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63. 何を選ぶか (3) 予知能力
しおりを挟む『予知した内容は言ってはいけない。利用されるだけなのだから』
わたしがトラブルに巻き込まれた時に、お母さんはそう言った。
当時小学三年生だったわたしは、そのトラブルが原因で、転校するために引っ越すことになったのだ。
組長先生は腕を組んだまま、縁側で外を見ている。
再び強くなった雨と風に、考えごとをしているようだ。
倒れた銀杏や潰れたハウスの片付けは、台風が去ったあとにしろと、他の畑も田んぼも、間違っても様子を見にいったりするなと念を入れておけと、若頭に指示をしていた。
ところで若頭はめずらしいジャージ姿だ。ジャージ!
スーツしか見たことないから、普段着もスーツかと思ってた。今朝もYシャツにスラックスだったし。
本橋さんが紅茶を入れてくれて、ソファに座っていたわたし。
じろじろ見ていたわけではないが、
「どうかしましたか?」
と、若頭に気づかれてしまった。
「あ、えーと・・、ジャージ姿が珍しかったので・・・、すみません・・」
わたしは目をそらした。
「ああ、そうですね。今日の仕事は全てキャンセルしましたから。さすがにいつもスーツというわけではないですね」
若頭は少しばかり笑って答えてくれた。
組長先生は振り向いて、わたしのすぐ側の一人がけのソファに座った。
できれば予知云々の話はしてほしくない。
ただの偶然だと思っていてくれたら・・。
「さっきのようなことはよくあるのか?」
至極真面目な顔の組長先生。
やっぱり偶然とは思ってはくれなかったか。
「えーと・・たまにあります。しょっちゅうじゃないです」
「憑き物をおとす能力があるんだ。めずらしいことじゃねぇが・・・、気をつけるんだぞ」
「え・・・?」
「そういった能力は利用される。利用してやろうという輩が必ずいる」
「・・・はい・・、お母さん・・、母にもきつく言われました・・」
「お母さんにも・・?小さい頃からなのか?」
「子供の頃のほうが強かったかもしれません。それでトラブルを起こしてしまって、学校を転校するために引っ越しをしたんです」
組長先生にはごまかしはきかないだろう。
小学三年の時。
わたしはちょくちょく《小さな危ないこと》を予知していた。
転ぶ友人、ボールがぶつる友人、ガラスが割れてケガをする友人、階段から落ちる友人・・・。それらを予知することで、結果的に事故を防いだ形になっていた。
自分自身のことではなく、全てが自分の周囲のことだった。
こういったことが立て続けに起こると、さすがに周りも気がつき始めた。
『みふゆちゃんは不思議なちからを持っている。危険なことがわかる子だ』と。
それだけならよかったが、クラスの男子生徒が、『先のことがわかるならテストの問題もわかってるんじゃねーの?カンニングじゃねーか』
そう言われたあたりからわたしは孤立し始めたのだ。
わたしと一緒にいると、テストの問題も教えてもらってるんだろうと、からかわれるようになったからだ。
仲のよかった子達は離れていき、かわりにそれまであまり話さなかった子達が近づいてきた。
『あたし達がケガしそうな時は教えてね』
と言われたのを覚えている。
わたしは母に相談した。
母は、『これからは何があっても教えてはいけない』とわたしにきつく言い渡し、さっさと引っ越しとわたしの転校を決めたのだ。
『ろくでもない連中につきあってやることはない』
と、母は言った。そして、学校にはもう行かなくていいとも言った。
わたしは欠席を続け、勉強は父が教えてくれ、県外に引っ越し先が正式に決まった頃、担任教師から最後の思い出に遠足に参加してはどうかと連絡がきた。
母はもちろん断った。すると、クラスメートの以前仲のよかった子が数人、親と共に、仲直りしたいから遠足に一緒に行ってほしいと、家を訪れた。そのなかにはわたしが階段から落ちるのを助けた子もいた。
母はやはり断った。
玄関先でずいぶんやりとりをしていたが、母が許すことはなく、彼女達はあきらめて帰っていった。
大きな問題はこの後に起きた。
遠足のバスが、帰りに事故を起こしたのだ。
わたしのクラスのバスで、クラスの約半分が重軽症を負い、一人の子が死んだのだ。
以前階段から落ちるのを予知して助けた子だ。それ以来仲良くしてた子で、わたしの家に遠足の誘いにきた子だった。
噂がたったのは、その子の葬儀の最中で、参列した生徒が言いだしたという。
『遠足に来なかったのは事故が起きることを知っていたからだ』
死んだ子の親が再び訪ねてきた。
『知っていたならなぜ教えてくれなかったのか。そうすればうちの子は死なずにすんだのに』
もしもわたしが遠足に参加しても、事故が起きるのを予知できたのは帰りのバスに乗る頃か、乗ってからのはずだ。
わたしにわかるのは、ほぼ直前のことだけなのだから。
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