【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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88. 後ろ髪引かれて

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昼食をごちそうになり、食後のお菓子に練りきりが出た。バラの練りきりだった。
クリーム色のバラで、花びらのふちが赤い、『ダブル デライト』(作出:1977年 H.C.Swim & A.E.Ellis アメリカ)というバラを模したそうだ。
『ダブル デライト』は松田家にはないバラだが、香りの強いバラなのだと胡蝶さんが教えてくれた。

「よーし、松田んえならうちの屋敷にはそいつも植えようぜ」
組長先生が唐突に言った。
組長先生は何故か松田さんと張り合う。子供みたいだ。
「京司朗、リストに入れとけよ」
「わかりました」
ほら、なんとなく若頭も笑ってる。

太陽の日差しが強くなり、暑さも増したことから、庭には出ずに、組長先生と松田さんの囲碁対決を終わるまでみていた。
結果は組長先生が勝つことなく終わった。
組長先生の悔しがる声が松田家に響いて、胡蝶さんが「いいかげん諦めたら?」と言った。組長先生は「誰が諦めるか!」と言い返し、わたしはこっそり笑っていた。


お屋敷に帰る頃、松田さんに伴われて巧さんが挨拶に来てくれた。

巧さんは松田家には住まず、寺で暮らし、仕事のあるときに松田家に出入りすることになったとのことだった。

「巧、落ち着いたらでいい。うちにも帰って来てくれよな」
組長先生は巧さんの肩に手を置いてそう言った。
「はい。ありがとうございます」
巧さんは静かに答え、次にわたしのほうを向いた。

「お嬢さん、今日は・・」

わたしは笑って挨拶をしようと思っていた。けれど、わたしの意思に反して、また涙が流れた。
何故なんだろう?
この人を見ると、声を聞くと、涙が流れるのは。
涙を流すわたしを見て、巧さんは、
「今日は・・ありがとう。会えてよかった」
と、言ってくれた。
「はい・・。はい・・!」
と、わたしの声が言った。
わたしじゃない、『誰か』だったような気がする。

車に乗ったわたしは、見送ってくれている松田家の皆さんと巧さんにもう一度お辞儀をした。

車は門を目指して走る。

わたしは再び後ろを振り向いた。

巧さんが立っている。

ずっとこちらを見ている。
あの人と別れるのは後ろ髪が引かれる。

きっとわたし達の車が見えなくなるまで見送ってくれるのだろう。

わたしも、巧さんの姿が見えなくなるまで振り向いたままでいた。








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