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21. 平凡に生きたい (3)
しおりを挟むわたしは平凡に生きたい。
空の青さを美しいと思い、道端に咲く小さな花をかわいいと思うこの感性を忘れずにいたい。
仕事をして、お腹が空いたら食べられるご飯があって、古くても暑さや寒さをしのげるおうちがあればわたしの人生は完璧だ。
一着20万円のクリーニングが必要なブランドワンピースより、スーパーの1900円の、自宅でざぶざぶ水洗いできる気に入った服がわたしには必要だ。
平凡こそ至高なるもの。
なのに・・・
トルコキキョウを花瓶に生けるだけのはずが、着物まで着せられてどうしてこんなことになってるのか。
お坊さんの格好をした組長先生の隣で、わたしは法要にいらっしゃった黒い服の皆様の紹介を受けるという奇妙なことに遭遇している。
これは果たして花屋の仕事に入るのか。営業の一つになるんだろうか。葬儀・法要のスタンド花、花束、アレンジメント各種承ります的な。
何人目かの紹介を受けた時、それまでは名前くらいの挨拶が、その人に関しては違っていた。
「嬢ちゃん、こいつは清和会の松田だ。うちの分家ってやつよ。規模のデカさもうちの次だ」
そう言われても、わたしのすることは一つしかないです、組長先生。
正座しているわたしは、手をついて挨拶をする。
「は、初めまして。堀内花壇の青木みふゆと申します」
倒れそう。
「松田と申します。今後ともお見知りおきのほど、よろしくお願いします」
目上の人にお見知りおきとか言われても、内心どうすればいいのかわからないです。ごめんなさい。
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします・・・」
マニュアル通りに答えるしかない。
すると、組長先生はわたしの頭をポンポンと軽くたたいた。
「松田、この嬢ちゃんは俺が特に目をかけてる娘だ。だがよ、堀内のとこにいるせいで、なんかあるんじゃねぇかって毎日心配でなぁ。おめーの方からもよろしく頼むわな」
「・・・わかりました。会長のご意向、必ず」
待って。なんの話?堀内って堀内花壇のこと?
わたしの知らないところで何かが始まるのか始まっているのかどうなっているのかそれよりいつまで続くんだこれーーーー。泣きたい。
目の端に、わたしをここに連れてきた、若頭と、組長先生にいつも付いてる黒岩さんが見えた。
こっちを見ているが、わたしを助ける気はこれっぽっちもないという姿勢が伺われる。
「大丈夫ですかね?お嬢さんいまにも倒れそうですぜ」
「ああ、帯がきついのかもな」
「いえ、そうじゃなくて」
ちょうどいいタイミングだったな。
この法要には特に主だった傘下の連中が集まる。
ここで一通り紹介を受ければ、会長の監視の目がなくてもあの娘に下手に手を出せなくなる。あらゆる所に『目』が出来るからな。
特に清和会の松田会長はあの男の兄貴分にあたる男だった。
奴がこの世界の義理を忘れてなければの話だが。
忘れたとしても、奴の手足になるような連中は、あの時削いでやった。
いまさら奴の手足になりたがる連中もいない。
それにしても会長はなぜこうもあの娘を気にかけるのか。
あの娘が隠し子とか?
「仙道さん、読経が始まります」
「ああ、いま行く」
まさか・・、な。
花屋の社長の女がいなくなって、話があると会長に呼ばれた。
会長は庭で、生ける花を選定していた。
パチンパチンと、茎を切る音がしていた。
切った花は横にいる黒岩に渡された。
「社長の女がいなくなった。林って女だ」
会長は花だけを見ていた。
「ああ、花屋に行った日、社長と寝てた女ですね」
俺は会長の後ろで答えた。
会長はピンクの紫陽花に手をかけた。
「もし野郎に本気で力ずくでこられたんじゃあ・・いくら嬢ちゃんが拒んでも、かなわねぇだろうなぁ・・」
鋏が、パチン、と音をさせる。
ピンクの紫陽花が黒岩に渡された。
「でしょうね」
会長は花だけを見ている。
「京」
青い紫陽花に手を添える。
「はい」
パチン、と鋏の音をさせる。
「なんとかしろや」
紫陽花の花の首が切り落とされ、
花の頭だけが土の上に転がった。
「京よ」
「はい」
「その紫陽花、生けておいてくれや。頭だけでも花ってのは役に立つもんよ。なあ?京司朗よ」
「はい」
━━━━俺の監視の目がなくても、社長が嬢ちゃんに手を出せないように━━━━
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