【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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157. 夜は明けて

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───貴之・・、貴之・・・、


『礼夏?』

───貴之、あなたに話がある

『礼夏、俺もお前と話したい』

───住職にわたしを呼び出してもらってほしい

『兄貴か?』

───そうだ。わたしを閉じ込めていた結界が壊れた今なら、呼び出しに応じられる。みふゆに・・

『礼夏?』

───み・・に・・・はなし・・・

『礼夏?!』




「礼夏!」

貴之が飛び起きた。
時計が午前六時をさしている。
床についたのが午前三時過ぎ。三時間ほどは眠ったらしい。
窓の障子が白く柔らかに輝いている。朝の眩しい光を吸い込んでいるのだ。

━━━礼夏が夢に出てきた・・、最後に何を言ったのか・・みふゆに何か伝えたかったのか・・・

貴之は布団を出ると白梅の間の隣にあるバスルームに入った。洗面台の鏡に自分が映る。
年齢としも六十になると、髪に白いものがまじって、日に日に年をとる自分と向き合わなくてはならなくなる。
礼夏は若いままだったのに。
自分だけが年をとっていくことに不条理さを感じる。
━━━生きてきた証しだ・・

寂しいけれど、年をとるのは肉体を持つ、生きてきた証しだ。

貴之は熱いシャワーを浴び、身なりを整え、遅くなったが読経を行うために仏間に向かった。




「会長、起きられたようですね」
使用人頭の本橋が、京司朗にコーヒーを出した。
「ああ。なぜ起こさなかったと文句を言うかもな」
京司朗はパソコンでの情報チェックをやめ、コーヒーを手にした。読経の声がリビングまで聞こえている。
「起こしたけど起きなかったんだからしょうがありませんよ」
「起こしたのか?」
「問われたらそう答えます。疲れてる時は時間に関係なく眠ったほうがいいんですから」
本橋が笑いながら厨房に戻った。
この屋敷で貴之をやり込めることができるのは本橋くらいだ。
京司朗は軽く笑い、コーヒーを一口のんだ。

本橋は屋敷に住み込みだが、夜中の騒ぎをまったく知らないと言った。
京司朗は、詳しい内容は教えず、山の獣が侵入し捕り物騒ぎがあったと伝えたが、気づかなかったと本橋から返答された。
他の住み込み従業員も同様だった。

現実と、異なる世界が入り混じった時間。外界からは閉じられていたのかもしれない。

京司朗はみふゆを思い浮かべた。
十二単の女がみふゆの母親なら、娘のもとにも行ったのではないか。






今朝は珍しく胡蝶が早い時間に単独で病室を訪れた。
いつもなら起きているみふゆがまだ眠っている。
午前六時ちょっと前。

胡蝶は惣領の屋敷に貴之を迎えに行ったが、まだ起きていないと言われ、京司朗から夜中の出来事についての説明を受けた。
病院に来ると、こちらはこちらで、やはり楓から夜中に唐衣裳姿からぎぬもすがた(十二単)の女が現れたと告げられた。
「唐衣裳、ぱっと見ただけでもかなり豪華な代物だったわよ」
楓が言った。


朝食が運ばれる七時半。ようやく起きたみふゆは車椅子に移り、洗面所で朝の身支度を終え、ベッドに戻るのではなく、食事用のテーブルについた。
「こんなにぐっすりと眠ったのは初めてです」
みふゆは貴之が貸してくれた数珠のおかげだと感動していた。

誰にも言ってないが、みふゆは家にいても真夜中、霊の気配で起こされることが多かった。
母親の遺した護りの鈴を窓に置いてあるせいか、家に入れず、ガラス窓を叩いて注意をひこうとするモノ達だ。

病院ならばどれだけ迷っている死者が多いかと警戒したが、それほどでもなかった。もっとも一人二人いても、みふゆは気配で目が覚めてしまう。 
それが貴之の数珠を持ったとたん、何も感じず眠ることができた。

「さすがお父さんの数珠です」
「会長が来たら言っておあげなさい。喜ぶわよ」
「はい」
「食事はテーブルで大丈夫?」
「はい!」
みふゆは気合いが入っている。
ぐっすり眠れたせいか、すこぶる調子がいい。
昨日まで、食事はすべてベッド上だった。でも今日からは歩くためのリハビリも始まる。
ベッドでばかり過ごしていないでどんどん動こう。動けば食欲ももっと出る。

今朝は胡蝶、楓、みふゆ、女三人で朝食となった。
「女子会よ。女子会!」
楓が言いながら、保温カートから朝食のプレートを出してくれた。

「さあ、食べましょう」

胡蝶がカフェオレをいれて持ってきてくれた。
みふゆには手に持ちやすい白のマグカップ。胡蝶と楓はソーサー付きの白いコーヒーカップだ。

朝食メニューは、フレンチトースト、胡蝶がいれてくれたカフェオレ。柔らかく蒸した鶏のササミと温野菜のサラダ、湯むきされたミニトマトのマリネ。果物はカットされた梨とオレンジ、コンポート皿にマスカットとプルーンが盛られている。ヨーグルトにはブルーベリーとストロベリーのソースが用意され、蜂蜜の小さなポットも並べられた。
みふゆはオレンジに目を奪われた。 外皮がきれいに剥かれ、ひとつひとつ薄皮から取りだされた、くし形のオレンジだ。 

「オレンジ・・」

みふゆがつぶやいた。

「オレンジを先に食べてもいいのよ」
胡蝶が優しく答えた。

「きれいに皮を剥かれてすごいなって思って。若頭が切ったんですか?」

みふゆの質問に、胡蝶と楓は戸惑った。








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