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62. 何を選ぶか (2) 破った約束
しおりを挟む大塚さんという男性は初めて会った人だった。
お屋敷のすぐ近く、歩いて二分の場所に自宅があり、クリニックを開業している医師だという。
一般人も診るが、ほぼ組長先生のところの社員(構成員)が患者らしい。
「桐島は擦り傷で勅使河原は足の捻挫と打撲だな。勅使河原は湿布と痛み止め出しとくわ」
タバコをふかしながら、白髪まじりのひげ面・大塚さんは言った。
「いま松葉杖持ってくるから待ってろよ勅使河原」
ひょうひょうとした感じの大塚さんはそういいながらクリニックに戻ろうとしたが、すぐにまた振りかえって、
「そこのお嬢ちゃん、見かけん娘だな?」
わたし?!
「あの、初めまして!わたし、青木」
「おう!俺の娘よ、俺に似てかわいいだろ?」
組長先生がわたしの肩を抱いて引き寄せた。
「!?」娘!?
大塚さんは「あははははははははははははは」と笑い、
「━━━なんの冗談だ?」
真面目顔で組長先生を一蹴した。
「チッ、相変わらずノリの悪い男だなおめーはよ」
「ノリは悪くても腕がよけりゃあいいんだよ。あんまり俺を悪く言うと、てめーが心臓発作起こした時診てやんねぇからな」
え!?
「組長先生、心臓悪いんですか?!」
わたしは心臓の悪い人に二回も(わたしを)運ばせてしまったのか?!
「大塚ぁ、てめーふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ。かわいそうに信じちまったじゃねぇか!」
「大丈夫大丈夫。そいつは殺しても死なねえよ、はははははは。安心しろお嬢ちゃん」
大塚さんは笑いながらお屋敷から出ていった。
真っ赤な・・車(車種がわからない)に乗って。
「趣味の悪いクルマだぜまったく」
組長先生は毒づく。
「・・組長先生、ほんとに・・・」
「おいおい、俺が心臓悪いようにみえるか?ん?」
「見えませんけど」
見えないけど、うちはお父さんもお母さんも突然倒れてるからなぁ。ふたりともまだ30代半ばくらいだったのに。
「だろ?大塚の馬鹿の質の悪い冗談さ。さ、ちょっと厨房のぞいてくるわ」
組長先生は厨房へ姿を消した。おなかでも空いた?
あれ・・、
そういえば組長先生の周りに集まってきた人達がいつのまにかいなくなってる。
若頭は電話で、なんだかいろいろ指示を出している。終わると桐島さんに、奥さんに連絡したかを尋ねた。桐島さんが「あ、まだです」と答えると、
「すぐ連絡しろ。心配してるだろう。倒木の音が響いたからな」
と、桐島さんの奥さんを気遣っていた。
わたしはイスに座っているベリー君の様子を見に近づいた。
「ベリー君、大丈夫?」
「はい。大丈夫です。打ち身とひねっただけだから。大塚さんも二週間もすればよくなるっていってくれたし」
「勅使河原、お前は治るまで作業はするな。寮で大人しくしてろ」
「え!?大丈夫です!足は松葉杖つけば歩けるし手はなんともありませんから!」
「そうか、そんなに仕事がしたいか」
「はい!」
「じゃあ事務作業を頼む。パソコンは扱えるだろう?」
「・・・・え・・?」
ベリー君、哀愁ただよってる。悲しそうだな。事務作業、苦手なのかな・・。
でも頑張れ!これからの君の人生にきっと役に立つぞ。
若頭に言われ奥さんに連絡を入れた桐島さんは、電話口でひたすら謝っていた。どうやら奥さんは泣いているらしい。いますぐ帰るから!と力強く宣言した桐島さんは電話をいったん切ると、わたしに近づいてきた。
「あの、お嬢さん、ありがとうございました。お嬢さんが木が倒れるのに気づいてくれたおかげで助かりました。ほんとにありがとうございました」
お礼を言われてしまった。
「いえ、・・、大きなケガがなくて良かったです」
「桐島、これ持っていけ」
組長先生が厨房から戻ってきて、桐島さんにレジ袋をつきだした。
「昨日の収穫のトマトだ。奥さんに食わしてやれや」
組長先生はいつも優しい。
「あ・・、ありがとうございます!!」
桐島さんはおもいっきり頭をさげ、トマトを受け取った。そのあとも何度も何度も頭を下げ、雨の中、自宅へ帰っていった。
わたしはベリー君からもお礼を言われ、そして、この人からも
「ありがとうございました。あなたのおかげで優秀な部下を失わずにすみました」
若頭。
この人も部下思いなんだな。実直な人だと、ベリー君の言ってた通りに。
でも・・、
『予知した内容は言ってはいけない』
お母さんとの約束を破ってしまった。
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