
素直になれなかったみふゆに胡蝶が微笑んだ。どんなときでも美しい胡蝶だ。この美しい胡蝶を母の代わりとしての『ママ』と呼べるのも幸福なことだ。
伝えられないままでは後悔するのは目に見えている。悩んでいてもしょうがないと、みふゆは意を決して感謝の気持ちを伝えようとした。
が━━━
「胡蝶、お前はもう帰れ。帰って休め」
貴之に阻まれてしまった。
「あら、私は平気ですわよ。仮眠をとりましたし。会長こそお休みになったらいかが?」
「俺だってこのくらいは余裕だぜ。バカにすんなよ」
貴之と胡蝶が体力自慢のちょっとした言い合いを始め、みふゆは京司朗の袖を引っ張った。
「もしかしてみんな徹夜ですか・・?」
「ん?まあ、そんなところかな」
京司朗はみふゆの顔に指を伸ばし、頬に張りついていた髪の毛を耳の後ろに流してくれた。
京司朗の男らしい手と優しい表情にみふゆはまたドキリとした。
固いつぼみがほころぶような京司朗の笑みは、いまや満開に咲きほこる華やかなシャクヤクを思わせる。
以前の、みふゆに対して発していた警戒と疑心の『目』はもうどこにもない。
京司朗から感じるのはひたすらな優しさだけだ。貴之と同じだ。
堀内の乗ったエレベーターが一階についた。ドアが開き、堀内はたまたまエントランスの自動ドアの向こうに走り去る女の後ろ姿を見た。
━━━林?
後ろ姿が林香苗に似ていた。
性欲を晴らすために愛人にしていた、店の従業員だった女だ。
林香苗は過去の行いの恨みを買い、未だに追われていることがわかったのだ。堀内は面倒事に煩わされるのを嫌い、林を切り捨てた。
手切れ金はじゅうぶんな額を渡した。
逃げるために堀内からの手切れ金でフィリピンに渡ったまでは確認がとれていた。
堀内は走り去った女に引っかかりながらもアユミの待つ駐車場に足を向けた。
駐車場が騒がしい。
マンションの管理人と数人の人間が堀内の車のそばにいる。
管理人は電話を片手に話していたが、堀内に気づいて、
「社長!社長!この娘社長の知り合いじゃないのかい!?」
と地面を指さした。
車のそばにアユミが倒れている。
ナイフがつき刺さっていた。
━━━━なんていい天気なんだろ。
ベッドのみふゆの瞳に映る、窓の向こうの青い空とモコモコの白い雲。ふんわりではなく、密度の高い、モチッとする感じのそんな雲だ。乗ってみたい。
雲の動きが風の無さを教えてくれている。日なたぼっこにもちょうどいいはずだ。
壁掛け時計を見ると十時三十分になるところだ。
━━━━お庭にも出たいけど・・
室内のソファには貴之と京司朗が座っている。テーブルの上に大きな地図のような大判の紙を広げ、京司朗が説明をしている。胡蝶はパソコンに何かを入力している。
ひとつの部屋に、それぞれが自由に存在している。
みふゆはそんな彼らの存在を感じていたかった。
いつまでも眺めていたい美しい自然の風景───今日でいえば青い空と白い雲───に匹敵する、“人間”という輝く生命の存在。
それぞれの成すべきことをしながら、決してみふゆのことを忘れていない。
彼らの愛情にみふゆは感謝の気持ちを伝えたかった。
━━━━なんて伝えればいいんだろ・・
この感謝の気持ちをどう伝えればいいのかみふゆは悩んだ。なかなかうまい言葉が見当たらなくて、天井を見上げて目をつぶった。
「どうした?苦しいのか?眉間にシワよってるぞ」
いつのまにか貴之がみふゆの顔をのぞいていた。
「あ、大丈夫です!あの、違うんです。あの、リハビリは・・、今日は・・」
感謝の気持ちを伝えたくて考えていたとは言えず、当たり障りのないことを口走ってしまった。
「昨日の今日ですもの。様子をみましょう。リハの森永先生には私から話をしてあるわ」
「・・・お庭には出てもいいですか・・?」
「体が怠くなければいいわよ」
素直になれなかったみふゆに胡蝶が微笑んだ。どんなときでも美しい胡蝶だ。この美しい胡蝶を母の代わりとしての『ママ』と呼べるのも幸福なことだ。
伝えられないままでは後悔するのは目に見えている。悩んでいてもしょうがないと、みふゆは意を決して感謝の気持ちを伝えようとした。
が━━━
「胡蝶、お前はもう帰れ。帰って休め」
貴之に阻まれてしまった。
「あら、私は平気ですわよ。仮眠をとりましたし。会長こそお休みになったらいかが?」
「俺だってこのくらいは余裕だぜ。バカにすんなよ」
貴之と胡蝶が体力自慢のちょっとした言い合いを始め、みふゆは京司朗の袖を引っ張った。
「もしかしてみんな徹夜ですか・・?」
「ん?まあ、そんなところかな」
京司朗はみふゆの顔に指を伸ばし、頬に張りついていた髪の毛を耳の後ろに流してくれた。
京司朗の男らしい手と優しい表情にみふゆはまたドキリとした。
固いつぼみがほころぶような京司朗の笑みは、いまや満開に咲きほこる華やかなシャクヤクを思わせる。
以前の、みふゆに対して発していた警戒と疑心の『目』はもうどこにもない。
京司朗から感じるのはひたすらな優しさだけだ。貴之と同じだ。
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