【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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142. 再会

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堀内は足先を別棟へと変えた。通常、中央庭園に出るには、別棟にあるカフェ内のドアから出るしかない。
入院病棟の一階から連絡通路を通り、別棟へと渡った堀内は、受付で発行された病院への入棟許可のIDカードを出入り口でかざした。自動ドアが開き、常駐の警備員が監視するなか、堀内はカフェに入った。

広々としたカフェは庭側が全面ガラス張りで、席からは庭園の季節の花や木々を眺めることができる。庭に出られない患者に人気があり、席数は少ないがテラス席もあった。

堀内が庭に出るためカフェの通路を歩くと、席に座っている客たちから視線を集めた。
グレーのVネックのTシャツにジーンズと、出で立ちは普通なのだが、堀内も190近い身長と、筋肉質な大柄な体型からか、目立ってしまうのは仕方なかった。

カフェ内のドア横にも警備員がいる。この病院の出入り口には必ずといっていいほど警備員がいる。全員が惣領貴之の持つ警備会社の社員だ。

貴之は元受刑者の受け皿としての会社を幾つも持っている。刑期を終え出所しても、社会に受け入れられるとは限らない。元受刑者が再犯に走るのを防ぐためにも、腕っぷしに自信のある者は寺で修行後、警備職に就かせるなど、貴之はあらゆる形で適材適所の雇用を作り出していた。

堀内は警備員にIDカードを見せ、庭に出るドアを解錠し、惣領貴之とみふゆを探した。



貴之とみふゆはカフェから遠いコスモス畑のそばにいた。白やピンクのコスモスが咲き乱れ風に揺れている。

「鳥が・・」
車椅子のみふゆが空中を見上げた。鳥が翼をパタパタと動かし『浮いて』いるのだ。
頭と背中が黒く、腹は白い。スマートな鳥だ。
「ホバリングか・・。セキレイだな」
真横のベンチに座って、貴之がみふゆと同じ目線で答えてくれた。セキレイは空中でホバリングを続け、花壇沿いの歩道に舞い降りた。
温かな午後。日向ぼっこにはちょうど良い。
熱の上がり下がりで病室から出られなかったみふゆは、この日久しぶりに太陽の日差しを直に浴びていた。
舞い降りたセキレイは、歩道をピョンピョン跳ね歩くと、みふゆと貴之の視線に気づいたのかサッと逃げていった。
みふゆは「・・、逃げちゃった」と寂しげに呟いた。
「すぐにまた来るさ」
貴之が懐から煙草を出そうとした時だ。みふゆが「わ・・!」と、小さく声をあげ体を縮こませた。
蜂がみふゆの頭の側でぶんぶんと飛び回り、止まろうとしていた。
貴之が急いで手で追い払うと、蜂は止まるのを諦めたのか飛び去った。
「ふてえ野郎だな。俺の娘に簡単に触ろうとしやがって」
貴之が忌々しげに言うと、みふゆは笑った。貴之はみふゆの頭を抱き寄せて、「刺されなかったか?」と心配した。


親子というよりやはり恋人同士のようだと、堀内は遠目から見ていた。

電話をすればいいのかとスマホに手を伸ばしたが、面倒になり再び足を進めた。


「あっ!」
みふゆが急に両手を広げて差し出し貴之は驚いた。差し出した両手の先を見ると堀内がいた。
みふゆはまるで抱き締めてくれと言わんばかりに満面の笑みを堀内に向けている。

病院にきたら連絡をしろと言ったのに、直接ここに来たのは大塚にでも会ったのか。
みふゆとの時間を邪魔されてかんにさわった貴之は堀内を睨んだが、みふゆは、
「社長!」
と、堀内を呼び、両手を広げて笑顔で歓迎ムードだ。

堀内はみふゆの無防備な笑顔に心臓が跳ねた。警戒心が強く、隙を作らなかった青木みふゆの初めて見せるかわいい笑顔だった。

「よお、元気そうじゃねぇか」
堀内もみふゆに笑顔をむけられ満更でもない顔だ。しかしみふゆの歓迎は、
「おみやげー!!」
と堀内の持ってる紙袋に向けられていた。
堀内の、満更でもない表情が一瞬で固まった。

「青木!俺を見て第一声がそれか!?」
「他に何が・・」
みふゆは戸惑った顔でいたって真面目に答えた。
貴之が声を押し殺して笑っている。
一瞬でも期待した自分がバカバカしくなった堀内は、あきらめて見舞品の紙袋をみふゆに押し付けた。
「糸川と山形からもだ。俺のには洋平のも入ってる」
「大きいのはぴーちゃんですね」
みふゆは真っ先に大きな紙袋を嬉しそうに開け、黄色いモフモフとした物体を取り出した。
「ほら!」
巨大なひよこが姿を現す。
「部屋にも同じのがあります。三月の今年の誕生日にもらったんです。寝る時の抱っこ用に」
みふゆはぎゅっとひよこを抱き締めて、モフモフの肌触りを堪能した。ふわふわと柔らかい。部屋にあるのと同じだ。それだけで安心する。
「これで抱っこして寝れます」
「なんだ、ぬいぐるみが欲しかったならいつでも買ってやったのに」
貴之が言うと、
「手作りなんです。売ってないんです」
みふゆはひよこを抱き締めたまま顔を埋めた。
「そういや山形のかかあは昔縫製工場持ってたな。今でも縫い物はやってんのか」
「縫製の腕は確かだ。エリカがたまに山形にドレスの縫製を頼む時がある」
「りんちゃんもドレス作りますよ。りんちゃんのはきっと写真集です」
ひよこを膝に乗せたまま、みふゆは糸川梨理佳の見舞いの紙袋を開けた。
「ほらね」
表紙は黄色のドレスを身につけたお姫様だ。結いあげた金髪を大きなリボンで飾り、前髪をピンでとめている。少し後ろには、よく似た顔の召し使いが控えている。
「誰の写真集だ?お前の好きなアイドルか?」
貴之が不思議そうにきくと、
「りんちゃん本人の写真集です」
「・・・本人??待て、本人って、」
「りんちゃんはコスプレ界でけっこう人気のあるコスプレイヤーなんです。あ、カードもある」
━━寂しくなったらりんちゃんを思い出してね━━
丸っこいピンクの文字は糸川梨理佳の独特の文字だ。

みふゆは堀内の紙袋をのぞいた。
「社長の重い・・。何が入って・・、・・これは洋平先生のお店の箱ですね」
花が散りばめられた白地の箱だ。
「ああ、カーディガンって言ってたぞ。病衣パジャマに羽織れるようにって」
「ふふ、嬉しいです。あとは・・」
みふゆは紙袋のなかにむき出しの分厚い本をみつけて手にした。ハードカバーのしっかりとした作りで、ついている帯には全ページカラーと書いてある。
「植物図鑑だ・・廃盤になったと思ってたのに・・下巻もある・・・」
「出版会社が倒産して廃盤扱いになってたが、知り合いが、返品できずに保管してた本屋をみつけてくれた。年数がさほどたってないからまだ新しいだろ」
「う、嬉しいです、すごく!ありがとうございます社長!」
みふゆは嬉しさを隠さない。図鑑と堀内を交互にみて所々ページをめくっていた。

喜ぶみふゆに、堀内は複雑な気持ちを抱えていた。
目の前にいるのは堀内の知っている青木みふゆではない。

少なくとも、以前の青木みふゆではないのだ。










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